日本人には難しいドイツ語の子音ランキング

独断と偏見によって、日本人の多くの方が発音に苦労されている(自分もしている)ドイツ語の子音を(勝手に)ランキングにしました。

判断基準は肌感覚&なんとなく、です。そもそも順番なんてどうでもいいです笑

それではいってみよう!

※音声記号と名称はこちらを参照しました

※例文はDer Kleine Hey(1997) : Die Kunst des Sprechens : SCHOTTから引用


第10位 [ç]

chってどっちで発音するんだっけ、でおなじみ無声硬口蓋摩擦音が10位にランクイン。

chの前にa,o,u(ドイツ人はこれを暗い母音と呼びます)が付く場合以外がこの発音になります。

日本語にも一応ある子音(ひ)にもかかわらず、音節頭以外にあることが多くそういう場合に特に苦手にされている方も多いでしょう。

例文:

Nicht schlechte Wächer scheuchen
Wichte, welche frech lächelnd,
Ziemlich bezecht – möchten flüchtig entweichen.


第9位 [x]

無声硬口蓋摩擦音の相方、無声軟口蓋摩擦音が9位にランクイン。

なぜこちらのほうが難易度が高いかというと、まず日本語にはない子音だからです。そして[ç]と混同しやすく、さらに[k]と発音する例外まであるということでなかなか事情が複雑です。

a, o, u(暗い母音)+chのときがこの子音となりますが、このあとにさらにsがつくと[k]という発音になります。

例文:

Ach welch Ringen, welch Schmachten
Des kühnen Geist’s nach dem Kampftag;
Doch nicht Krieg schickt Gott
Noch Rache – nur klägliche Knechtung!


第8位 [ɡ]

え、こんななんの変哲もない子音が難しいの?でおなじみ有声軟口蓋破裂音です。

ちゃんと発音できてる人は意外に少ないです。特に東日本の方は[ŋ]になってしまうことが多いですね。鼻にいっちゃう。

合唱やってると鼻腔に響かせてと多分誰しも一度は言われたことがあると思うのですが、これのおかげでふとした瞬間に開鼻声になってしまう方が多いようです(自分も含め)。

鼻音ではなく口音ですよ、というのが他の子音でもかなり問題になることが多いです。

例文:

Gar gnädig gibt Gott
Gaben an Geld und Gut;
Ganz gern gab Gregor der Große
Güter und Gold
Gegen Gottes Gnadengut hin.


第7位 [p̪͡f]

破裂と摩擦のマリアージュ、無声唇歯破擦音がランクインです。

これはなかなか特徴的な子音でかなりビートボックスみのある音の組み合わせです。

最近ワクチンでよく耳にするファイザーという製薬会社ですが、Pfizerとつづります。プフィツァーですね。ドイツ系アメリカ人が創始者なのだそうですが、アメリカ人もこの破擦音には手こずったとみえて、pfのpを端折っちゃったんですかね。その上iを[ai]と読むということで、もとの発音とは似ても似つかない名前になってしまいました。ファイザーと言われて、Pfizerだとはなかなか想像がつかないですよね。

例文:

Grashupfer schlüpft,
Der Tropf – und hüpft,
Mit Zopf und Zipfel –
Aus Sumpf zum Wipfel!


第4位 [k] [t] [p]

無声軟口蓋破裂音、無声歯茎破裂音、無声両唇破裂音の破裂音三兄弟が同率4位にランクイン。決してめんどくさくなったわけではありません。

ドイツ語の無声破裂子音はaspiration(帯気)という現象を伴っていないとその子音として認識されません。こいつが手強い。かなり手強い。

要するに破裂子音を発音した直後に息が漏れてる音([h]みたいな音)がしてないといけないということなのですが、現象としては一個上で話した破擦音に近いのではないかと思っています。

より精密に発音記号を書くと、[kʰ][tʰ][pʰ]となるそうです。

ka ta paと書かれていた場合、「カ」「タ」「パ」というよりは、(無理やりカタカナで書くなら)「クハー!」「トゥハー!」「プハー!」のほうが近いです。

例文:

Kommt kecker Kerl und kündet
Kühnen Krieger künft’gen Kampf!

Betet, danket, darbet, duldet!
Nicht entrückt durch töricht Denken,

Plump bricht der bepackte Bauer
Die Laubpracht falbprangend beim Birnbaum;


第3位 [n]

これも日本語にもある子音なのに難しい、歯茎鼻音が第3位です。

なぜ難しいかというと、日本語の「ん」の複雑さに起因しています。

日本語の「ん」は同じ綴り字でなんと6種類もの発音があります。

  1. [n]歯茎鼻音 ほんとう せんだい しんらい
  2. [m]両唇鼻音 かんぱい こんぶ ぐんま
  3. [ŋ]軟口蓋鼻音 まんかい しんがく はんがく
  4. [ɲ]硬口蓋鼻音 こんにゃく にんにく
  5. [ã など]鼻母音 はんおん てんさい だんわ
  6. [ɴ]口蓋垂鼻音 ぺん みかん

同じ「ん」だと認識してると思うんですが、この6種類を見事に発音仕分けている日本人すげえ。

それに対してnと書いてあったらドイツ語は[n]一択。(ただしngと書いてあったら[ŋ])

同じ “e”という綴り字で5種類の発音[e, ɛ, æ, ə, ɜ]があるドイツ語と逆ですね。

例文:

Nun nahen neue Wonnenn
Nun glänzt und grünt manch Land


第2位 [l]

これが何故難しいのか。そういえばrをランク外にしたことを忘れてましたが、巻き舌は出来てるかできてないかすぐわかるからそんなに問題にならないような気がします。それに対してlというやつは・・・まったくlというやつは・・・。

みんなできてると思いこんでるから厄介なのだ。。。

かなりほとんどの人ができてないです。

有声歯茎側面接近音

これも口音なんですね。鼻音じゃない。鼻にいっちゃうと歯茎鼻音nみたいな感じに聞こえちゃうんですね。

日本語のラリルレロって「有声歯茎たたき音およびはじき音」っていうらしいですね。ネーミングセンスよ笑

例文:

Lang lauscht Lilli
– endlich lieblos lächelnd
Lallt sie leise:


第1位 [ʃ]

不動の1位ですね。超難しい。日本人で発音できてる人ほとんど見たことない。

無声後部歯茎摩擦音

後部歯茎って奥歯のあたりの歯茎ってことで、それと舌とが摩擦してるんですって。

日本語の「シャシシュシェショ」は無声歯茎硬口蓋摩擦音 [ɕ]っていうそうです。ようするに結構前の方で発音する音なんですね。

単音でも発音しづらいですが、このこのやっかいなところは更に、tとかpとかと結びつきがちというところです。schのときだけじゃなく、spとかstとかでも[ʃ]になるんですね。

例文:

Still und staunend steht der Strenge,
Stumm, bestürzt zum Sträfling starrend!

Spät aus spitz’gen Speichers Spalte
Speis’ und Speck im Spinde spähend.

Schnell zum schmalen Schlossesschornstein,
Schrillen Schreis den Schloßschenk schreckend!


いかがでしたでしょうか。難しい子音ランキングということで、優先的に練習するとか参考にしてもらえると嬉しいです。

ここに引用した例文はほんと内容ははちゃめちゃですが、よくこれだけ同じ子音を連発しながら文章作れるなあという感じで練習にはうってつけです。

日本のアマゾンでは売り切れみたいですが、ドイツとかアメリカのアマゾンで買えると思いますので、しっかり練習したい方は購入をおすすめします。

合唱発声の一般的傾向と対策3

3つ目の記事です。

過去の記事はこちら↓

合唱発声の一般的傾向と対策1

合唱発声の一般的傾向と対策2


傾向その6「狭母音が苦手」

これは発声というよりは発音なのですが、発声が発音に影響しているという意味で発声の問題に直結しています。

逆に言うと、発音を改善すれば、発声も改善する可能性があります。

母音は基本的に舌の位置(最も高い位置がどこにあるか)と唇の形(円唇か非円唇)かで決まりますが、狭母音というのは、舌の位置が高い母音のことです。

http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/vowel.phpより引用

今回ラテン語で用いた狭母音は非円唇前舌狭母音[i]と円唇奥舌狭母音[u]です。

非円唇前舌狭母音[i]

i母音は舌の前の方を口蓋に接近させて作ります。言い換えると前の方で口蓋と舌のトップとの間が「狭い」とiという母音になります。

その際舌の先端は舌の歯のあたりについたままです。前舌母音というと下の先端を口蓋につけようとする方がいらっしゃいますがそれは誤りです。

i母音で陥りやすい傾向は2つです。

1つ目は、口蓋と舌の狭さを作るために顎を狭くしてしまうこと。

特にクラシックの場合は、音色が変わりすぎてしまうことを避けるために、顎の広さを確保しておくことが必要です。

顎を広くしたまま口蓋と舌を狭くするには、舌の方をがんばって高く保つということが必要です。結構努力感必要だと思います。慣れないと。

2つ目は、おそらくだんご舌の影響で舌が奥に行ってしまい、i母音がe母音に近づいてしまうことです。

そしてiっぽさを作るために閉鎖を強めてしまって、さらに音が硬い印象になってしまうということがあります。

円唇奥舌狭母音[u]

u母音はi母音同様口蓋と舌の間を狭くしますが、iよりも奥の方で狭めをつくります。

なので、aの時よりも舌が高い位置にいなければならないのですが、ほとんどの方が、a→o→uと変化するにしたがって、舌が下がっていきます(同時に喉頭が下がります)。

これは、ラテン語のuは日本語の「う」と違って深いんですよ。と言われ続けた結果だと思います。

イメージだけで「深く」と思うと喉頭が下がって舌も下がります。

その結果uには聞こえない、ひいき目にみてo?のような発音になって今います。

深いというよりは、暗くこもった音です。


傾向その7「特定の子音が発音できない」

これも発声というよりは発音の問題なんですが、やはり発声と密接に結びついていますので、ここで取り上げることとします。

語末、音節末のn,mが発音できない

今回の曲、最初のところがSpem in alium nunquam habuiという歌詞なのですが、ほとんどの音節がnかmで終わるんです。これが言えない人が本当に多かった。

語末のn,mは次の単語が母音から始まる場合はくっつけていいよって言ってもできない方が多かったです。

特に多かったのはnunquamのnで、これは日本語の「ん」の発音にひっぱられていることが原因と思われます。

nの発音は歯茎鼻音といいまして歯茎に舌の先端をつける鼻音なのですが、日本語の「ん」は歯茎鼻音を含め5つの発音があるといわれています。

詳しい説明は他に譲りますが、例えば「日本」というときの「ん」と「日本橋」という時の「ん」へ別の発音です。

前後関係で発音が変わる「ん」のイメージに引っ張られてnの発音が揺れてしまうんですね。

またこうした鼻音が多いセンテンスでは、母音が鼻母音化してしまう人が多いです。

傾向その4「開鼻」とつながります。開鼻傾向のある方は、鼻音の多いセクションではより一層その傾向が強まります。

lが鼻音化する

これも開鼻問題とつながっています。

lは側音といいまして、舌の先端を歯茎につけて、舌の横から息を流すようにして発音します。

ここで開鼻になっていると、lが非常にあいまいになって、nのように聞こえます。

nは歯茎鼻音でした。下の付ける位置がlと近いので、lが鼻音化するとnに聞こえてしまうんです。

日本の英語教育では、rの発音は日本語と違いますから気を付けましょう的なことにはフォーカスしていると思うのですが、lの発音が日本語と違うということにはあまりフォーカスしていないという印象があるのですが、その影響も大きいかなと思います。

lの発音自体を誤解している方も多いのではないかと思います。日本語のらりるれろとはこれも違う発音なので、やはり練習が必要だと思います。

rは巻けるのにtrは巻けない

これ私最近自分の合唱団にこういう方がいて、ほーそういうパターンもあるのかと思ったのですが、今回の企画の中でも結構いらっしゃいました。

一般的傾向とまでは言えなくても、かなり多くの方に現れる症状としてここに書き留めておく価値があると思います。

どうなっちゃうかといいますと、r単体では普通に巻き舌ができるのですが、trになると、英語のtreeみたいな発音になっちゃうんです。tribulationeという単語でこれが起こる人が多かったです。

やはり外国語を発音する際に、子どものころに習った英語の発音にひっぱられてしまうということは結構あるようですね。

似たような例としては、音節末のlが英語のdark lのように母音化してしまうという症状や、ドイツ語でerとつづるときに母音化したrが英語のrのようになってしまうなどが挙げられると思います。


ビブラート問題

さて、これも傾向とは違うはなしなんですが、ビブラートについてです。これは昔からあらゆる合唱人を悩ませてきた根強い問題です。

ビブラートがかかっちゃう人自身が問題意識を持っている場合もあれば、仲間にビブラートがかかっちゃう人がいてどうしたもんかと気をもんでいる方も多いでしょう。

これがですねえ。ビブラートが起こる仕組みというのがイマイチよくわかってなくて、直し方もコレっていうのがないんですよね。私の知る限り。

ただ、

・例えばソプラノという声種を選択した方に多い(ほかの声種にいないわけではない)

・プリングチェスト傾向の方に多い(あるいは目立つというだけかも)

・音程と音量が両方著しく揺れる場合、音程はそれほど揺れていないのに音量が激しく揺れている場合がある。そして後者はあまり気にならない

ということに今回気づきました。

音程も音量も揺れが著しい
音程はそんなに揺れていない

波形を見るのがおもしろくて、途中から編集作業の中のちょっとした楽しみになっていました。ビブラート波形コレクターみたいな感じで、おおこれは!と思ったものはスクショ撮ったりしてました(笑)

謎深いビブラート問題ですが、最近試している方法で、少なくとも一部の方には効果が出ている方法を対策編ではご紹介しようと思います。


いやはや、またもや対策編に入れませんでした。

何しろ電車の中か出先のカフェとかでしか書けてないので、なかなか進まなくて申し訳ないです。

次回はいよいよ対策編です。