Salicus Kammerchorについて

Salicus Kammerchorについて

この数年がサリクスにとって正念場になりそうなので、ここでこれまでの歩みとこれからについて整理しておこうかなと思います。

サリクスは2015年に芸大バッハカンタータクラブの仲間を中心に作ったのですが、現メンバーでその頃のメンバーは数人しかいません。

じゃあどういうメンバーなのかというと、本当に色々で、古楽科出身者が数名、人づてやヘッドハントなんかで構成されています。

2024年、カンタータ全曲プロジェクトのためもあって始めたサリクス研修所からは、昨年2人合格して、今年の定期でデビューしました。

サリクスでやっていることは、現状のクラシック界からするとかなり異常なことをやっているので、なかなか普通の歌手を雇ってそれが戦力になることはありません。

むしろ普段からわたしの団体に参加していたり、ワークショップに参加しているアマチュア歌手の方がやろうとしていることを汲んでくれることが多いです。

そんなわけでサリクスの歌メンバーの1/3くらいは兼業音楽家です。

この状態が良いとは思ってません。実力はあるのに音大を出てないがために音楽では食えない社会には問題があると思ってます。

彼らが音楽に集中できれば、日本の音楽界はもっとはるかに豊かになります。(彼らがそれを望むかどうかは別として)

逆に、音大を出ただけで実力も、音楽に対するモチベーションは大してないのに音楽で食えてるプロが日本の音楽界を貧しくしています。 

そしてそれに音楽ファンは加担しています。下手な演奏者の下手さがわからないので、肩書きをみて、よおわからんけどきっと上手いんやろうと判断するしかないのです。

今の音大は、少なくとも歌に関して言えば、そこにいればいるだけ下手になります。歌が下手になるだけならまだしも、声も出なくなります。

ほんと苦しんでる音大生みんなうちに来てほしい。

研修所でがんばってる研修生も、まず声ががんじがらめになってて、そこをクリアーすることに非常に苦労しています。

クラシックを学びさえしなければ、経験することのなかった苦しみです。他に学ばなければならないことは山ほどあるのに、まずそこに大きな壁があります。

全く。何を呪えばいいんでしょうか。音楽取調係ですか。ヨーハン・クリスティアン・バッハですか。

クラシックと古楽についてはこちら

その上現代日本で生きているとそれだけで声は出なくなります。専門的な教育を受けているから声が出なくなるということは大いにありますが、そうでなくても普通の人が声が出なくなる社会であるというこことは間違いないです。

これもとりあえずイギリス人呪っとけばいいですか。

そういう訳で特に現代日本において、特に西洋クラシックの界隈で、歌を上達させるのは本当に至難の業です。

とまあわたしは育成環境については日本の西洋クラシック業界しか知らないので、観測範囲内のことをお話ししていますが、世界的にみても、西洋クラシックの「演奏」は悲惨です。

西洋クラシックのジャンルで歌の上手い歌手が1人でもいるでしょうか。いるなら教えてください。

ニーチェは神を甦らせるつもりはさらさらなかったようですが、わたしは西洋クラシック音楽を甦らせようとしています。

「失伝した西洋の歌の再創造」と言っているのはその先駆けです。


「失伝した西洋の歌の再創造」の方法

具体的には失伝した古ネウマ(10世紀頃に記されたグレゴリオ聖歌の記譜)の歌いまわしを再創造し、それをその後の西洋音楽の演奏にも活かすということです。

そしてその古ネウマが言わんとするところを知るためには、旋法とヘクサコルドの理解がほとんど必須と言っても過言ではありません。

「ほとんど」と言ったのは、旋法とヘクサコルドという概念は、グレゴリオ聖歌を理解するために生まれた概念なので、それ以前の音楽家はそれなしにグレゴリオ聖歌を理解していたからです。

なので旋法とヘクサコルドの概念が生まれる以前の音楽家と同等の実力をお持ちの方であれば、これらの概念は必要ありません。ただそれは原理的にほとんど不可能と言って差し支えないと思います。生まれてこの方グレゴリオ聖歌以外の音楽(それも1000年以上前のヨーロッパの達人たちの演奏で)を聴いたことがないというような環境で育つというのはあり得ないし、多分現代ではその時点でコンプライアンス的にアウトです。

そして旋法とヘクサコルドという概念が生まれて以降の作品というのは、もはやそれに基づいて音楽が書かれていますので、これらは必須と言って差し支えないと思います。

「古ネウマ」については、これが書かれた時期というのは限られていて、割とすぐに譜線ありの記譜に変化していきます。ここで古ネウマは失伝します。


記譜と音楽の関係性について

ここで押さえておかなければならないのは、「音楽の全てを書き記す記譜法は存在しない」ということです。

音楽は書かれた時点で音楽ではなくなります。それは紙についたインクのシミです。

例えばポップスの歌が記譜されたものを見て、原曲とのズレに戸惑ったことのある人は多いと思います。合唱をやっている人はすぐにピンとくると思いますが、そうでなくてもすでに1970年代には中学の音楽の教科書にポップスは載っていたそうなので、そういうものを通して触れている人はかなり多いと思います。

ポップスを聴いて、自分で楽譜を作ってみるとよくわかりますが、例えばアゴーギク(音価の微調整)をどこまで記譜するか、装飾をどこまで記譜するか、12半音に収まらない音を記譜するか、など、あらかじめ記譜のコンセプトを決める必要があることに気づきます。

また、今我々がよく使っている五線譜は、「音高と音価」を示すことのできる記譜法なので、例えば「音色」に関することというのは記譜することはできません。(言葉で示すことはできます「最高に柔らかく」とか、「喉を締め付けられたような声で」とk)

最も単純な話で、この音は裏声なのか地声なのか、のようなことも、言葉ではかけますが五線譜のシステムでは表せません。そして言葉でも滅多に表しません。これは記譜のコンセプトを知らないとわからないことです。

つまり記譜した人が、音楽の中の様々な要素の中から、「書くことと書かないこと」を決めているのです。

古ネウマには音高と音価が(少なくとも五線譜のようには)書かれません。しかしだからといって、この頃のグレゴリオ聖歌には音高と音価が「無かった」と考える人はいないでしょう。それは無かったのではなく書かれなかっただけです。同様にして五線譜には古ネウマにあるような歌いまわしの指示はありませんが、その歌いまわしは、無かったのではなく書かれなかっただけです。(ところで歌いまわしのない歌はそもそも歌と呼べるのでしょうか)

西洋クラシック音楽の人たちが「音符を並べただけでは音楽にならないよ」と言いながら、音符を並べているのは一体どういう現象なのでしょうか。

その言葉だけが残って、その方法が失われてしまったのだとわたしは考えています。

古ネウマはそれを知るための鍵です。


ヘクサコルドとヘプタコルド

ヘクサコルドについて、これは産業革命を境に音楽の変化に伴って、我々のよく知る(本当に知ってる?)ドレミ階名(ヘプタコルド)にとって変わられました。

しかしヘプタコルドはヘクサコルドから生まれたので、その名残をかなり残しています。何しろ5つもシラブルを共有していますので。

ですから産業革命以後の西洋音楽をやる上でも、ヘクサコルドを知っていることはかなり役に立ちます。今の音楽を聴いてても、肝心なところでラの上のファが結構使われてたりします。

そういった意味でも、わたしのやっている活動は古楽の範疇にはとどまっていません。

わたしは西洋クラシック音楽全体を救おうとしています。誰に頼まれたわけでもなく。

今演奏されてるクラシックのレパートリーにしても、全然こんなもんじゃないと思うんですよね。ヘクサコルドやって、古ネウマやって、その上でヘプタコルドを用いて調性音楽をやれば、もうそれはそれは薔薇色の未来が待っているに違いないわ。


これまでのサリクスの歩み

そんなことを考えながらサリクスはの活動を続けてきてはや11年。

これまで本当にたくさんの演奏機会、教える機会に恵まれました。

活動記録をまとめましたのでささっと眺めてみてください。

2015年5月結成
2015年5月第1回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.1開催
2016年4月第1回ワークショップ開催
2016年4月第2回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.2開催
2016年5月Ensemble Salicus結成ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに参加
2016年10月第2回ワークショップ開催
2016年10月La Musica Collanaとのジョイントコンサート開催
2017年4月第3回ワークショップ開催
2017年4月第3回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.3開催
2017年9月第4回ワークショップ開催
2017年10月Ensemble Salicusレクチャーコンサート開催
2018年4月第5回ワークショップ開催
2018年5月第4回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.4開催
2018年10月第6回ワークショップ開催
2018年11月Ensemble Salicus第1回演奏会開催
2019年3月メンバーオーディション開催(合格者2名)
2019年4月第7回ワークショップ開催
2019年3月 -5月J. S. バッハのモテット全曲録音CD制作クラウドファンディング
(支援者220人、支援金2,611,800円)
2019年5月第5回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏会開催
2019年8月J. S. バッハのモテット全曲録音セッション
2019年12月ワークショップ第8回開催
2019年12月Ensemble Salicus第2回演奏会
2020年4月J. S. バッハのモテット全曲録音CD発売
2020年5月リモートEnsemble Salicus1(youtubeライブ配信)
2020年7月リモートEnsemble Salicus2(youtubeライブ配信)
2020年9月リモートEnsemble Salicus3(youtubeライブ配信)
2020年10月ワークショップ第9回
2020年10月プレイバックサリクス1(youtubeライブ配信)
2020年11月J. S. バッハの教会カンタータ演奏会vol.1開催
2021年1月 -10月リモートワークショップ第1回開催
2021年2月プレイバックサリクス2(youtubeライブ配信)
2021年4月リモートEnsemble Salicus4(youtubeライブ配信)
2021年5月第6回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.1開催
2021年8月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサート(web配信)に出演
2021年10月フォンスフローリス主催ジョスカン・デ・プレ没後500年記念演奏会に参加
2021年12月国際基督教大学2021年クリスマス演奏会に出演
2022年3月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサート(web配信)に出演
2022年5月第7回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2開催
2022年6月 -2023年3月リモートワークショップ第2回開催
2022年11月J. S. バッハの教会カンタータ演奏会vol.2開催
2023年5月第8回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.3開催
2023年10月Ensemble Salicus第3回演奏会開催
2024年3月立教大学キリスト教学研究科主催の公開ワークショップに出演
2024年5月第9回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.4開催
2024年3月 -5月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1クラウドファンディング
(支援者146人、支援金2,273,500円)
2024年7月サリクス研修所第1期生オーディション開催(合格者5名)
2024年11月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1演奏会開催
2024年7月国立西洋美術館レクチャーコンサートに出演
2024年11月国立西洋美術館制作の動画に出演
2025年1月サリクス研修所第2期生オーディション開催(合格者5名)
2025年4月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1CD発売
2025年6月第10回定期演奏会「モノフォニー→ポリフォニー」vol.1開催
2025年7月サリクス研修所第3期生オーディション開催(合格者2名)
2025年7月メンバーオーディション開催(合格者2名)
2025年11月Ensemble Salicus第4回演奏会、ワークショップ開催
2026年1月サリクス研修所第4期生オーディション開催(合格者なし)
2026年3月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサートに出演
2026年3月 -5月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.2クラウドファンディング
(支援者162人、支援金2,459,111円)
2026年5月第11回定期演奏会「モノフォニー→ポリフォニー」vol.2開催

振り返ってみると、我ながらよくこれだけのことをやったよなあと思います。

特に、自主公演はさておき、立教大学や国際基督教大学や国立西洋美術館やフォンス・フローリスからの依頼によって行った演奏については、外からの評価によってやらせていただいたことなので、ありがたいと同時に誇らしく思います。


ワークショップ

そしてこの活動の中で結構重要なのは、ワークショップをいっぱいやってるということです。

なにしろ私たちがやろうとしていることは文化の再創造なので、自分たちが演奏をして済む話ではないのです。演奏を評価できる人が必要なのです。

2024年に「旋法とヘクサコルド」の教本を書いて、それに基づいたワークショップを始めたので、サリクスでのワークショップは減っていますが、わたし自身がワークショップで教える回数は飛躍的に増えています。

これまで延べ1000人以上は教えてます。

皆様にぜひお願いしたいのは、自分の歌が上達するのは当然として、これらのワークショップを通して学んだ音楽を聴く耳を持って、世の中の音楽を聴いてほしいということです。

まず皆様の音楽を聴く耳が変わるということが第一だと考えています。これは自分の歌の上達にも必要なことです。

とにかく今の西洋クラシック音楽界には目利きがいない。

皆様には目利きになっていただいたいのです。


サリクスが上手くなるために

旋法とヘクサコルドワークショップは、実は本ができる前からゲラを使って、サリクスメンバー対象に行なっていました。

そこで得られたフィードバックがこの教本には活かされています。

そして今も、メンバー対象のワークショップは続いています。

メンバーワークショップの他にも、インド音楽限定公開レッスンやグレゴリオ聖歌合宿を企画したり(これも本来サリクスが上手くなるために企画したものです)、わたしのレッスンを半額にしたり、one dayレッスンを企画したりととにかくなかばボランティアで、サリクスが上手くなるためなら何でもやってます。

(特に今手応えを感じているのはone dayレッスンで、1日で10時間レッスンしますので、それはそれは一撃で超上手になります)

しかしそれでも、こんなほぼ無料みたいな企画でも参加してくれないメンバーもいるので、もはやギャラを払ってレッスンさせていただこうかなとさえ思ってます。

これはしかし資本主義社会においてはかなりの禁じ手。自分が死ぬかもしれないので最後の手段だとは思ってます。が、そこまで考えています。自分が生きることよりもサリクスが上手くなることのほうが自分にとっては優先順位が高いからです。

ほんとにできることは全部やってるつもりなのですが、もっとできることがあればぜひ教えてください。


サリクスの今後

このボランティアのようなサリクス上達計画を、持続していくことがサリクスの今後の目標のひとつです。

正直言って結構きついので、物理的に不可能になっちゃうかもしれません。これはもうまさしく資本主義との戦いです。戦って勝つ見込みがあるのかい?負けると思って勝負する奴なんかいねえんだよ。

というのはわたしが勝手にやることなので、「知らんがな」と捨て置いてくださってまったく結構なのですが、皆様にお願いしたいのは、「演奏会来てー」「ワークショップ来てー」「エレウシス入ってー」「斉唱団入ってー」「覚悟ある人は研修所オーディション受けてー」でございます!!

サリクスは今後、年に1回の定期演奏会、2年に1回のカンタータ全曲、2年に1回のEnsemble Salicusの演奏会を軸に活動してまいりますが、来年のマタイ受難曲初演300周年演奏会を皮切りに、大曲にもチャレンジしていこうと思っております。

しかし何しろ大曲を演奏するにはコストがどぎつい!!

演奏者は2-3倍必要だしその演奏者が乗る舞台面を持ったホールはたっかい!!きっつい!

コスト的には普段の定期演奏会の3倍はかかります。なので必然的に客席数も3倍くらいあるところでやらなければなりません。

皆様の応援あってのサリクスでございます。吹けば飛ぶような私たちの活動の継続のために、どうぞ今後とも応援よろしくお願いいたします。

インド古典声楽とグレゴリオ聖歌

先日開催いたしましたイベント、「インド古典声楽とグレゴリオ聖歌〜研究発表的レクチャーコンサート」ですが、ご要望がありまして、録画を販売することとなりました。

料金はお手頃価格のの1500円です。

レクチャーと演奏合わせて1時間40分ほどの内容となっております。

お申込みはこちら→https://forms.gle/KAB1yED3WSEx6HgcA

ツイッターでお声がけさせていただいたところ、思わぬ反響をいただきまして、2−3個売れたらいいなあと思っていたところ、すでに20名ほどの方にお申込みいただいております。

おそらくですが、演奏会であれば生演奏派の方も、レクチャー部分に興味を感じていただけているのではないかと思っています。レクチャー部分に関しては生でも録画でも得られる情報には違いが少ないと思いますので。

私が6年間ほどインド音楽のレッスンに通いまして、それをグレゴリオ聖歌の演奏にどのように活かしているかということについて赤裸々にお話しております。

後半の演奏部分では太郎さんのバーンスリーが本当にすごいことになっています。

大森の教会の響きがこれほどバーンスリーにぴったりだとは思いませんでした。

神がかった演奏です。

太郎さんのチャンネルからショート動画が上がっています。

パンフレットもついてます。

パンフ冒頭に書きましたまえがきを貼っておきます。ご興味持たれた方はぜひ録画をお求めください。

お申込み→https://forms.gle/KAB1yED3WSEx6HgcA


 グレゴリオ聖歌が楽譜として残され始めるのは9世紀から10世紀のことです。この単旋律のレパートリーが、西洋音楽の源泉と呼ばれるのは、まとまったレパートリーとして楽譜が残っているものとして最古であるからですが、その後もこのレパートリーは、現代に至るまで歌い継がれています。その間グレゴリオ聖歌は不変のものではなく、時代や地域の価値観の変遷に合わせて変化し続けています。ルネサンス期にはルネサンス風の、バロック期にはバロック風の、ロマン期にはロマン風の編曲がなされ、同じ曲であっても同じとは思えないほどの改変がなされることもありました。
 その都度その時代の歌いまわしも変化し、記録としての楽譜は残っているものの、録音技術が発明されるまでは、実際にどのような歌であったか、はっきりとはわかりません。特に最古の記譜法である「古ネウマ」に書かれている歌いまわしについては、わかっていることはほんの一部で(少なくとも私の目から観ると)、その全体像は完全に失伝してしまっていると言えます。西洋音楽の源泉という大仰な看板を背負いながら、実際それがどういうものだったのかはよくわかってないのです。
 私はこの「古ネウマ」を初めて見たときに「私は一体今まで歌の何を学んできたのだ。ここには歌のすべてがあるじゃないか」と感じました。それくらい「古ネウマ」は五線譜に親しんだ人間にとって、衝撃的に情報量の多い記譜法です。
 この「古ネウマ」で書かれた時代のグレゴリオ聖歌の「歌」、つまり「失伝した西洋の歌」の再創造が私の活動の大きなテーマであるのですが、その途上で出会ったのがインド古典音楽です。バーンスリー奏者の寺原太郎さんに習い始めて私は、「古ネウマ」と出会ったときと同様に、「私が今まで学んできた歌は一体何だったんだ」と白目を剥きました。それはもうカンブリア紀並に、歌の世界が広がり、旋律に対する解像度が爆発しました。その結果今では「古ネウマ」に書かれているのは歌の1%くらいなんじゃないかと感じています。そして裏を返せばそれくらい五線譜に書かれた情報(音高と音価)というのは断片的で、歌の0.001%位なのではないかと思っています。
 インド音楽を学びつつ、師匠にグレゴリオ聖歌を聴いてもらい、歌いまわしを相談しながら、「古ネウマ」の、特に「装飾ネウマ」と呼ばれるタイプのネウマについて検討を重ねました。その結果、それぞれの装飾ネウマについて、ある程度確信を持って、こうだったんじゃないかという歌い分けを決めることができています。それが決まったとて(それは歌の1%にも満たないので)、グレゴリオ聖歌がとても美しく歌えるというわけではないのですが、ここでその経緯と結果を一度発表させていただきたいと思います。
 そしてこの営みの中でわかってきた点として、グレゴリオ聖歌とインド古典音楽にどのような共通点があり、どのような相違点があって、いかにインド音楽の発想がグレゴリオ聖歌に活かされるのかということも整理してお伝えしようと思います。
 再創造した「歌」に説得力があって、それをもってこの営みに共感していただくのがもちろん一番なのですが、それを補足するものとして、またなぜそういう歌いまわしに至ったのかという疑問にお答えするという意図もあって、この度のレクチャーコンサートを企画しました。この企画を通して、「失伝した西洋の歌の再創造」の営みの輪に加わってくれる方が、一人でも増えると嬉しいです。

2025年総括

2025年個人的に最も大きなニュースと言えば、将棋ウォーズが三段に昇段したことです。

将棋ウォーズは日本将棋連盟公認のアプリなので、申請すれば免状がもらえます(ただしバカ高い)。

二段になってから7年くらい経ってると思うので、これはもう凄い出来事なんですが、将棋やってる人でないとこれはなかなか伝わらない。悲しい。


個人的なことでいうとニュースといえばそれくらいで、あとは全部仕事関係になろうかと思います。

蟹笛ライブをやった

ジェバンニ=オノさんにお誘いいただきまして、年始に蟹笛ライブデビューしました。

来年の1月11日にもやる予定ですので皆様ぜひお越しください。蟹鍋をして蟹笛を作り、ライブをします。

骨笛を作った

インド音楽の師匠、バーンスリー奏者の寺原太郎さんがレッスン中にどういう流れだったか以前食べたマトンの骨を持ってきてくれて、吹いたら吹けたので調整して骨笛にしてもらいました。

新たに骨笛奏者の肩書が増えました。

シュルティボックス買った

本来的にはサレガマパダミサ(笙のカニササレアヤコさんとやっているグレゴリオ聖歌の企画)のために買ったのですが、これ本当に練習が捗ります。音程取れるようになると思います。一家に一台まじでオススメです。

車買った

ほんとうに車って便利ですね。

行き帰りの時間が下手したら3分の1くらいになるし、移動中に練習できるというのがもうほんとうに良い。歌の人はみんな車にしたらいいよ。上手くなるよ。

グループを4つくらいやめた

いろいろ重なっていっぺんにいろいろやめました。

そういう巡り合わせ、縁だったんだと思います。

今ほとんど自分でやってる企画以外ない感じなので、割と暇です。何か一緒にやれそうなことあれば誘ってください。めんどくさいと思いますが。


演奏会振り返り

今年やった演奏会は

1/5蟹笛ライブ

1/19合唱団エレウシス

1/30トム・ウェイ氏ライブ

2/11フォンス・フローリス古楽院発表会

3/15Tenores de Tokyo

3/18カペラ目黒美術館コンサート

3/30バッハカンタータアンサンブル

4/19サレガマパダミサIII

5/18合唱団そら

6/23.29Salicus Kammerchor第10回定期演奏会

9/23サレガマパダミサIV

10/11ヴォーカル・アンサンブル アラミレ

10/19バッハカンタータアンサンブル

11/15.22Ensemble Salicus

となりました。ご来場くださいました皆様、誠にありがとうございました。

本番は月2回でも多いなあと感じてるので、今年くらいがちょうどいいと思ってます。どれもよく準備できたと思います。

あと今年の経験として大きかったのは2回のインド音楽合宿とグレゴリオ聖歌合宿でしょうか。

これらはまじで凄いので皆様オススメです。インド音楽合宿は寺原さんのとこにレッスンに行けば案内が来ます。グレゴリオ聖歌合宿はヘクサコルドWSに来れば案内が来ます。


私の活動の中心にあるのは、「失われた西洋の歌の再創造」にあるので、それを実践しているサレガマパダミサやサリクスの演奏活動、そしてその文化の再創造としての営み、ヘクサコルドWSやエレウシス等での教授活動が二本立てになってます。

なにしろ「失伝した文化」なので、今の人には理解されづらいというのが悲しいところなのですが、300年後に実を結ぶかもなとか思いながらやってます。

そんなわけでサリクスの活動も10年経ちましたがいまだにカツカツで情けない限りでございます。

毎年この時期に行っている定期会員募集も今日が締切ですが、目標には遠く及ばず・・・。

今年の会員募集は主に再来年以降の出演メンバーの増減に関わってきます。メンバーが減ってたらお察しください(涙

最後の1日ですが、こちらどうぞよろしくお願いいたします。

https://salicus.thebase.in/items/127778351

それでは皆様、2025年も大変お世話になりました。

良いお年をお迎えください。

サレガマパダミサIV

カニササレアヤコさんとの企画第4弾です。

ミサをグレゴリオ聖歌で最初から最後まで歌うという、一見超シンプルなプログラムです。

ただ歌に加えて、タンプーラと笙が一緒にやるというのが珍しいですね。


タンプーラ

最近ありとあらゆる私の出没するところでタンプーラの音が流れてますので、耳馴染みのある方も多いかもしれませんが、タンプーラというのはインドのドローン楽器です。

ドローンなので同じ音がずーっと鳴り続けます。なのに撥弦楽器というちょっと変わった楽器です。弦を弾く楽器は音が減衰するので一見ドローンにはふさわしくないようですが、むしろだからこそそこに呼吸が生まれて、その空間の中で旋律を歌うのが容易になります。

なぜインドの楽器をグレゴリオ聖歌に用いるのかというところですが、現状のわたしの考えでは、1000年前のグレゴリオ聖歌の有様というのは、現代のインド音楽に非常によく似ています。

1000年前のグレゴリオ聖歌の歌い方を再創造するのに、インド音楽は大変参考になります。

そういった経緯でインド音楽をここ数年学んでいまして、私がグレゴリオ聖歌を歌うときには大体いつもタンプーラが鳴っています。

1000年前のグレゴリオ聖歌実践に、ドローンがあったかどうかは定かではありません。ただそういう実践がまったくなかったとも言えません。というかかなり多くの点において「そうでなかったとは誰も言えない」状態なので、なんでもできるんです。いいでしょ。古楽って。


笙は雅楽で用いられる人力リードオルガンみたいな楽器です。主に和音を担っていますが、旋律も吹けます。カニさんはエレクトリカルパレードとかいろいろ吹いてます。

いやこれバカテク。

それでインドにもハルモニウムというこちらもある意味人力(手でふいごパフパフしてるので)リードオルガンがあります。

これは歌の伴奏によく使われていて、歌の旋律をなぞったり、合いの手を入れたりしています。

またシュルティボックスという楽器はハルモニウムから旋律の機能をそぎ取ったような楽器で、タンプーラ同様ドローン楽器です。

それで、このハルモニウムやシュルティボックスのような役割を笙でやってもらえないかという発想で生まれたのがこの企画です。


アーラープ

更に2回目からは、インド音楽においてタブラの入らない自由リズムのセクション「アーラープ」を挿入するようにしています。

アーラープはラーガを召喚する呪文みたいなもので、雅楽的には調子、トッカータとかプレリュードとかそういったものに近い役割です。

でなぜそれをグレゴリオ聖歌の合間にやるのかということですが、まず私は「グレゴリオ聖歌はラテン語のついたアーラープ」だと思ってます。そのくらいよく似ています。

そしてミサを歌うのに、グレゴリオ聖歌の場合は、例えば入祭唱は第1旋法だけど続くキリエは第8旋法、というように、1曲ずつ旋法がどんどん変わっていきます。

なにもなしにこれをどんどん切り替えて歌っていくのって実は結構難しいんですが、この旋法が切り替わるところにアーラープを挿入することによって、続く旋法の雰囲気をあらかじめ作ってしまおうということなんですね。

このアーラープに関しては今回もバーンスリー奏者の寺原太郎さんにプロデュースいただいております。


各曲について

毎回(誰にも気づかれないような)新たなチャレンジを少しずつやっていますが、今回も新しいことが結構たくさんあります。

まずひとつ大きいのはタンプーラの調弦を途中で変える、というところです。過去3回はずっとタンプーラはpa-sa-sa-saの調弦でやっていましたが、今回は一部ma-sa-sa-saでやります。これなかなかガラッと雰囲気が変わるので、聞いていて新鮮に感じられると思います。

なぜそういうことになったかというと、タンプーラをmaにチューニングするラーガのアーラープをやるからで、つまりそういうラーガに挑戦するのも今回が初めてとなります。

以下できるだけ短く各曲について演奏メモを書いてみます。聞いてるだけだと絶対誰にも伝わらないような工夫ばっかりですが、ちょっとでもわかると聞いてて楽しいと思います。

(初!)としているのはこれまでやってこなかった新たな要素です。

1. 即興 笙
D-Aで終わるということだけ決めてます。


2. 入祭唱 Introitus 声とタンプーラと笙

tuttiで歌うところに笙で和音を入れてもらいます。和音を入れるという意味で、笙を笙扱いしているといえます。


3. キリエKyrie 声とタンプーラと笙

交互唱です。声と笙が交互に旋律を歌います。

(ここでタンプーラをmaに)(初!)


4. 双調調子 笙

雅楽においてアーラープ的な役割を果たす調子をそのままやってもらいます。今回は双調(初!)の調子です。


5. グロリアGloriaと双調調子 声とタンプーラと笙

そのままタンプーラが加わり、グロリアを歌います。笙がマディアムセです(初!)。マディアムセというのはマをサにするということで、歌はDの音がfinalisなのですが、笙はGが主音です。なぜそんなことになっているかというと、簡単に言えばそのほうがいい感じだったからです。笑


6. 集祷文 Collectaと双調調子 声と笙
7. 使徒書朗読 Epistolaと双調調子 声と笙

調子が続く中、そのまま祈祷と朗読に入ります(初!)


8. アーラープRaag Gorakh Kaliyan 声とタンプーラ

続くGradualeが第8旋法で、これはfinalisとdominantの関係が4度のソ旋法です。これに合わせたGorakh Kaliyan(初!)はまさにそれにピッタリで、どこからがグレゴリオ聖歌なのかにわかにわからないと思います。(歌詞が聞き取れればわかります)


9. 昇階唱 Graduale 声とタンプーラと笙

tuttiの部分の旋律を笙で重ねます。つまりハルモニウムのような感じに吹いてもらいます。

(ここでタンプーラをpaに)


10. アレルヤ唱 Alleluia 声とタンプーラと笙

9と同じ感じ。


11. 続唱 Sequentia 声とタンプーラと笙

3と同じく交互唱ですが、Sequentiaなので、奇数節と偶数節が同じ旋律です。つまり歌で歌った旋律をそのまま笙で吹いてもらうということで、その意味でちょっとだけハルモニウム的です。


12. 福音書朗読 Evangelium 声とタンプーラ

普通に朗読します。ちなみにミサには司祭と会衆との受け答えのシーンがありますが、その会衆の部分はカニさんに歌ってもらいます。


13. クレドCredo 声とタンプーラと笙

こちらも声と笙の交互唱。

(ここでタンプーラをmaに)


14. アーラープRaag Bagheshri 声とタンプーラ

続くOffertoriumは、ラーガ的視点からすると途中で違うラーガに変わっている雰囲気なのですが、そこから逆算してその前の展開を考えるとBagheshri!ということでこのラーガに決まりました。なんとアンタラ(アーラープのセクションで音域が高い)までやります(初!)。


15. 奉納唱 Offertorium 声とタンプーラと笙

これも確か旋律を重ねてもらいます。


16.叙唱 Praefatio 声

本プログラム唯一のアカペラです。


17. サンクトゥスSanctus 笙

グレゴリオ聖歌を笙だけでやってもらうのはこの曲だけです。キーがBになります(初!)。


18. 主の祈り Pater noster 声とタンプーラ

これは前からのつながりと、カニさんの音域のこともありマディアムセです(初!)。結構高めのキーになります。


19. アーラープRaag Bhairavi 声とタンプーラと笙

Bhairaviというのは本当に面白いラーガで、ミ旋法なのですが、オクターブの12音全て使います。なのにミ旋法です。その上普通はタンプーラはパでやりますが、なんとマでもできます。ホント不思議。普通はタンプーラが変わったら別のラーガになってしまいそうなもんですが、それでもBhairaviだと言えるほどに、このラーガのキャラクターが濃いのだと思います。MaのBhairaviをやるのは今回が(初!)です。


20. アニュス・デイAgnus Dei 声とタンプーラと笙

笙は和音を吹いてもらいます。


21. 聖体拝領唱 Communio 声とタンプーラと笙

ミ旋法からソ旋法への連結で、普通はとても難しいはずなのですが、その前のBhairaviで色んな音を歌っているので、なぜかすんなりとソ旋法の世界へと入っていけます。こういう連結も(初!)


22. 聖体拝領後の祈り Postcommunio 声とタンプーラ

Maのタンプーラで祈祷をやります(初!)


23. 終祭唱 Ite missa 声とタンプーラと笙

第1旋法なので普通はタンプーラPaの方が合うのですが、Maでやります(初!)。よく知った旋律がちょっと違うふうに聞こえます。


24. 即興 声とタンプーラと笙

何も具体的に決まってませんが、これも笙はマディアムセしてもらって最後タンプーラのMaをoffにしてSaで終わろうかななどと思ってます。そうなるとは限りません。笑
もしそうなったら(初!)


ということで4回目なのですが、意外と初めての試みがいっぱいあります。聞いてて誰がわかんねんというような違いばかりなような気がしますが、やってるほうとしては本当にこれ面白いんですよねえ。
毎回、「その手があったか!」の連続で楽しいです。次回は楽器が増えるかも!?なんだって!?

お楽しみに!


サレガマパダミサIV
笙とタンプーラと歌うグレゴリオ聖歌

2025年9月23日(火祝)15時開演

@大森福興教会

一般3500円 学生2000円(当日+500円)

演奏曲:悲しみの聖母の祝日のミサ

出演:櫻井元希 カニササレアヤコ

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdloXZzCnlSCq5sT2HqsBsCM6Cg4BEkJj5gfc24hYIOPcR1dg/viewform

サレガマパダミサIII終演

先日、カニササレアヤコさんとの企画の第3弾が終演いたしました。

ご来場いただきました皆様、誠にありがとうございました。

タンプーラと笙とグレゴリオ聖歌を歌うという企画ですが、前回からインド音楽のアーラープもやっています。

こちらのプロデュースはバーンスリー奏者の寺原太郎さんにお願いしております。

普通グレゴリオ聖歌というものはアカペラで歌われますが、タンプーラと一緒にやろうと思うと、キーを固定するということになります。

つまり、レ旋法はレで終わり、ミ旋法はミで終わりまして、これを終わる音ということでfinalisといいますが、このfinalisの高さを固定するということです。

今回の場合は笙と私の歌のキーに合わせて、タンプーラをa’=430HzのDでチューニングしていました。

このfinalisを固定するというやり方は、旋法それぞれの違いがわかりやすいということがありまして、ワークショップやなんかでもそのようにしています。

これはまたインド音楽のやりかたでもありまして、歌だったら歌い手のキーというのが決まっていて、そのキーでタンプーラをチューニングし、そのキーをサレガマパダニサの「サ」の音として様々なラーガを歌うんですね。

西洋でも基準ピッチという概念が生まれるまでは大概似たような有り様だったと考えられます。それぞれやりやすい高さで歌やあええ。複数人で歌うならだいたいみんなが歌いやすい高さでやりましょうということですね。

サレガマの話が少し出たので、演奏会タイトルについてですが、お察しの通りサレガマパダニサの最後のところをミサにもじっております。なのでこの企画ではミサ以外はやりません。

このタイトルはカニさんと最初に打ち合わせした帰り道にLINEでカニさんから候補が山程送られてきまして、いやさすがというか、この人天才やなと思いました。他の候補もめっちゃ面白かった。

少し脱線しましたが、つまりミサの中で、同じキーで様々な旋法を歌いますので、その度にムードとモードを切り替える必要があるわけです。

記譜通り、レ旋法はDをfinalisに、ミ旋法はEをfinalisにということであれば、音階が固定されていますので、同じ音階の中で軸足をずらしていく感じになるのですが、finalisの音高を固定すると、finalisの周りに広がる音世界がガラッと変わりますので、聞いてる方としてはわかりやすいのですが、演奏する方としては世界の切り替えが必要になってくるんですね。

そういうわけで前回からアーラープをやっているというわけです。

アーラープというのはインド音楽の最初の部分で、タブラ等打楽器が入っていない、周期的なリズムの存在しない部分のことです。

https://youtu.be/g2OsGaSyYOM?si=2UaQnnptNIsYjOax

こちらでは30分くらいやっていますが、パカワージの出番は最後10分くらいでなんか可哀想な気もしますが、そんなもんらしいです。

それでこのアーラープというのが、そのラーガを立ち上げる呪文的な意味合いもあって、そんなわけで、今回の場合旋法が切り替わるタイミングで、次の旋法へスムーズに転換していくようなアーラープを考えていただきました。

本来その他のセクション同様アーラープも完全に即興なのですが、私はまだそこまでインド音楽に習熟しておりませんので、太郎さんによりfixされたものを歌わせていただきました。

そして旋法が切り替わるところすべてというわけではなく、その一部でアーラープを、他の部分では笙の即興をいれてもらって、流れがあって且つ旋法の切り替えをスムーズにということを試みています。


グレゴリオ聖歌の部分では、笙は交互唱したり、ハルモニウム(歌の伴奏によく用いられるインドの楽器)のように歌と同じ旋律を演奏したり、シュルティボックス(タンプーラの代わりに用いられることのあるインドの楽器)のようにドローンをやったり、あるいは笙のように(!)和音を演奏したりというさまざまなやり方で演奏してもらいました。

私の方は普通に、超普通にグレゴリオ聖歌を歌っております。

そしてもう一つのやり方として、雅楽の伝統曲である「調子」を普通に吹いてもらって、本当に単純にそれにグレゴリオ聖歌を重ねるというやり方もやっています。

↑こちらがそのパターンです。

なんの違和感もないんですよね。まるで古い友人に久々に会ったかのような馴染みっぷり。

これお互いにただそれぞれの伝統曲を演奏してるだけなんですけどね。

「音取」といったほうが聞き馴染みがあるような気がしますが、「調子」は音取の規模が大きい版?あるいは調子の一部が音取になった?ようです。(詳しくなくてすみません今度聞いときます)

アーラープと役割がよく似てるというかもうほとんど同じというか、そしてもはや私はグレゴリオ聖歌はアーラープにラテン語がついたものくらいに感がてますから、このマリアージュも納得の出来栄えという感じがします。

あと、今回初の試みとしては、Sanctusを笙のソロで、4度並行のオルガヌム風に演奏してもらいました。

そうそう、笙って竹製の人力オルガンですから、教会音楽に合うのは当然ですよね。

オルガヌムとオルガンは語源が多分同じですからまあなんちゅうか、はい、全部つながってるよねええという話です。


そして普通に私が歌っているグレゴリオ聖歌は、世界で私しかやってないやり方で歌っています。

単にインド音楽の楽器を使って、インド音楽と交互にグレゴリオ聖歌を歌っているというよりも、もっとダイレクトに、インド音楽からグレゴリオ聖歌の歌唱法のインスピレーションを得ています。

グレゴリオ聖歌の歌いまわしを記載した「古ネウマ」というものがあるのですが、その中にある「装飾ネウマ」これは何らかの装飾的な歌い方をしていたらしいということはわかっているのですが、具体的にどういう装飾だったのかはっきりとはわかっていません。

最初はこの「装飾ネウマ」のヒントを得ようとしてインド音楽を学び始めまして、私がやっている装飾ネウマの歌い方は、例えばクィリスマやオリスクスはムルキーに、サリクスはミーンド、ストローファはアンドーランにといった具合にインド音楽にヒントを得た歌い方になっております。

きっとこうだったに違いないと思ってやっておりますが、誰も「そうではなかった」とは言えない。これが古楽のロマンですよねえ。

それでインド音楽を学んで、その凄まじい旋律に対する解像度を持ってグレゴリオ聖歌に取り組んでみると、装飾ネウマではないところ(単純ネウマや複合ネウマといいます)も、それまでとは全然違って観えてくるんですね。

ここはこういうミーンドなんじゃないか、ここは全部流れないネウマで書いてあるけどこっちよりこっちは流れるんじゃないか、速いとか遅いとか書いてあるけどそれってこのくらいの速さ、遅さなんじゃないか、とかですね。旋律が即興されたその瞬間に持っていたであろう有機性みたいなものが観えてくる気がしてですね、そういった意味で私のグレゴリオ聖歌の歌い方は、もはや装飾にとどまらず、全体的にインド音楽に激烈に影響を受けています。

そんな風にグレゴリオ聖歌を歌っている人は世界に私だけで、他にいたら紹介してほしいです。いるならそういう人と一緒に演奏したい。

はい。このような営みをですね、「失伝した西洋の歌の再創造」という言い方でやっておるわけですが、これをゆくゆくはその後の西洋の歌、ルネサンスポリフォニーやバロック音楽でも活かしていきたいのです。

それでその第一歩として6月のサリクスの公演はグレゴリオ聖歌だけの演奏会をやります。

毎日こんなことばっかりやってる私でも難しいこのグレゴリオ聖歌の歌唱法、大勢でやるとどうなっちゃうのか?!というのがこの演奏会の聴きどころです。

詳細はこちら→https://www.salicuskammerchor.com/concert


はい。と、いうような記事を演奏会前に出せばよかったなあとも思うのですが、後の祭り。全く思いつきませんでした。

ということで、演奏会には来れなかったけど、興味を持ってくださったそこのあなた!

ご安心ください。前回と前前回の演奏会音源を販売しております。動画もついてます。

https://genkisakurai.base.shop/categories/6544442

今回のも販売する予定ではありますが、編集いつできるかわからないので、ぜひこちら↑ご利用いただければと思います。

寺原さんも今回客席にお越しくださいまして、大変ありがたい感想をいただきました。

(ここからはじまるツリーがほんとありがたーいのでぜひリンクから飛んでいただいて、いいね!&リツイしてね)

また、ピアニストの榎本さんもお越しくださいまして、凄い長文の記事を書いてくださいました。

誠にありがとうございます。

https://www.virtuoso3104.com/post/srgmpdms3


以下お知らせでございます。

今週末から古楽院の2025年度講座が始まります。

ルネサンス音楽基礎ということで名前を変えまして、私がルネサンスポリフォニーをやるときに教えている基礎を全部まるっとパッケージでお伝えします。できるかどうかはさておき全部お伝えはします。

こういう講座はここだけです。

詳細↓


J. S. バッハの教会カンタータ全集vol1リリース!

サリクスのJ. S. バッハの教会カンタータ全集vol.1、お待たせしておりましたがついに販売開始となりました。

クラウドファンディングでご支援いただいた方にはすでに発送しております(サインが必要な方だけもう少々お待ちください。今都内を駆けずり回って集めているところです)。

クラファン間に合わなかったという方、これはもうマストで買ってください。マジで。これが売れないとマジで悲しい。壮絶な演奏です。↓

https://salicus.thebase.in/items/105521915

2019年にリリースしたモテットのCDとセットだとお安くなります!↓

https://salicus.thebase.in/items/105522627


ヘクサコルドWS第13回受講者募集!

東京のWSもこれで教本一巡します。産業革命以前の西洋音楽の基礎であるヘクサコルドにじっくり取り組みたい方はこちらにどうぞ。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSesWlDzbuyYFQ44zzTcYQnzdnmDrxID-PFWAcO1-l2P4PwDoQ/viewform


合唱団エレウシス団員募集!

最もプリミティブに、最も地道に実力をつけたい方はこちら。毎週信じられないくらい地道な練習をしています。

見学お申し込み↓

https://docs.google.com/forms/d/1xA76VkG8AOTb9G_SPNFcMKa5WRwoHSsSyXzI5r8wGWw/viewform?edit_requested=true


サリクス研修所第3期研修生募集!

サリクスのメンバーになりたい方はこちらでございます↓

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeRHwet1wNXMfZy9TQDaQ7HWoNQTEaBDhESDPi55aK79Kv9Fg/viewform