前回の記事はこちらから→https://bit.ly/3heOqTx
今回は、菩薩のラメント×キュロスの哀愍の各曲について解説していきます。
第1部「菩薩のラメント」
①「エレミアの哀歌 第1章1-14節」
ユダヤ教朗唱(ヘブライ語) と グレゴリオ聖歌(ラテン語) を交互に
前半冒頭はまずエレミアの哀歌の第1章を1節から14節まで、ユダヤ教朗唱とグレゴリオ聖歌交互に歌います。
いきなり声明じゃないんですけど、うちの叔母はほんとイカれてて、いろんな単旋律聖歌を歌うことができます。プログラムを見ていただくとわかるんですが(最後に貼り付けます)、叔母はマジで超いろんな言語で超いろんなスタイルで歌う一方、私はグレゴリオ聖歌しか歌いません笑
このユダヤ教朗唱とグレゴリオ聖歌の交互唱はなかなかこれだけでもとてもおもしろくて、ヘブライ語で微分音バリバリ使ってくる叔母と、Ut- Re-Mi-Faの3音しかない超シンプルな旋律でのラテン語の語りとが対照的でありながら、ヘブライ語をラテン語に翻訳して説明する読み聞かせ?のような雰囲気でなかなか味があります。
②「エレミアの哀歌 第2章14節」
声明風新作(中国語) と グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語) をポリフォニー
続いては中国語版聖書からエレミアの哀歌第2章14節を引用し、それを声明風に新作したものと、同じ節をグレゴリオ聖歌風に新作したものでポリフォニーします。
送られてきた声明の音源をミの旋法と捉え、第3旋法風の対旋律をつけました。
これは即興風というよりは対位法風に作りましたが、何が協和音程で何が不協和音程なのかという価値観はこの世界線には存在しないので、勘で作りました笑
これなかなかいい感じにポリフォニーになってると思います。
③「エレミアの哀歌 第4章17節」白拍子風新作(日本古語)
と
「エレミアの哀歌 第4章18-22節」朗唱様式(ラテン語)
をポリフォニー
前半最後はエレミアの哀歌第4章17節を叔母さんが白拍子風に新作したもの(聖書のテキストを日本古語に翻訳!)に、哀歌のその次の節からを朗唱風にしたものを合わせます。
この章は典礼の中では使われていないのですが、①で演奏した(典礼の中で使われる)他の節と同じ方法で朗唱します。
なので新作というわけではありませんが、こういう曲は実際には存在しないという意味では新しい曲と言えるかもしれません。
朗唱なので割と一つの音でととととととっと読んでいくのですが、これがまた「喋るドローン」みたいな感じになって面白いです。
第2部「キュロスの哀愍」
④「エレミア書 第29章10節、第25章22-23節」
グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語)
エレミア書から引用したこちらの節では、エルサレムが70年神から見放され、70年後に再び復興することが預言されています。キュロスによってエルサレムが返還されたというのがこれにあたり、今回この部分をキュロスの円筒碑文に先立つ形で取り上げました。
こちらはポリフォニーではなく全く単旋律のグレゴリオ聖歌風新作です。
他の部分で第1旋法が出てこないので第1旋法で作りました。
まず29章の方をDのドローン上で即興し、それを録音したものを採譜するというやり方で作ったので、方法としては結構オーセンティック何じゃないかと思います。紙の上で作曲したのではなく、即興したものを書き留めたという点で。
これをアンティフォナとし、25章の方は詩編唱風に歌います。詩編やカンティクム以外を詩編唱のように歌うことは多分典礼上はないと思うのですが(違ったらごめんなさい)、この世界線では何でもありなので、こういう非現実的なことにもチャレンジします。
雰囲気としてはIntroitus(入祭唱)風になっております。
⑤「キュロスの碑文第32-35節」
新作(アッカド語)
こちらは叔母によるソロです。アッカド語ってそもそもどういう発音で喋られていたかすら分かっていないらしく、まずそこから復元して旋律つけてってもう完全にどうかしてますよね笑
どんだけ手間なんだ。
詳しくは叔母が書いたこちらの記事を御覧ください→https://bit.ly/3iU4ZV8
⑥「キュロスの碑文第35節」声明風新作(中国語)
と
「イザヤ書第44章21-27節」エピストラ風朗読(ラテン語)
をポリフォニー
続いてキュロスの碑文(アッカド語)の一節を中国語に翻訳したもの(!)を声明風に新作したものに、イザヤ書の一節を合わせます。
イザヤ書の当該箇所ではキュロスによってもたらされたエルサレムの復興が語られています。
ここでは旧約聖書をミサの中で朗読するときの方法で朗読します。カペラの演奏会に来たことのある方は「ああ、あれか」とピンとくるはずです。
⑦「延命十句観音経、梵網菩薩戒経偈」(読経)
と
「イザヤ書第44章28節、第45章1節」グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語)
をポリフォニー
最後はお経とグレゴリオ聖歌のポリフォニーします。
キュロスの碑文の最後の節がキュロスの長命を願う言葉で終わっているため、同じテーマを持つ「延命十句観音経」と、その続きである「梵網菩薩戒経偈」も取り上げました。最後に菩薩登場ということで前半プログラムとのテーマの回帰みたいなところも狙っております。
これに合わせるグレゴリオ聖歌はまさに「キュロス」の固有名詞が登場する(ラテン語ではCyro)箇所で、ここでの作曲方法は、グレゴリオ聖歌が新作される時に用いられる「替え歌」の方式を取りました。
なので厳密に言うと作曲ではないのですが、実際そういうやり方もあるので、伝統に基づいたやり方友言えます。
このお経に合いそうな第7旋法のグレゴリオ聖歌を探して、それにイザヤ書のテキストを振りました。
まとめ
まとめますと、内容的にはざっくり前半はエルサレム没落の嘆き、後半はエルサレム再興。
構成としては、
前半は交互にソロ→ポリフォニー
後半は私のソロ、叔母のソロ→ポリフォニー
という感じで、ポリフォニーも、お互い旋律のもの(②)から、私のドローン×叔母の旋律(③、⑥)、私の旋律×叔母のドローン(⑦)というなかなかバラエティに富んだ構成となっております。
以下プログラム全体です。
プログラム
第1部「菩薩のラメント」
①「エレミアの哀歌 第1章1-14節」
ユダヤ教朗唱(ヘブライ語) と グレゴリオ聖歌(ラテン語) を交互に
②「エレミアの哀歌 第2章14節」
声明風新作(中国語) と グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語) をポリフォニー
③「エレミアの哀歌 第4章17節」白拍子風新作(日本古語)
と
「エレミアの哀歌 第4章18-22節」朗唱様式(ラテン語)
をポリフォニー
第2部「キュロスの哀愍」
④「エレミア書 第25章22-23節、第29章10節」
グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語)
⑤「キュロスの碑文第32-35節」
新作(アッカド語)
⑥「キュロスの碑文第35節」声明風新作(中国語)
と
「イザヤ書第44章21-27節」エピストラ風朗読(ラテン語)
をポリフォにー
⑦「延命十句観音経、梵網菩薩戒経偈」(読経)
と
「イザヤ書第44章28節、第45章1節」グレゴリオ聖歌風新作(ラテン語)
をポリフォニー
いやあ我等ながら面白そう。
皆様ぜひ会場に足をお運びください。