今日は朝ヴォクスマーナ、昼カペラでした。
作曲家藤井健介さんの立会いのもと先週あたりに出来たばかりの曲を歌い、かたやカペラでは没後500年のイザークと生誕450年のモンテヴェルディを歌う。
こんな贅沢なことができるのは今生きている我々だけですよね。
私たちのもっているレパートリー
グレゴリオ聖歌が記譜されたのが10世紀ごろと言われてますので、私のレパートリーは約1100年間の作品ということになります。
それに対し、例えばイザークの生きた時代は今から500年前ですから、グレゴリオ聖歌から数えてレパートリーは600年分と言えるでしょうか。
単純に考えて我々の約半分です。
もちろんイザークの時代にどれだけ広範囲に過去の作品を演奏していたかはっきりとはわかりませんが、まぁほぼ同時代の作品とグレゴリオ聖歌、というか感じだったでしょう。
つまり歌い分けなければならない様式はグレゴリオ聖歌とポリフォニーという二本立て、この二つさえうまく演奏できればよかったのだと思います。
あれやこれやといろんな様式のものを歌わなければならない私たちとは違い、この二つに専念していた当時の人たちの演奏、さぞかし素晴らしかったんだろうなぁ。
サリクスの場合
例えばサリクスのレパートリーで言えば、グレゴリオ聖歌からバッハまでですので約800年間です。それもイタリア・フランス・フランドル・イングランド・ドイツと様々な地域のものを歌いますので、その歌い分けの大変さときたらもう。
ラテン語の発音一つとっても発狂的に複雑です(今回はイタリア式・フランス式・イギリス式を用います)。
まだ今回は扱う言語がラテン語とドイツ語の二ヶ国語だけなのでマシな方です。
これに音律、旋法感、調性感、和声感、編成、通奏低音との関係などが複雑に絡み合って、ほんとなんでこんな大変なことになっちゃったんだろうというくらいこれらの歌い分けは絶望的に困難です。
その多様な様式が混じり合った末にできた音楽としてバッハを捉える、というところに面白みを感じてもらえればと思っているので、是非ともこの困難は乗り越えなければならないのですが。
というわけでバロックまでの音楽でさえこれだけ様々な様式に対する感受性というか、知恵と技術のストックみたいなものが必要なわけですが、いわんや現代をや、というわけです。
現代音楽の様式感
現代の音楽ってほんとに多様で、作曲家一人一人に様式があり、もはや個人の様式を作ることが作曲家にとって課せられた義務のようになっていて、しかも人によっては曲ごとに全く違った様式を用いたりしてきます。
例えば今回ヴォクスマーナで演奏する川上統さんがそうで、前回ヴォクスマーナで演奏した海藻大聖堂は今回演奏する怪獣とは全く違う語法で書かれています。「怪獣」は「海藻大聖堂」にあった様々なな要素のうちの一つに拘って、純化させたような印象があります。あくまで語法について言えば、ですが。テーマはもちろん全然違います。
僕が普段演奏しているバロックまでの音楽はその点、同じ地域、同じ時代では、大体同じ様式の中で音楽を書いているので、時代と地域を限定してしまえばある程度一つのやり方で演奏できます。
その中に、たまにバッハみたいな飛び抜けて変な人がいたりして、ビックリするような音楽を書くけれど、まるっきり別の様式で書いているわけではないんです。同じ様式の中で、これだけ強烈な個性を炸裂させることがむしろ凄いというか。
現代とは根本的に作曲に対する態度が違うんですね。
現代音楽を演奏する場合、まずはその作品の様式(価値観と言った方がいいかもしれません)を体にインストールしなければなりません。スマホにアプリを入れるようなもんでしょうか笑
一つのアプリで沢山の作曲家の作品が演奏できる古楽に対して、一つのアプリにつき一人の作曲家、あるいは一つの作品しか演奏できないのが現代音楽、という感じでしょうか。
このアプリの数を増やすこと、またたまにアップデートすること、そして必要な時にすぐ起動できるようにすることも演奏家の仕事の一つといえると思います。
これって日々自分の価値観をぶっ壊して再構築するようなもんなんですよね。
カペラの場合(イザークとモンテヴェルディ)
今日のカペラのリハはイザークとモンテヴェルディでしたが、この二人、見た目同じような書き方で書いてるように見えて、全然違います。
どのくらい違うかというと、茶そばとロリポップぐらい違います(どっちがどっちかは深く考えないでください)
具体的にいうと、外面的な違いだけでも、
【イザーク】
時代と場所:15世紀フランドル
ラテン語の発音:フランス式
音律:(基本的に)ピタゴラス音律
編成:4声
【モンテヴェルディ】
時代と場所:17世紀イタリア
ラテン語の発音:イタリア式
音律:ミーントーン
編成:6声
という違いがあります。
私の場合、イザークのモード(アプリ)はすぐ引き出せるんですが、モンテヴェルディの方が大変難しい。というのもイザークのモードはジョスカンのモードに非常によく似ているので、同じモードをマイナーチェンジすればいい感じなんですね。
それに対してモンテヴェルディの方はというと、マドリガーレやヴェスプロのような新しいタイプの音楽は度々演奏しているのではいはいこのモードねって引き出せるんですが、モンテヴェルディのいわゆるプリマプラティカ(バロック期にできた新しい技法に対して古い技法のことをこう呼びました)はなんというかこう、わかるところも、あるけど、んー、これは、ほんとのとこ、どうなってんの?!て感じです笑笑
正直すぎますね笑
本番までにはアプリ完成させますんで笑
まとめ♡
ダラダラとすみません。
とりとめがないかんじになっちゃいましたが、実はほんとに言いたいのは、この、様式によるモードのチェンジっていうのは、何も演奏家に限った話ではないということです。
聴き手にも、その音楽を聴くにあたって、それにふさわしいモード、というものがあると思うんです。
モード、というのは体と心の状態をいうと思うんですが、その音楽の価値観を自分のものに出来ているかどうかで、聞こえ方は物凄く変わります。
カツ丼食いてえなぁって思ってたら口がカツ丼になるじゃないですか。その口でシュークリーム食べても微妙でしょう?
ロマン派の交響詩を聞く耳でグレゴリオ聖歌を聴いたらやっぱり微妙だと思うんです。
で、その価値観、モードを培うには、実際に歌ってみる、演奏してみるのが一番の近道だと思います。
その当時の人がどういう生活をしていて、どういう価値観をもって、何を考えて生きていたのかを勉強する、というのもいいと思いますが、とりあえず歌ってみる、というのが早いと思うんですね。
そんなわけでフォンスフローリス古楽院でそれができますよってのが今日の結論です笑笑笑
結局それかい!?という突っ込みがきそうですが笑
私はこれを知って人生変わりました。
「俺は今まで一体歌の何を学んでいたんだコンチクショウ」と思いました。
あなたも人生変えてみませんか?!(☆∀☆)キラキラ
(アヤシイ宗教ではありません)
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4月8日 5月6日 6月3日 7月8日 9月9日
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1月13日 2月10日
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〜古ネウマをポリフォニー演奏に生かす〜
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渡辺研一郎
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会場:えびらホール(東急池上線・大井町線 旗の台駅東口より徒歩6分。プライベートホールのため、詳しい場所はお申込み後のお知らせとなりますことをご了承ください。)
詳細はこちらのリンクよりどうぞ!
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『J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol. 3 〜詩編モテットと葬送モテット〜』
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