羽生善治九段

先週将棋界を揺るがす大事件がありましたね。

竜王戦七番勝負最終局、広瀬当時八段が勝ち、その瞬間羽生善治が27年ぶりに無冠になりました。

羽生さんて私が生まれる前(1985年)からプロ棋士で、私が5歳の時から何かしらのタイトルを持ってて私が32になるまでそれを保持し続けてたんですよね。

このことを何か他のことで喩えられないかと考えたんですが、無理でした。比類ない偉業というのは他の何かに喩えようもないほど凄い。

羽生善治九段、爆誕。

将棋関係者、ファンは絶句です。誰も何も言えない。ほんとに静かでした。

正直私も何を言っていいか全くわからない。まさかこんな日が来るなんて。


羽生さんの凄いところはね。勝ち負けを超えたところで将棋を指しているところなんです。

天文学的な指し手のバリエーションからたったひとつの手を、どちらかが投了するまで選択し続ける。そこに宇宙の真理みたいなものを見出そうとしてる。

僕にはそう見えます。

今回の竜王戦七番勝負もですね、4局目まで角換わりという同じ戦型が選択され、羽生さんは2連勝のあと2連敗しました。

このまま角換わりのシリーズになるのかと思いきや第5局で先手番の羽生さんが矢倉を選択、勝ったところまでは良かった。

問題は第6局でした。

後手番の羽生さんが横歩取りに誘導、近年横歩取りは、後手番が誘導する作戦なのに、後手番の勝率がかなり悪く、採用率が激減しています。

羽生さんは中でも勝率の悪い前例を辿ります。

先手の広瀬さんは、前例通り行けば先手がいいということがわかっているので、その通り指します。

結果羽生さんは二日目の12:07に投了を告げました。

衝撃です。二日制のタイトル戦がこんな時間に終わったのを私は見たことがありません。

持ち時間8時間のうち2時間以上を残しての投了でした。

タイトル戦で、しかも勝てば防衛が決まる大一番です。負けるとわかっていながら負けたように見えました。

本当に不思議なんですが、これが羽生善治なんだと思いました。自分の方が悪くなるとわかってる形に自分から持ち込む、その先に何かあるような気がしたんだと思います。

指してみたくなっちゃった。

その好奇心がこの大一番で勝負を超えた。

将棋には「正しい手」と「指したい手」というのがあって、AIには後者がありません。

人間同士の勝負には、これがあるから面白いんだと思います。

正しいかどうかじゃない、指したいから指すんだ。

羽生さんの指し手はそう言ってるような気がするんです。

涙が出てきたのでこのくらいにしておきます。


さて、年末恒例カペラの集中リハが終了しました。

今回演奏するのはビュノワのミサ「ロム・アルメ」

凄いです。

先日演奏したアレクサンダー・アグリコラとも共通点を沢山感じます。アグリコラはオケゲムの影響が強いという話でしたが、どちらかというとビュノワの影響のほうが強いのではないかと思う今日このごろです。

とにかくメンスーラが複雑で、楽譜を読み解くだけでも相当難しいです。

凄い変わってます。変わったものが好きな方にはぜひともおすすめします。

花井先生による解説が期間限定でアップされているのでぜひご覧ください。

https://fonsfloris.blogspot.com/2018/12/1.html

それで、来年のEnsemble Salicusではミサ「ロム・アルメ」特集をやろうかと思っています。

この旋律は当時のヨーロッパで爆発的大流行していて、40以上のミサ曲が作られました。

ジョスカンにも2曲この旋律を定旋律としたミサがあるのですが、そのうちのひとつが、

ミサ「ロム・アルメ」種々の音高による

です。

これはロム・アルメの旋律を楽章ごとに高さを変えて用いているので「種々の音高による」というタイトルを持っています。

これにかけて、演奏会タイトルを

ミサ「ロム・アルメ」種々の作曲家による

にしようと思います。

40曲以上あるミサ「ロム・アルメ」から楽章ごとに選りすぐりの5曲を選曲します。

ビュノワ、ジョスカン、ラリュー、オケゲムはやろうと思ってますが、あと一人、リクエストがあったらコメントでお願いします笑。

最近自立式自撮り棒を買いまして、それでリハを撮影してみました。

これBluetoothのリモコンで歌いながらシャッターを切っています。

撮影者がいなくても歌ってる写真が撮れる!画期的!

 

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Salicus Kammerchor

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公演情報

次回は第5回定期演奏会

J. S. バッハのモテット全曲演奏会です!

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藤井聡太四段 連勝記録更新

藤井聡太四段 連勝記録更新

とんでもないことになりましたね。

ほんと凄い。もうずっと、これがどれくらい凄いことなのか将棋を知らない人にわかるような喩えを考えているのだけど、全然思いつかないくらい凄い。

レスターのプレミアリーグ優勝とカープのセリーグ優勝を掛け算したより凄い。このくらいしか私には思い浮かびません。

ほんとに比類ない記録なので、喩えられないんです。

で、YouTubeさんがオススメしてくる動画にこういうのがありました。

マンガなら怒られるレベル。これはなかなかいい喩えですね。

お話にならないくらい凄いってことですね。事実は小説よりも奇なり、といいますが。


ただレスター優勝のときもカープ優勝のときも、ほんとにその日が来るまで、「大丈夫かなあ、今日は負けるんじゃないかなあ」って不安だったんですが、藤井聡太四段の場合はそうじゃないんです。

10連勝くらいまでは、ま、そういうこともあるよね。くらいに思ってたのですが、彼の棋譜を幾つか見ているうちに、「あ、こりゃあ勝って当然だわ、全くもってC級2組のレベルじゃない」って思うようになってきたのですね。

だからといって羽生善治でさえ3局に1局は負けるわけで(今まで500回以上負けてる)、誰だって負ける時は負ける。

どんだけ強くたって絶対に負けるんです。にも関わらず29連勝。

記録を塗り替えたということで話題になってますが、これデビューからの連勝記録ですからね。

今まで連勝記録1位だった、神谷八段の記録はデビューから6年とかたってるわけですから。

デビューからの記録でいうと今までは10連勝とかですからね。もうデビューからの連勝記録という意味ではこれまでの3倍くらい記録を伸ばしてるわけです。

もう意味わかりませんよね。


今将棋界って、誰が一番強いかというと、AIが一番強いんです。ポナンザ・チェイナーという将棋ソフトは今まで一度も人間に負けてないようです。https://ja.wikipedia.org/wiki/Ponanza#.E7.AB.B6.E6.8A.80.E4.BC.9A.E6.88.90.E7.B8.BE

もう人間は、「うーんこれは大変難解な局面ですねえ。ポナンザ先生に聞いてみましょうか」て、AIに教えを乞うレベルです。

AIが人間に活用になったのはこの5年くらい。藤井四段が将棋を覚えたのが5歳の頃だそうなので、将棋歴は9年ということになります。

これ改めて凄いことだと思うのですが、つまりどういうことかというと、今から出てくる世代というのは、AIが育てた世代、いわゆるデジタルネイティブ世代だということなんです。

興味深いですよね、AIに育てられた人間はAIを超えることができるのか。

藤井四段がポナンザ先生と対局する日が待ち遠しいです。


デジタルネイティブといえば、そのことが一つのテーマになっている曲がありました。

北爪裕道さんの“Multiplex”という作品です。

この曲については以下に記事を書いているので是非ご一読ください。

ノイズ カットアップ | ヴォクスマーナ

動画も上がっています。

 

ヴォクスマーナは明日からまたリハが始まります。こういう音楽、興味のある方は是非演奏会にお越しください。

第38回定期演奏会
2017年7月20日(木)19:00開演
東京文化会館小ホール

一般3,000円(当日3,500円)、大学生1,500円、高校生以下1,000円

近藤 譲(b.1947)/ 嗟嘆(といき)(委嘱新作・初演)  詩:ステファンヌ・マラルメ 訳:上田敏
大胡 恵(b.1979)/ ずっと月がキレイ (委嘱新作・初演)
山根明季子(b.1982)/ 水玉コレクションNo.15 (2012委嘱作品・再演)
横島 浩(b.1961)/ Interval Ⅱ「泣いてみたくなった ~“I felt like crying”」(2013委嘱作品・再演)

お問合わせ:ryuta0530nishikawa@gmail.com

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次回公演は10月18日、Ensemble Salicusのデビューコンサートです!

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羽生善治 | 大局観

羽生善治 | 大局観

気まぐれ書評です。

私は幼稚園の頃に、サッカーより先に将棋を覚え、小学校の一時期は毎週将棋教室に通っていました。

羽生さんは小学2年生から始めたそうなので、羽生さんより早いゾ!

その頃までは将棋がとても好きだったのですが、いつからか興味が薄れて多分中学生の頃から今までほとんど将棋から離れていました。

なぜそうなったかは覚えてないのですが。

それがなぜか最近将棋にまたハマりだして、YouTubeで羽生善治チャンネルをお気に入り登録して廃人のように見ふけったり、スマホのアプリでコンピュータ相手にもう多分200局以上は打ってます。

あぁ、それにしても人間と将棋が指したい。

そういう流れで羽生善治の「大局観」という新書を読みました。


大局観とは、争点の箇所だけでなく盤面全体を見渡し、文字通り大局にたって判断するということなのですが、これを私は剣道の「遠山の目付け」同様、音楽に応用しています。

羽生さんは大局観を、「読み」と並ぶ能力として、対局において重視しているそうです。

読む力、つまりこう指したら相手がこう指して、そう来たらこうやって、という様々なパターンについて先を読むという力は若い人の方が上回っているそうです。

しかし年齢を重ね、経験を積んでいくと、大局観が培われ、若い棋士とも同等に渡り合える。だから羽生さんは、今の自分でも20代の時の自分に負けない、と思えるのだそうです。

将棋の対局をしている間、棋士は黙って盤面に向き合い、黙って一手一手を指します。

その姿をいつも、何考えてんだろーなーとか思ってたので、饒舌に語る羽生さんの著書はすごく新鮮でした。

そして、どんな当たり前の事でも、羽生善治が言うと全然違って聞こえる、というか説得力エグいです。

リスクを取らないことが最大のリスクだと私は思っている。なぜなら、今日勝つ確率が最も高い戦法は、三年もたてば完全に時代遅れになっているからだ。

とか、

棋譜検索で得た情報は過去から現在までのものを表示しているだけで、それがどんなに膨大な量であっても、未来については何も書かれていない。

とか、

400局負けたということは、私には少なくとも400以上の改善点があることになる

とか、

得ることよりも捨てることの方が何倍も難しい

とか、

なかでも注意すべきなのは、複数の選択肢をシミュレーションして、どちらもうまくいきそうにない場合だ。こんな時には、最後に思いついた別の選択肢が、やけにうまくいきそうに見えることがある。

とか、

将棋に限らず日々の生活のなかでも、一つの選択肢によって極端にプラスになるわけでもないし、取り返しのつかないマイナスになるわけでもない。

とか、

確率で大部分について解る。しかし、すべてではない。

とか、

最近の将棋の傾向(昔から将棋をやっている人にとっては、筋悪とか、美しくない、と感じる)を

私は、「モダンアートのようだ」と表現している。

とか、

私はこれまで、何と闘うという目標を立ててやってきていない。

信じていただけないと思うが、常に無計画、他力志向である。

などなど。

どんなに天才に見える人であっても、結局は一手一手、凡人同様に全力を傾け、何度となく負け、地道に、改善点に一つ一つ取り組んでいるんだと、思いました。


目次

第一章 大局観

1 検証と反省

2 感情のコントロールはどこまで必要か

3 リスクを取らないことは最大のリスクである。

4 ミスについて

5 挑戦する勇気

第二章 練習と集中力

1 集中力とは何か

2 逆境を楽しむこと

3 毎日の練習がもたらす効果

4 教えることについて

5 繰り返しの大切さ

第三章 負けること

1 負け方について

2 記憶とは何か

3 検索について

4 知識とは

5 直感について

6 確率について

7 今にわかる

第四章 運・不運の捉え方

1 運について

2 ゲンを担ぐか

3 スターの資質

4 所有について

第五章 理論・セオリー・感情

1 勝利の前進

2 将棋とチェスの比較

3 コンピュータと将棋

4 逆転について

5 ブラック・スワン

6 格言から学ぶこと

7 世代について

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演奏動画公開中!

Heinrich Schütz “Musikalische Exequien” op. 7 III. Canticum Simeonis / Salicus Kammerchor

Ensemble Salicus : Gregorian chant from “Proprium in ascensione Domini” / “Ordinarium missae I”

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