なんか煽り系の記事の見出しみたいになってしまいましたが、はじめに断っておくと、東洋の声楽に用いられるボイトレと、西洋の声楽に用いられるボイトレの話ではありません。
そもそも東洋の伝統音楽に、ボイトレの概念があるかどうかさえ怪しいです。
インド古典声楽では「歌の声」というものはない、と言うそうですし、日本の徒弟システムの中にボイトレの入り込む隙間はなさそうに感じます。
2種類のボイトレメソッド
この記事は、私が使っている2種類のボイトレメソッドのお話です。
レッスンの初回ではその2つがあるということを断った上で、人によって反応を見ながらピンと来てそうな方を中心にやっています。
ひとつは徳久ウィリアムさんから教わった、最近「メタ発声」という言い方をされているメソッド、もうひとつはいわゆる「ハリウッド式」と呼ばれる、小久保よしあき先生や、トミーから教わったメソッドです。
「メタ発声」
徳久さんのメソッドは、サリクスのメルマガでも紹介しましたが、発声にとどまらず、心から湧き出て、頭で思い描いたことを体でアウトプットする全ての「行動」に応用することのできるものです。
その意味で「メタ発声」というネーミングは凄くピッタリきてるなと思います。
このメソッドについて、説明は難しいですが、端的に言うと「心気体を一致させること」と私は解釈しています。
いかにこの三者のギャップを埋めるか、というのが肝です。
究極的にこのメソッドをマスターすると、思ったことをそのまま実現できるという境地に達することができると思います。(飯伏幸太さんというプロレスラーの方がそんなことをおっしゃっていました)
徳久さんはかなり体を酷使する系のアヴァンギャルド系ヴォーカルパフォーマーなので、健康を保ちながら思い描いたことを実現するということに長けたメソッドを確立することができたんだろうと思います。
このメソッドは、その多くの部分を「韓氏意拳」という中国武術から発想を得ています。
そういうこともあって、このメソッドは東洋的だなあと感じています。
いわゆる「ハリウッド式」メソッド
それに対していわゆるハリウッド式と呼ばれるメソッドは、その名前からしてもそうですが、実に西洋的だなあと思います。
私の認識ですが、未知のものに対するアプローチの仕方の違いというか、西洋の考え方ってとにかく分節して名前をつけるという形で迫っていきますよね。
東洋の場合もう少しおおらかというか、全体を捉えて、ぼんやりとそのつながりと中にあるものの流れを俯瞰するようなやり方だと思うんです。分からないものは、無理に分かる必要はなくて、分からないままにうまく付き合っていくような。
ハリウッド式はまさに西洋的で、発声にかかわる体の器官を一つ一つ分けて捉えて、何がどのように作用しているか、ということを科学的に追求しています。
この筋肉を作用させるためにはどういう母音と子音を組み合わせたエクササイズをすればいいのか、ここの共鳴腔を狭くするためにどこをどのように動かすか、声帯振動を促進するような共鳴腔の形をどうやって作るか、いわゆる「通る声」を作るためにはどの周波数帯の倍音を強調するべきで、そのためにはどういうエクササイズが必要なのか。などなど。
西洋のやり方は即効性があるし、因果関係を説明できるので、理系的な方には効果が高いように思います。
ただし、発声器官と声については、まだわかっていないことも山のようにあるので、あまり断定的に説明できないことも多いです。
逆に言うと、断定的な言い方しかしないボイストレーナーには注意が必要です。
今まで常識と思われていたことが、まるっきり間違いでした、ということもよくあることのようです。
東洋医学と西洋医学
私の使っている東洋的・西洋的なボイトレメソッドのこの関係って現代医療にも通じるものがあるなあと思います。
東洋医学と西洋医学の関係です。
例えば風邪ひいて内科や耳鼻科にいくと、症状にあわせて西洋医学の新薬と、漢方と両方もらうことがありますよね。
それで人によっては新薬は体に合わないけど漢方だったら大丈夫とか、漢方はあんまり効かないとか、そういうことがあると思うんですけど、ボイトレもそういうところがあるんです。
漢方効かないって人に漢方処方し続けても効果は薄いだろうし、新薬の副作用がつらいって人にその副作用を抑える別の新薬を処方するってこのループも、よくある話ですよね。
私はこのボイトレの漢方も新薬も、両方効いた実感があるので、どちらかを選択してどちらかを捨てるということはせずに、場合によって使い分けるという形をとっています。んーと、使い分けるというか、同時に使ってますね。常に。
アプローチする意識の層が違うという感じもします。
合唱ボイトレの難しさ
医療に譬えになったので、ついでに合唱のボイトレの話もしたいと思います。
私もよく集団でのボイトレをやってますけど、これってさっきの風邪の喩えでいうと、症状の違う様々な風邪の人全員に、同じ薬を処方するようなもんなんです。
凄く乱暴ですよね。だから難しいんです。熱のある人には解熱剤を出すけど、熱のない人にも同じ解熱剤を飲ませたら、体温下がり過ぎて症状は悪化します。
それに今風邪で譬えましたが、中には風邪じゃない人もいるんです。インフルエンザかもしれないし、肺炎かもしれないし、花粉症かもしれないし、あるいは全く健康な人もいるかもしれない。
健康な人は治療する必要がないんです。
だから合唱ボイトレの場合は、ほとんど多くの人に役に立つ、ビタミン剤的なものを処方する(エクササイズを選択する)か、あるいは、「ここに2種類の薬があります。こっちはこういう症状、こっちはこういう症状に効きますので、どっちかを自分で判断して持って行ってください」みたいなことになってしまいます。
つまり処方箋ではなく町の薬局のようなものですね。何を買って帰って飲むか、自分で判断するんです。
この「自分で判断する」というのがボイトレの場合実際凄く難しくて、結構な方が自分に合わない薬を持っていかれます。
低血圧の人が降圧剤を飲むようなものです。ぶっ倒れますよね。
だから本当に間違いなく声をよくしようと思ったら、レッスンに行くしかありません。
一度医者にかかっておけば、同じ成分の薬を町の薬局で買うときもある程度自信を持って買えるかもしれません。
つまり、一度レッスンに行けば、自分の発声の傾向がわかって、それに応じたエクササイズを自分で組める可能性があります。
ただその場合でも、注意しなければならないのは、自分の発声の傾向は、日に日に変わるということです。
薬の譬えで言うと、医者に行った日は熱が39度あって、解熱剤を処方されたとしましょう。その後解熱剤の効果で熱が下がり、平熱になったとします。
そうすると普通は解熱剤を飲むのをやめますよね。
ところがボイトレの場合、その日のレッスン生の状態に合わせたエクササイズを組みますが、その後その状態が改善されたのに、自主練で同じエクササイズやり続けると、ちょうどいいバランスを通り越して、今度はレッスン前の状態の反対の傾向になってしまうことがあるんです。
高熱の人に解熱剤を処方して、平熱になったのにまだ飲み続けて、熱が35度とかになっちゃうようなもんです。これは危ない。
だから通常は、継続的にレッスンに通うことをお勧めします。
それが難しい方であれば、エクササイズの継続によってバランスをかえって崩してしまうようなエクササイズはやらないようにしています。
結局ボイトレって超ムズイ。みたいな話になってしまいましたが、私のやってることって東洋的なボイトレと西洋的なボイトレの二本立てなんだなあと思ったので、書き留めてみました。
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Salicus Kammerchor
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次回定期公演は2018年5月の第4回定期演奏会です!
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