サレガマパダミサIV

カニササレアヤコさんとの企画第4弾です。

ミサをグレゴリオ聖歌で最初から最後まで歌うという、一見超シンプルなプログラムです。

ただ歌に加えて、タンプーラと笙が一緒にやるというのが珍しいですね。


タンプーラ

最近ありとあらゆる私の出没するところでタンプーラの音が流れてますので、耳馴染みのある方も多いかもしれませんが、タンプーラというのはインドのドローン楽器です。

ドローンなので同じ音がずーっと鳴り続けます。なのに撥弦楽器というちょっと変わった楽器です。弦を弾く楽器は音が減衰するので一見ドローンにはふさわしくないようですが、むしろだからこそそこに呼吸が生まれて、その空間の中で旋律を歌うのが容易になります。

なぜインドの楽器をグレゴリオ聖歌に用いるのかというところですが、現状のわたしの考えでは、1000年前のグレゴリオ聖歌の有様というのは、現代のインド音楽に非常によく似ています。

1000年前のグレゴリオ聖歌の歌い方を再創造するのに、インド音楽は大変参考になります。

そういった経緯でインド音楽をここ数年学んでいまして、私がグレゴリオ聖歌を歌うときには大体いつもタンプーラが鳴っています。

1000年前のグレゴリオ聖歌実践に、ドローンがあったかどうかは定かではありません。ただそういう実践がまったくなかったとも言えません。というかかなり多くの点において「そうでなかったとは誰も言えない」状態なので、なんでもできるんです。いいでしょ。古楽って。


笙は雅楽で用いられる人力リードオルガンみたいな楽器です。主に和音を担っていますが、旋律も吹けます。カニさんはエレクトリカルパレードとかいろいろ吹いてます。

いやこれバカテク。

それでインドにもハルモニウムというこちらもある意味人力(手でふいごパフパフしてるので)リードオルガンがあります。

これは歌の伴奏によく使われていて、歌の旋律をなぞったり、合いの手を入れたりしています。

またシュルティボックスという楽器はハルモニウムから旋律の機能をそぎ取ったような楽器で、タンプーラ同様ドローン楽器です。

それで、このハルモニウムやシュルティボックスのような役割を笙でやってもらえないかという発想で生まれたのがこの企画です。


アーラープ

更に2回目からは、インド音楽においてタブラの入らない自由リズムのセクション「アーラープ」を挿入するようにしています。

アーラープはラーガを召喚する呪文みたいなもので、雅楽的には調子、トッカータとかプレリュードとかそういったものに近い役割です。

でなぜそれをグレゴリオ聖歌の合間にやるのかということですが、まず私は「グレゴリオ聖歌はラテン語のついたアーラープ」だと思ってます。そのくらいよく似ています。

そしてミサを歌うのに、グレゴリオ聖歌の場合は、例えば入祭唱は第1旋法だけど続くキリエは第8旋法、というように、1曲ずつ旋法がどんどん変わっていきます。

なにもなしにこれをどんどん切り替えて歌っていくのって実は結構難しいんですが、この旋法が切り替わるところにアーラープを挿入することによって、続く旋法の雰囲気をあらかじめ作ってしまおうということなんですね。

このアーラープに関しては今回もバーンスリー奏者の寺原太郎さんにプロデュースいただいております。


各曲について

毎回(誰にも気づかれないような)新たなチャレンジを少しずつやっていますが、今回も新しいことが結構たくさんあります。

まずひとつ大きいのはタンプーラの調弦を途中で変える、というところです。過去3回はずっとタンプーラはpa-sa-sa-saの調弦でやっていましたが、今回は一部ma-sa-sa-saでやります。これなかなかガラッと雰囲気が変わるので、聞いていて新鮮に感じられると思います。

なぜそういうことになったかというと、タンプーラをmaにチューニングするラーガのアーラープをやるからで、つまりそういうラーガに挑戦するのも今回が初めてとなります。

以下できるだけ短く各曲について演奏メモを書いてみます。聞いてるだけだと絶対誰にも伝わらないような工夫ばっかりですが、ちょっとでもわかると聞いてて楽しいと思います。

(初!)としているのはこれまでやってこなかった新たな要素です。

1. 即興 笙
D-Aで終わるということだけ決めてます。


2. 入祭唱 Introitus 声とタンプーラと笙

tuttiで歌うところに笙で和音を入れてもらいます。和音を入れるという意味で、笙を笙扱いしているといえます。


3. キリエKyrie 声とタンプーラと笙

交互唱です。声と笙が交互に旋律を歌います。

(ここでタンプーラをmaに)(初!)


4. 双調調子 笙

雅楽においてアーラープ的な役割を果たす調子をそのままやってもらいます。今回は双調(初!)の調子です。


5. グロリアGloriaと双調調子 声とタンプーラと笙

そのままタンプーラが加わり、グロリアを歌います。笙がマディアムセです(初!)。マディアムセというのはマをサにするということで、歌はDの音がfinalisなのですが、笙はGが主音です。なぜそんなことになっているかというと、簡単に言えばそのほうがいい感じだったからです。笑


6. 集祷文 Collectaと双調調子 声と笙
7. 使徒書朗読 Epistolaと双調調子 声と笙

調子が続く中、そのまま祈祷と朗読に入ります(初!)


8. アーラープRaag Gorakh Kaliyan 声とタンプーラ

続くGradualeが第8旋法で、これはfinalisとdominantの関係が4度のソ旋法です。これに合わせたGorakh Kaliyan(初!)はまさにそれにピッタリで、どこからがグレゴリオ聖歌なのかにわかにわからないと思います。(歌詞が聞き取れればわかります)


9. 昇階唱 Graduale 声とタンプーラと笙

tuttiの部分の旋律を笙で重ねます。つまりハルモニウムのような感じに吹いてもらいます。

(ここでタンプーラをpaに)


10. アレルヤ唱 Alleluia 声とタンプーラと笙

9と同じ感じ。


11. 続唱 Sequentia 声とタンプーラと笙

3と同じく交互唱ですが、Sequentiaなので、奇数節と偶数節が同じ旋律です。つまり歌で歌った旋律をそのまま笙で吹いてもらうということで、その意味でちょっとだけハルモニウム的です。


12. 福音書朗読 Evangelium 声とタンプーラ

普通に朗読します。ちなみにミサには司祭と会衆との受け答えのシーンがありますが、その会衆の部分はカニさんに歌ってもらいます。


13. クレドCredo 声とタンプーラと笙

こちらも声と笙の交互唱。

(ここでタンプーラをmaに)


14. アーラープRaag Bagheshri 声とタンプーラ

続くOffertoriumは、ラーガ的視点からすると途中で違うラーガに変わっている雰囲気なのですが、そこから逆算してその前の展開を考えるとBagheshri!ということでこのラーガに決まりました。なんとアンタラ(アーラープのセクションで音域が高い)までやります(初!)。


15. 奉納唱 Offertorium 声とタンプーラと笙

これも確か旋律を重ねてもらいます。


16.叙唱 Praefatio 声

本プログラム唯一のアカペラです。


17. サンクトゥスSanctus 笙

グレゴリオ聖歌を笙だけでやってもらうのはこの曲だけです。キーがBになります(初!)。


18. 主の祈り Pater noster 声とタンプーラ

これは前からのつながりと、カニさんの音域のこともありマディアムセです(初!)。結構高めのキーになります。


19. アーラープRaag Bhairavi 声とタンプーラと笙

Bhairaviというのは本当に面白いラーガで、ミ旋法なのですが、オクターブの12音全て使います。なのにミ旋法です。その上普通はタンプーラはパでやりますが、なんとマでもできます。ホント不思議。普通はタンプーラが変わったら別のラーガになってしまいそうなもんですが、それでもBhairaviだと言えるほどに、このラーガのキャラクターが濃いのだと思います。MaのBhairaviをやるのは今回が(初!)です。


20. アニュス・デイAgnus Dei 声とタンプーラと笙

笙は和音を吹いてもらいます。


21. 聖体拝領唱 Communio 声とタンプーラと笙

ミ旋法からソ旋法への連結で、普通はとても難しいはずなのですが、その前のBhairaviで色んな音を歌っているので、なぜかすんなりとソ旋法の世界へと入っていけます。こういう連結も(初!)


22. 聖体拝領後の祈り Postcommunio 声とタンプーラ

Maのタンプーラで祈祷をやります(初!)


23. 終祭唱 Ite missa 声とタンプーラと笙

第1旋法なので普通はタンプーラPaの方が合うのですが、Maでやります(初!)。よく知った旋律がちょっと違うふうに聞こえます。


24. 即興 声とタンプーラと笙

何も具体的に決まってませんが、これも笙はマディアムセしてもらって最後タンプーラのMaをoffにしてSaで終わろうかななどと思ってます。そうなるとは限りません。笑
もしそうなったら(初!)


ということで4回目なのですが、意外と初めての試みがいっぱいあります。聞いてて誰がわかんねんというような違いばかりなような気がしますが、やってるほうとしては本当にこれ面白いんですよねえ。
毎回、「その手があったか!」の連続で楽しいです。次回は楽器が増えるかも!?なんだって!?

お楽しみに!


サレガマパダミサIV
笙とタンプーラと歌うグレゴリオ聖歌

2025年9月23日(火祝)15時開演

@大森福興教会

一般3500円 学生2000円(当日+500円)

演奏曲:悲しみの聖母の祝日のミサ

出演:櫻井元希 カニササレアヤコ

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdloXZzCnlSCq5sT2HqsBsCM6Cg4BEkJj5gfc24hYIOPcR1dg/viewform

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください