たまに話題になりますが、「暗譜」ということについて昨日稽古しながら考えていたことをシェアしようと思います。
暗譜の是非というのは、「暗譜することによって演奏がより良くなるのか」という話だと思いますが、わたしはそれには基本的には「良くなる可能性が大いにある」と考えています。
覚えるということ自体に大した意味はないですが、覚えるという行為を通して得られる別のものがあるからです。
それはひとことで言うと「身体と音楽が語りかけてくる声に耳を傾けやすくなる」と言えるかなあと思います。
そもそも目を開けているだけで気が散りますので、身体に対しても音楽に対しても気を向けるのが難しくなります。
その上、書かれている情報を読み取ろうとしていると更にそれは困難になるというか、その状態では流石に音楽や身体に目を向けるのは不可能なんじゃないかと思います。
情報を読み取ろうとしてるという時点で頭が働いちゃってますので、無理ですね。
ただ、閉眼でないと身体や音楽に目が向けられないかというとそうでもありません。ただし、相当な実力が必要です。
要するに、「暗譜は必ずしも必要ではないが、それでいい演奏をするためには相当の実力がいる」ということだと思います。
少なくとも稽古の段階では、覚えるというプロセスを踏むということが上達のために、殆どの人には必要となります。
暗譜を目的とするのではなく、歌の上達のための手段として暗譜があると考えるといいでしょう。
「身体や音楽に対する眼差し」というのが歌の上達のためには必要で、それを得ることが出来るというのが暗譜の目的だということに尽きるのかなあと思いますが、更にわかりやすい卑近な例としては、結果的に音楽の構造(ストーリー)を知ることになるということもあると思います。
ストーリーがわからないと覚えるのは難しいので。でこれも、覚えなくても音楽の構造が分かる人にとっては不要です。ただそういう人はまあ殆どいないと思います。
さらには覚えるためには繰り返して稽古する必要があって、繰り返し稽古するという覚えるためのプロセスそのものが歌の上達のための稽古になるということもあります。
だからどちらかというと「繰り返し稽古する」ということの方に目を向けるべきなのかなとも思います。
その結果自然に暗譜して、自然に暗譜によって得られること(身体や音楽に対する眼差し)が得られていればいいのではないかと。
だからわたしのスタンスとしては、「繰り返し稽古しましょう」ということになるのですが、ただ覚えようとせずに繰り返し稽古することも(短時間であれば)できてしまうので、「覚えて繰り返し稽古しましょう」、がより正確かもしれません。
それでオススメの稽古方法としては、すぐに覚えられる短いフレーズを繰り返し稽古することです。
フレーズが長いと覚えることが目的化しやすいので、まずは短いフレーズで稽古したほうがいいです。
それをひたすら繰り返していると飽きてきます。そこで、「わたしは自分でさえも飽きるような歌を歌っている」ということに気づけます。そこが稽古の入口です。自分の下手さを知らないと稽古の必要性がわかりません。そして楽譜を見ながら自分の下手さに気づくのは相当難しいです。
自我が歌から離れて、自分が歌ってるような感じがしなくなってきたらいい感じです。
そこまでいったら次のフレーズの稽古に移って、それもいい感じになってきたらその2つのフレーズを続けて歌ってみましょう。充分稽古ができていれば、短いフレーズ2つ分くらいは既に覚えているはずです。
それを返し縫いの要領で、フレーズが①②③④⑤とあるとすると、①②、②③、③④、④⑤と稽古していきます。
①から⑤までを完全に覚えるというのはわたしはそんなに重要なことではないかなと思います。楽譜をチラ見したら「ああそれね」って思い出せるくらいの感じでいいのではないかと思います。
それで暗譜アンチの人の意見としては、声部が山程ある複雑な西洋音楽の場合、ほんとに全部は暗譜できてないだろ、絶対取りこぼしあるだろ、というのがあると思うんですが、わたしはそれ全部覚えることにはそんなに意味ないかなと思います。
それはリアルタイムにその時々で感じてればいいんじゃないかと思います。そして、その方がいい演奏ができると思います。
最初に書いた通り、覚えることが目的なのではなくて、いい演奏をすることが目的なので。
自分の為すべきことがわかっていて、全体を感じることができている。それで(いやむしろその方が)いいと思います。
そして「覚えて稽古する」ということのほうが、「本番の時に覚えている」ということよりもプライオリティは高いとわたしは考えています。
つまり本番の演奏に「覚えるということ」が与えるプラスの影響よりも、稽古のときに「覚えるということ」が与えるプラスの影響のほうがはるかに大きいということです。
そんなわけでわたしは本番の時に全く楽譜を見ずに演奏するということはまずないけど、「覚えて稽古」するということは是非やったほうがいいよというスタンスでいます。