旋法とヘクサコルド〜歌と音楽に対する感受性を養うために〜

という題名で本を書いています。

以前このブログでも大島俊樹さんの「階名唱(いわゆる「移動ド」唱)77のウォームアップ集 」を紹介させていただきましたが、これのヘクサコルド版を書かねばならんという使命に駆られたからです。

大島さんの本はマジでゼロから読譜を始める人にとっても、また固定ドから脱却したい人にとってもめちゃくちゃ優秀すぎるテキストなので、もう全ての音楽(特に西洋音楽)に関わる人に手にとっていただきたいです。私自身大島さんからまとめ買いして、現在までに89冊売ってます笑

この本はドレミを学ぶのにこの上ないテキストだと思うのですが、調性音楽を前提としたコンセプトで書かれているので、旋法(教会旋法)の音楽のドレミ(Ut Re Mi)が学べる同種の本があればいいなと思ったのですが、どうもなさそうなのです。

無いなら書いてしまえ。むしろそれがお前の役目だと私の中の私が私の尻を叩きまして、誰に頼まれるわけでもなく執筆中しておるわけです。

大島さんの本くらいコンパクトで手に取りやすく、取り組みやすい本にしたいと考えているのですが、3章だての2章の途中ですでに42ページ、大島さんの本が32ページですからもうちょっと長すぎる笑。

しかし調性音楽は長旋法と短旋法の2種類しかないのに対し、旋法(教会旋法)は8つあるので、4倍位の分量になる分には許容しようかと思っています。

それで、序文なんか後回しにすればいいのに序文を先に書いてしまって、我ながら暑苦しい文章が書けたので、ここに紹介しようと思います。

これを読んで、この本完成したら買いたいな!と思った方はぜひ私を励ましてください。

今のところ出版社からお声はかかっていないので、出版関係の方は今がチャンスです。

お誘いがなければキンコーズで印刷します笑。


序文

 声と歌とを分かつものはなにか、音と音楽を分かつものはなにか。学校でそれを教わった記憶はなく、おそらく「それはセンスであり、センスは教えることができない」ということで片付けられていたように思う。

 筆者はそうは思わない。少なくとも歌を歌うために、音楽を理解するための重要なヒントを先人は我々に遺している。その最も基礎にあるのが階名(ドレミ)である。残念ながら日本を含む一部の国では、この最重要の基礎が誤解されて教えられている。すなわち音名と階名が混同されて教えられているのである。そもそもグイド・ダレッツォが階名を紹介するはるか以前から音名は存在しており、もし音楽を理解するのに音名で充分であるならば、あえて階名など考え出されるまでもなかったはずである。本文中で詳述するように、調性音楽であるならば、長旋法と短旋法の二種類の音階とその構成音の特徴を経験すれば済むはずなのに、音名で音楽を捉えようとするならば、異名同音を含めた30種類(旋律短音階、和声短音階を含めると60種類)の音階とその構成音の特徴を覚えなければならないのである。

 レにはレの、ミにはミの感触がある。楽譜から読み取って歌う際に「この曲はGes-Durだから第2音はAsで、長調の第2音の感じというのはこんな感じだから」というのは本当に手間と時間がかかる上に頭による理解が先立って音楽を感じ取るのにまたひとつ段階が必要になる。階名唱に熟達すると「レはレとして聞こえてくるのでレのように歌う」ということがごく自然に行われる。「レのように歌おうとする」までもなく「レでないように歌うことのほうが難しい」と感じるようになるのである。

 それが自然と和声感、調性感を生むのであって、それらの実現のためには和声や調性を学ぶ必要はない。ただ、階名で歌えばいいのである。

 以上は調性音楽における7音による階名(ヘプタコルド)についての話であるが、調性音楽成立以前の音楽は(教会)旋法によっており、その時代には6音による階名(ヘクサコルド)が用いられていた。よく似たシステムに思えるが、実践してみるとその違いを明確に感じられることと思う。ヘクサコルドにはヘクサコルドでしか捉えることができない音楽の姿があり、バロック以前の音楽家は皆そのようにして音楽を捉えていたのである。

 ヨーハン・ゼバスティアン・バッハは「平均律クラヴィーア曲集」という名で本邦では知られている曲集の表紙に下記のように記した。

よく調律されたクラヴィーア あるいはすべての全音と半音、すなわち全ての長三度つまりUt Re Mi、また短三度つまりRe Mi Faによるプレリュードとフーガ

 ドレミではなくUt Re Mi、ラシドではなくRe Mi Faとあるので、バッハがヘクサコルドを意図していることは明らかである。バッハが用いたツールを使って、バッハの書いた音楽に取り組もうとすることは、ごくごく自然なことではないだろうか。

 バロック以前の音楽が演奏される機会はますます多くなり、古楽を専門とする演奏団体のみならず、一般の合唱団等のレパートリーとしても親しまれている。その基礎の基礎であるヘクサコルドを実践的に学ぶことのできる教本が必要とされていると考え、本書の執筆に至った。

 本書がバロック以前の音楽を演奏する人、また指導者にとって、音楽を味わう上でのひとつの手がかりを与えるものとなることを願ってやまない。

旋法とヘクサコルド〜歌と音楽に対する感受性を養うために〜」への8件のフィードバック

  1. 「序」をアップしてくださったおかげで、予約を決意できました。
    >レはレとして聞こえてくるのでレのように歌う
    というのは私の実感でもあるのですが、それが十全に生かされているとも言い難いような気がします。
    なので、この機会にスキルアップを!と。
    楽しみにしています

  2. 「序」を読んで、JSBをより深く理解するには必要だなと思わせられました。予約します。また、ご紹介の大島俊樹さんの本もお願いできますでしょうか。支払い方法、などご連絡頂けると幸いです。

  3. こちら、序文を読んでみたいのですが、他のページも含め、文字化けして表示されないようです。ご確認いただけますでしょうか?

  4. 音楽史に興味があり、受講したいと思っています。素朴な疑問なのですが、なぜ
    ヘキサコルド(6音)なのでしょうか?
    ヘプタコルド(7音)なら、ムタッツィオみたいな面倒なことをさないでもすむのに? 何か理由があったのでしょうか?
    3全音を避けるためでしょうか?

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