言葉にしておこう

僕は本来、音楽をしてお金をもらうなんてことは本来ありえないことだと思っている。
ありえなあいのにそれがあるから、ありがてえなあ、と思っている。

お金というのは何か製品なりサービスなり、供給されたものに対して支払う対価だからだ。

音楽は製品でもサービスでもなければ、そもそも供給されるものではない。愛、と同じでそこにただあるものだ。誰かのものになることができない。
所有モードから逸脱しているという点で、音楽は需要供給の概念のそとにあるものだと思う。

ではなぜお客さんは音楽を聴きに来て、それに対してお金を払うのか。
それは、音楽の持つ、ある作用によるものではないか。
人は、オントロギッシュな猿だから、存在するという事を考えることが出来る。だから存在に対して不安をおぼえたり、生きている意味を失って絶望できたりする。
生きている意味なんかないのに、あると勘違いしてそれを追い求めたり、やっぱりないとわかってニヒルなきもちになったり、いやまてよ、意味なんかないのに生きてるってすごくね?って思ったりする。
そういうことに、音楽を含めた藝術は資する作用を持っていると思う。
それが音楽の目的ではない、というかそもそも音楽にそもそも目的はない。が、そういう力はあると思う。

つまり、生きているうちは、生きていることを忘れている、生きながらにして、生きているということを思い出させてくれるのが音楽の力である。

お客さんはその「作用」に対してお金を払っているのではないか。

音楽が人間が生きるのに必要だとされているのはそのためではないか。
本来は死ななければわからないこと、生きているということ、をわからずに生きるのは辛い。
哲学はそれを教えてはくれるけど、その方向を指し示してはくれるけど、実際にそれを体験する、実感するのは自分のこの体だから、指し示してくれた方向に歩き出すことは、自分にしかできない。音楽はその助けとなって、一緒に歩いてくれる。そんな気がする。

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音楽はそもそも、在って在りつづけるものだから、誰かの音楽、よく「バッハの音楽」というような言い方をするけど、それは彼が音楽に近づこうとした証、軌跡、名残であって、バッハが音楽を作ったり、彼自身の音楽を彼自身が持っていたとかそういうことではない。
彼は受け取って、そしてそれをお返ししただけだ。

彼は「音楽の捧げもの」という曲を書いたけど、一般にはそれはフリードリヒ大王にバッハが「音楽」を捧げた、とされているけど、ドイツ語の文法からもその通りだけど、僕にはどうも字面通りには受け取れない。
音楽って、音楽から受け取って、音楽にお返しする、捧げもののようなものだよね。そんな気がする。

つまり僕らは日々音楽を音楽から受け取って、音楽を音楽に捧げている。この不毛な行ったり来たりが、「音楽する」という事なのだと思う。

だから音楽が、人間の一側面を映すものであるように、僕たちが音楽だと思っているのは、音楽の一側面にすぎない。バッハの音楽というのは、彼が死ぬほど努力して(彼は、「誰でも、私ほどに努力すれば、私くらいにはなれる」と言っています)、恐れ多くも音楽に近づこうとし、真摯に、謙虚に、そのわずかなひとかけらを切り取って、僕らにも見えるようにしてくれている。だから、彼のことを本当にわかろうとするなら、そのひとかけらではなく、彼が見たであろう音楽の姿そのものに近づかなければならない。
見えている木々が、森の一部であるように。

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音楽はまた、燃え盛る炎だ。そこにあるようで、ない。でも確かに暖かい。
不断に消滅と生成を繰り返す、我々の存在そのものだ。

だから、我々の存在に究極的な原因や理由が無いように、音楽にもそれが欠けている。
にもかかわらす、在る、だからこそ、スゲー。

だから僕らが云々できる音楽というのは、音楽が映し出した影か、音楽が及ぼした作用、なんじゃないだろうか。僕らは軽々しく、音楽、音楽と言うけれど、ほんとのところ、音楽の正体を見たことがある人なんかいるのかい?見たこともないものを、よくそれだけ饒舌に語れるよなあ、あなたが見たのはほんとに音楽かい?(お前だよお前、え?オレ?)と、思ったりもする。

こんなに音楽に溢れた時代はいまだなかったと言われる。我々の時代は音楽に飢えていた、と。
だけど、僕はそうじゃないと思う。今の時代は、音楽に溢れてなんかいない。今ほど音楽に飢えた時代はいまだなかっただろう。僕たちが音楽だと錯覚しているものは、音だ。音楽じゃない。一見音楽のようだけれど、音楽のような形をした音だ。音楽じゃない。

音楽を、それも生で聴けるような機会は、残念だけど、それほど多くない。
僕も数回しか聴いたことがないと思う。僕の記憶はあてにならないけど。

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