さて、いよいよ最終回です。
何度でも注意喚起しますが、この記事に書かれていることは鵜呑みにしてはいけません。
合唱をやっているひとで、今回取り上げた傾向のうち、どれかが当てはまるという人はかなりの割合いると思います。私の予想では9割以上はいると思います。
ただどれも全く当てはまらない人もいると思います。そういう方にとってはこの記事は全く無意味とまではいいませんが気に留める必要もないでしょう。
どれかが当てはまる9割の方も、どれが当てはまっているか自分で判断できる方はほとんどいないでしょう。
おそらく正しく判断できる方は1割位だと思います。
残りの9割の方にとってはこの記事は薬にも毒にもなりえます。
街の薬局だと思ってください。
自分で自分の症状から病名を診断して自分で薬を買うかんじです。
その診断があたっている可能性は1割。
なんというギャンブル!
というわけでもう一度言います。
本当に自分の声を良くしようと思ったら、
ボイトレに通ってください。
傾向その5「だんご舌」
だんご舌というのは舌が奥の方で固まってしまうことでした。
これの対策は次の狭母音の対策ともかぶるのですが、前舌母音の練習がおすすめです。
顎を開いて両手で頬をおさえて、いわゆるアッチョンブリケのポーズをとります。ムンクの叫びでもいっか。
その状態で「aaaeeeiii」と発音します。
その際顎が狭くならないように。(狭くならないためにアッチョンブリケします)
顎を開いたままだと、iと発音するためには舌をかなり前上にもってこなければなりません。
この訓練は舌をしっかり前に動かすことができるようになるためのものです。
顎を開いた状態でi母音がしっかり発音できるようになったら、「yayayayaya」と速めにi母音とa母音を交代させていきます。アルペジオで練習するのもよいです。
あとは巻き舌ですね。巻き舌の練習は奥舌をフリーにする助けになると思います。傾向その1の対策ともかぶりますが、その効果も狙いながら合わせて使うといいと思います。
傾向その6「狭母音が苦手」
前述のアッチョンブリケでaaeeiiがそのままここでも使えます。
狭母音はiだけでなくuもありますので、ここではそちらの練習方法を紹介します。
傾向編でも引用した画像をもう一度引用します。
奥舌母音はɑからuにかけて奥舌がだんだん上がっていくのですが、よく言われる「日本語のウより深く」という指導言によってむしろa母音よりも舌が下がってしまうことが多いようです。
そうするとこもった感じの似て非なる母音になってしまうので、u母音を発音するときは、努めて舌を持ち上げるようにするといいと思います。
練習方法ですが、これもアッチョンブリケでアーオーウーで練習できます。
あるいは割り箸を奥歯で噛みながら練習する方法もあります。
ここでポイントなのは、まず日本語のアーオーウーで練習するということです。
上の図を見るとuの横にɯという発音記号が見えると思います。これが日本語の「ウ」です。
中黒点をはさんで隣り合っているのは、右が円唇母音で左が非円唇母音という意味で、舌の調音点は一緒です。
つまり、ラテン語等のu母音と、日本語のウ母音は舌の位置一緒で、違いは唇が丸いかどうかの差なのです。
オ母音も同様です。
まず唇や顎の開きを変えることなくアーオーウーと発音することで、舌の動きを確認します。
この練習によって作った日本語のウ母音から、今度は顎の開きと舌の位置を変えないようにして唇を円めます。これでu母音の出来上がりです。
唇を円めたときに、舌の位置が変わってしまわないように注意しましょう。舌の位置が変わったかどうかは音色を聞けば一発でわかります。
傾向その7「特定の子音が発音できない」
語末、音節末のn,mが発音できない
日本語の「ん」に引っ張られて語末のn,mの発音が揺れちゃうという問題でしたが、逆に日本語の発音を利用しながら練習するのがいいかなと思います。
日本語の「ん」が歯茎鼻音nになるのは「せんだい」とか「ほんとう」などのときです。
例えばnunquamのnが言えないというときは、「せんだい」の代わりに「ぬんだいぬんだいぬんだい」と繰り返してみて、その途中の「ぬん」で止める練習をする。
その後「だい」の代わりにquamを付ければぬnquamという発音ができると思います。
細かいこと言うと日本語の「ぬ」はnuと言うよりnɯですから、これを円唇化するとnunquamになります。
他の練習方法としては、「なにぬねの」のときには歯茎鼻音になってますので、「なーなーなー(naanaanaa)」と続けて発音してみて、子音の分量をちょっとずつ増やしていく「naannaannaannnaannnnaa」ことで歯茎鼻音の発音の方法を覚えるというやり方もあるかと思います。
lが鼻音化する
これは開鼻問題が解決すれば大丈夫だと思うので、傾向その4の対策をやってみてください。ボーちゃんのモノマネですね。
舌の先端を歯茎のあたりにつけて、息を舌の左右から流す感じです。
鼻をつまんでlalalalalaって言ってみて、つまんでないときと音が変わらなければオッケーです。
rは巻けるのにtrは巻けない
どちらかというと、巻き舌のできない方が、traだった巻けるという方が普通かなと思うので、これは英語のイメージを払拭できれば大丈夫なのかなと思います。
あとはひょっとするとだんご舌問題も絡んでるかもしれませんね。舌が奥にいこうとして、英語のrみたいになっちゃうと。
なので傾向その5の対策をやってみるといいかもしれません。
ビブラート問題
さて、ビブラート問題です。
これは一般的傾向というわけではありませんが、様々なシチュエーションで悩まされた方が多いのではないかと思いここで取り上げることとしました。
結論から言って、ビブラートがどうやって生まれているか、どうして意図せず声が揺れてしまうのか、よくわかりません。
なのでまだコレっという対策がないのですが、私が最近試みていて、効果がありそうな方法をご紹介したいと思います。
それは、ビブラートを練習するということです。
ビブラートがかかってしまう人って、ビブラートをかけることができないんです。
つまり自分の意思でという意味で。
かけてるのではなく、かかっちゃう。
なので、ビブラートを意図的にかける練習をすることが、ビブラートを意図的に取るということにつながるのではないかと思っています。
それで、ビブラートがかかってしまうタイプの人って、ゆっくりしたビブラートがかかってしまうのではなく、周期の速いビブラート(いわゆるちりめんビブラート)がかかってしまうようです。
なので、それにカウンターをかけるにはゆっくりとしたビブラートをかける練習をすると。
おそらくですが、ゆっくりとした周期のビブラートをかけながら同時にちりめんビブラートをかけることは相当難しいと思います。
ゆっくりビブラートをかけてしまえばちりめんビブラートは取れる。私はそう信じてる。。。
くらいの段階ですまだ。笑
それで、その練習方法ですが、いろいろやってみましたがこちらがやりやすかったかなあと思います。
再生回数えぐいっすね。ビブラートかけたい人いっぱいいるんだな。
でもビブラート取りたいがたどり着かない動画なんじゃないかな。
そしてもう一つ、似てるんですが、これも私が前からよく練習で使わせてもらってるのですが、「ガマック」です。
ガマックというのはインド古典声楽の装飾法?歌い方?の一つで音を滑らかに動かすテクニックです。
3-4年前に寺原太郎さんのワークショップ受けたときに紹介されてて、やべえこれめっちゃ使えると衝撃を受けて以来、めっちゃ使ってます。
私の指導受けた人にはおなじみの単語だと思います。
こんな動画見つけました。
信じられないくらい美しいですよね。素晴らしいデモンストレーション。
そして再生回数もビブラートの動画と同じくらい。ガマックしたい人もこれだけいるんだなあ。
これの練習は、まずは「ドーレードーレー」という感じで2度間を行き来するのですが、その際死ぬほど滑らかに音を移行します。
等速運動のグリッサンドって感じです。音が上下端に到達したらそこでとどまらないですぐ動き出す。
円を描くようにと言われます。
これを3度、4度、5度と広げていって、速度を速くしたり遅くしたりというのが基本の練習です。
これだけでも相当難しいです。まず自分の声がどのぐらいのスピードで動いているのか、それを把握することがまず難しい。
でこの2度のガマックを速くやるのがいわゆるトリルだと私はいつも言っているのですが、その音程幅を小さくしていくとビブラートになると私は考えています。
音程幅の極めて小さいガマックをやっているような感覚でロングトーンを出していれば、ちりめんビブラートはかかりにくいのではないか。
まだいろいろ試しているところですが、効果が出た方もいらっしゃいます。
あとビブラートに関して、いつもツイッターで死ぬほど有益なボイトレ情報を流してくださっている風地さんからの情報ですが、とある研究によると、オペラ歌手のビブラートの成立要件に、フォルマント同調があるのだそうです。
なので、ビブラートがかかっちゃう人は一回フォルマント同調やめてみるというのも一つの手かもしれません。
まとめ
さて、死ぬほど長くなってしまいましたが、6月1ヶ月かけて50人の合唱歌手の方のレッスンをし、103トラックの声を編集しながら気づいたことをまとめてみました。
声の特徴、癖は百人百色、十把一絡げにまとめられるものではないと思っていましたが、日本の合唱というある程度の時間をかけて培われた価値観の中で育った方は、かなり傾向が似通ってくるのだなあという感想を持ちました。
もっといろんな傾向の人がいるかと思ったが、自分が思ってたより遥かに似た傾向の人が多かった。
合唱指導者は、邪魔にならない声を目指すっていうことが第一の目標になっていないか、常に自分を監視していなければならないと思います。
こういう声は出しちゃダメって無意識に刷り込まれることで、声の可能性を狭めてはいないか。
声を大にして言いたいのは、みんな、自分の価値観の外にある声を出そうぜ。
ってことで、多分そうすることでもっと楽になれるし、もっと歌が楽しくなると思います。
声で遊ぶ、自分の身体を面白がる。
変な声出ちゃった、ヤベ、よりも、なんだこの声もっかい出してみよ♡
くらいのスタンスでいる方が楽しいぜえ。
身体に課している制約をはずそうぜ。
こうでなければならない。これはやっちゃいけない。
まずは自分にかけたブレーキを外してから、アクセルを踏むんだぜ。
というところで、「吸気発声」とか「カルグラ」とか「ガマック」とか紹介してみました。
それでは皆様、全5回にわたって長々とお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました!!
バーチャルクワイヤの動画アップしております!
参加者のみなさまとEnsemble Salicusの熱い演奏をぜひお聴きください!
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