合唱発声の一般的傾向と対策4

さて、いよいよ対策編です。

最初にも書きましたが、こういうのは自己判断を見誤ると逆効果になることもあります。

今の自分の状態をちゃんと見極めるためにはボイトレに行ってください。

ボイトレの仕事って、今の発声状態を把握して、改善するために必要なのは何かを見極めることだと思いますが、この二つは、自分ではかなり難しいです。

それから一つの発声上の問題を解決するための手段は一つではありません。無数にあります。

なにしろ個体差がありますので、どの手段がより効果が高いかは人によります。そういったところの判断も、ボイストレーナーの引き出しの多さと、どのツールがハマっているかの見極めにかかっていると思います。

この記事には代表的なものを書いていますが、これらが効かないこともあります。

その場合、ボイトレに行ってください。笑

この記事の結論はこれです。

ボイトレに行ってください。


これまでの記事はこちら↓

合唱発声の一般的傾向と対策1

合唱発声の一般的傾向と対策2

合唱発声の一般的傾向と対策3


対策編


傾向その1「高音域プリングチェスト&低音域ライトチェスト」

高い方が重くて、低い方がスカスカ、ということなので、この2つにアプローチする対策が考えられるかと思います。

高音域を軽くするためにはいろいろ方法がありますが、代表的なのは無声破裂子音+u母音の組み合わせでしょうか。「ククク」とか「プププ」とか。

低い方の発声を持ち上げないようにするために、下降型の音階を使った方がいいかと思います。

あとは巻き舌できる方はウの口で巻き舌で練習するのも結構軽くなりますね。他のSOVTE系でもいいと思います。

低音スカスカにアプローチする方法も色々ありますが、有声破裂子音+aとかe母音はよく使います。「バッバッバッ」とか「ゲッゲッゲッ」とか。

こちらは上行音形がいいと思います。


傾向その2「声帯がstiffの状態」

ようは息漏れをどうするかということなのですが、stiffで離れてしまっている声帯をくっつけるためにストレスハミング(ドアがきしむような音色のハミング)とかアニメ声(喉頭を上げた状態)で「ネイネイ」とかはよくやります。

またそれではstiffの根本的解決とは言えないと思うので、おすすめなのはエッジヴォイス、あるいはヴォーカルフライ、あるいはシュナル、あるいはスラックとか言われている呪怨くん?(呪怨見たことない)の声を練習することです。

u母音で音程をどんどん下げていくと地声が出なくなったあたりからブツブツとした感じの音になっていくと思います。それがエッジとかフライとかシュナルとかスラックとか言われる音です。

ほんと名前が多すぎてイライラしますよね笑

エッジってのは声帯の縁で出してるような発声体感から来た名前、フライはなんとポテトフライのフライです。油で揚げてるような音がするという音の印象から来た名前だそうです。以下略


傾向その3「裏声のない男性、地声のない女性」

傾向その1の練習も有用だと思いますが、ここでは別の方法を紹介したいと思います。

「吸気発声」です。

これ具体的にどういう理由で何の役に立つのかよくわかっていないのですが、裏声のない男性が裏声が出たり、地声のない女性が地声が出たり、他にも息漏れが改善したり、声帯の動きがなめらかになったり、ホイッスルに入りやすくなったり、人によって様々な効果が出ています。

傾向その1、その2に対するカウンターとしてもかなり有用だと思います。

最初は「ドソド」みたいな音形で、「呼気ー吸気ー呼気」でu母音で発声し、問題となっている音域で練習します。

それができたら今度は同じ音で「呼気ー吸気ー呼気」で別の母音も練習し、音域を広げていく、というのがいいと思います。

これは曲の練習にも結構使えて、ひとフレーズまるまる吸気発声で歌ってみるというのもおすすめです。

もう一つ。特に地声のない女性におすすめなのは、「カルグラ」です。

これは仮声帯を声帯の1/2の周波数で声帯と同時に鳴らすという中央アジアで盛んな喉歌のテクニックの一つです。

これの最初の方の発声法ですが、上手い人のカルグラってただの低い声にしか聞こえないのが厄介ですよね笑

声帯はメインで聞こえるひくーい音のオクターブ上で鳴っています。

実際の練習法としては、①まず咳払いします。

②咳払いのノイジーな音をキープしたまま音を少し伸ばします。

③音程をつけて、④口をあけます。

これ結果的にカルグラにならなくても、やろうとするだけでも効果があります。

地声のない女声って地声という発声体感がないので、地声のつもりで裏声になっちゃうんですよね。

カルグラにチャレンジする過程で声門を閉鎖したり、声帯を分厚く接触させる感覚が身につくことがあるようです。

男性も、もともと地声体感のある女性も、カルグラやってみるととりあえず皆さん音量が大きくなりますね。

あとはカルグラはSOVTE(Semi-occluded vocal tract exercises)の一種だと考えられていて、声帯の動きを補助するような効果もあります。

更に、クラシックでは基本仮声帯は接近していないほうがいいとされていますが、仮声帯がなんなのかわからないのに仮声帯開いてーと言っても体感的にわからないので、一回逆の状態、仮声帯接触の感覚を知るというのは意義深いです。

接触を知ってこそ開大がわかる。


傾向その4「開鼻」

こいつがなかなか厄介で、長年の課題となる方が多いです。

わりとクレヨンしんちゃんのボーちゃんのモノマネをすると良くなる方が多いような気がします。

彼いつも鼻を垂らしてるんですが、ようは鼻詰まり声なんですよね。

モノマネすることで閉鼻の感覚が身につきます。

SLSではgの子音で対応することが多いようです。ngにならないように「ガッガッガッ」とかですね。

個人的にはgよりもpとかbのほうが効果があるような気がしています。

あるいは先程の仮声帯の例でもありましたが、逆に開鼻の状態を知るということで、そうじゃない方を知るという手もあります。

こちらは瀬川瑛子さんのモノマネをおすすめしています。

実は瀬川瑛子さんってそんなに開鼻でもないのですが、モノマネで強調すると開鼻の練習になるんですね。なのでおもいっきり強調しましょう笑

あるいはえなりかずきさんとか、さだまさしさんとか、モノマネすると開鼻が強調される方他にもいらっしゃいますね。

開鼻と閉鼻の状態がわかったら、鼻をつまみながら、開鼻と閉鼻の切り替えを練習するといいと思います。

母音はなんでもいいですが、「あーーーー」とか言いながら「開鼻ー閉鼻ー開鼻ー閉鼻」って感じで繰り返します。

できるようになったら開鼻から閉鼻に行く途中でとめて、「ちょっと開鼻」っていう状態も練習するといいと思います。


今回はこのくらいにしておこうと思います。

傾向その5「だんご舌」
傾向その6「狭母音が苦手」
傾向その7「特定の子音が発音できない」
ビブラート問題

の対策編です。

合唱発声の一般的傾向と対策2

合唱発声の一般的傾向と対策2

前回の記事からの続きです。

前回は、傾向1「高音域プリングチェスト&低音域ライトチェスト」についてお話しました。


傾向その2「声帯がstiffの状態」

これは傾向その1とも関連しているんですが、声帯がstiffの状態、つまり硬い状態になっていて、息もれになっている人が非常に多いです。

下の方がスカスカになってるのはこの声帯の状態が影響している人もかなり多いです。

これも男性女性共通でした。

倍音豊かな声を出すためには声帯は柔らかく使えた方がいいです。

もちろん表現として息もれ声を使いたいときはstiffの状態を作れるということも必要です。


傾向その3「裏声のない男性、地声のない女性」

これもその1とかかわっています。

男性の場合、声帯を薄くするということができない方は裏声を出すことができません。なので地声で張り上げたまま音域を上げていって、ある音程より上は全くでないという状態になっています。

女性の場合、裏声で歌うことに慣れてしまって、逆に声帯を厚く使うということができない方が多いです。

それで音が鳴らなくなってきて、声帯が硬くて薄いままただただ力んで声が震えちゃう。そういうパターンも多かったです。

先ほども書きましたが低い方は声帯を引き延ばす筋肉、縮める筋肉両方緩めなければならないので、その緩め方がわからなくなっているという感じでしょうか。


傾向その4「開鼻」

これまで書いた傾向も、「こういう声を出さなきゃいけない」「こういう声は出しちゃいけない」という強迫観念から生まれた傾向だと思います。

合唱の場合は、「邪魔になるような声を出しちゃいけない」ということが潜在意識に刷り込まれてる人が多いのではないでしょうか。

開鼻というのは喉頭から鼻腔への出口が空いている状態で、ここが空いていると鼻腔と口腔に共鳴腔が二股にわかれてしまって、エネルギーが減ります。

聴覚印象上はこもったような感じの声になります。

よく発声の指導で「鼻腔に響かせて」って指導されること、どなたでも一回はあるんじゃないかと思うんですが、その結果でもあると思います。

いわゆる鼻声ですね。ただ鼻声ってのも2種類あって、鼻にかかった声と、鼻詰まり声、これ両方「鼻声」っていうんですよね。

これまたややこしい。鼻詰まり声の方は「閉鼻」といって鼻腔への出口が閉じている状態です。開鼻の逆ですね。

それで、「鼻腔に響かせて」ということは開鼻ということになるのですが、これではさっき言ったようにエネルギーが分散してこもった感じになるんです。

ということは「鼻腔に響かせて」という言い方が間違っているかというとあながちそうとも言い切れなくて、鼻腔への出口がちょっとだけ空いているとシンガーズフォルマントが強調されやすいということもわかっているようなので、「鼻腔に響かせて」というのはおそらくそのことを言っているのだと思います。

ただまあ難しいんですよね。ちょうどよく隙間を開けるの。芯のある音を目指すなら、基本閉鼻気味で、ちょっとだけ開鼻でもいい。くらいに考えておくといいのではないかと思います。

ちなみに開鼻になっているかどうかを自分で判断するのは結構簡単で、鼻つまんで声を出せばいいんです。

声を出して、鼻をつまむ。鼻をつまんで音が変わる声は開鼻、変わらない声は閉鼻です。

説明が長くなりましたが、開鼻のこもった感じの音って邪魔にはなりにくいんですね。エネルギーが減っているので。

「鼻腔に響かせて」という指導言、そして邪魔にならない声を出そうという強迫観念の結果、開鼻になる人が多いのだと思います。


傾向その5「だんご舌」

クラシックっぽい音を作ろうとした結果「だんご舌」といいまして、舌が奥の方で固まって発音が不明瞭になるということがあります。これもまた聴覚印象上こもった感じの音声になります。

クラシック的発声の特徴として「舌の圧搾」というテクニックは確かにあります。

これがクラシックぽい発声の最も大きなファクターと言ってもいいくらいだと思います。(女性の場合はこれに加え、フォルマント同調)

舌の圧搾もまたいかに音量を稼ぐか(通る声にするか)という必要から生まれたテクニックだと理解していますが、これをすると確かにシンガーズフォルマントが強調されるそうです。

喉頭蓋の操作、ちょっとだけ開鼻、そして舌の圧搾によってシンガーズフォルマントを強調する、というのが男性クラシック歌手の特徴かと思います。

女性の場合はこれに加え(かあるいは喉頭蓋はやってないのかも?)フォルマント同調を使ってる。

そんな感じで私は理解しています。

でまあ問題は私たちがやっているようなジャンル、アカペラの合唱とかアンサンブルとかで、舌の圧搾が必要になるほど音量を出す必要があるのか。

多分ないと思うんですよね。

音量を出すために生まれたテクニックを音量がそれほど求められないジャンルで使う必要はない。

それに舌の圧搾は音量と引き換えに発音の明瞭さを損ないます。

母音は舌の位置によって決まるので、舌を圧搾しているとその動きが邪魔されるのがわかると思います。

更に、多くの方がこのクラシックっぽい音を作ろうとしてやっているのは、舌を奥の方で固める「だんご舌」であって、テクニックとしての「舌の圧搾」とはちょっと違うんですね。

こもった暗い音色で、その上発音の邪魔をしている。

いいことないのでやめた方がいいと思います。


さて、今回もまた長くなってしまったのでここまでにしたいと思います。

次回はこの流れで発音について、あとビブラート問題にも少し触れて、いよいよ対策編に入りたいと思います。