合唱発声の一般的傾向と対策1

タリスの企画、まだAチームBチームそれぞれの編集作業中ですが、出先では編集できないので、今仕事の行きかえりの電車でブログを書いています。

さて、この企画はEnsemble Salicusの4人で録音した40声のモテットに、アマチュアの方も歌を重ねていただいて一つの作品を作り上げるというものでしたが、特典して、希望者には30分オンラインレッスンをつけていました。

そこで50名の方がレッスンを受講してくださって、なんとなく合唱をやっているかたの発声の傾向がみえてきたので、ここにまとめておきたいと思います。

あと編集してる時も一人一人の声を最低一人につき30分は聞き続けているので、そこで分かったこともたくさんあります。

Ensemble Salicusと合わせて103トラックの記念写真↓

もちろん発声の傾向は百人百色なので、こういう一般化って結構危険です。

これらを自分だとは思わないでください。

そういう人が多いように櫻井といういち声楽家が感じた、というだけです。

何の意味もありません。マジで流し読みで十分です。


傾向その1「高音域プリングチェスト&低音域ライトチェスト」

これはつまり高音は叫んじゃうし低音はスカスカってことです。

女性も男性もこの傾向は一緒でした。

女性がこの傾向になる理由は私の中ではクリアーで、それはクラシックの合唱で使われる音域だと思っています。


女性の低音はなぜスカスカになりやすいのか

声明でも、インド古典声楽でも、イランの音楽でも、男性と女性の音域の差は約5度で、男性の最低音はD2、女性はその5度上のA2だと言われています。

それは声帯の長さの平均の男女比とも一致します。

ところがクラシックの場合、女性の音域って男性のオクターブ上なんです。

アルトはバスのだいたいオクターブ上、ソプラノはテノールのだいたいオクターブ上。

だからクラシックに慣れている歌い手の方に、じゃあ僕と同じ音で歌ってくださいというと、女性は何の迷いもなく僕のオクターブ上で歌い始めます。

あ、オクターブじゃなくて同じ音でお願いしますって言うと、「???」という顔をされる方も多いです。

女性にとっては、男性のオクターブ上の音が、「同じ音」という認識があります。

これがクラシック慣れてない方だと、同じ音で、というとほんとに同じ音で歌います。で、なんか低いですねえ?この音ですか?ってなります。

そういう方には、最初から私の方がオクターブ上で歌ったり、私のオクターブ上でお願いしますという必要があります。

育ってきた環境でそのくらい認識が違うんです。

私もクラシック以外の音楽をやっている人のレッスンを最初にしたとき驚きました。

というわけでクラシックの場合は女性は男性のオクターブ上っていうのが当たり前なんですが、これは先ほどの伝統音楽の例から考えても特殊なことで、生理的な自然からもズレがあります。

その結果男性は自分に与えられた音域のほとんどを地声で歌える(むしろ裏声で歌うのは困難)、女性は与えられた音域の多くを裏声でしか歌えないということになってしまった。

これも一般的には、という話ですが、女性の場合「歌の声」というのが「裏声」と結びついている人かなり多いんじゃないかと思います。クラシックの場合。

でこの「裏声」というのは「声帯薄め」ってことでくくってしまっていいのかどうかというのも微妙なところなのですが、少なくとも訓練を受けた声楽家はファルセットレジスタでは歌ってないと思うので、地声裏声をここではモーダルレジスタかファルセットレジスタかということではなく、その音域にしては薄めということで話を進めさせていただきます。

女性は書かれた音域の多くを裏声で歌うことになってしまったので、地声で出る音域も、音色をなるべく変えないように、できるだけ裏声で歌うということになった。

ブリッジは生理的には普通A-Cあたりと言われていますが、そのオクターブ下あたりまで頑張って裏声体感で歌っているのがクラシックでは普通です。

その結果低音域がスカスカになって、地声がないという人も多い。

しゃべり声も常に裏声。結構多いです。

以上が女性の低音域がライトチェストになる経緯として立てた私の仮説です。

クラシックの場合、裏声体感の声帯薄い声をブーストするためにフォルマント同調という技術を使います。

これは共鳴腔を広くとることで第1フォルマントを下げ、基音と一致させることで基音のエネルギーを増大させるテクニックなのですが、これをやると母音が曖昧になる上、混声合唱の場合、男性の音色との乖離が大きくなってしまって全然ブレンドしなくなります。

じゃあ男性もフォルマント同調で歌えばいいかというと、実はそれは物理的に不可能です。フォルマント同調は共鳴腔を広げることで第1フォルマントを下げるのですが、共鳴腔を広げるにも限界があって、男性の音域ではほとんど使えないのです。

なので別の方法で高音域をブーストしなければならないのですが、それがシンガーズフォルマントのブーストで、これは男性も女性も使えます。

シンガーズフォルマントというのは声に含まれる3000ヘルツ帯の倍音のことで、このあたりの倍音を強調すると、人間の耳に聞こえやすくなるといわれています。

そしてこのシンガーズフォルマントは喉頭蓋の狭めで作ることができることがわかっていています。


女性はなぜ高音域を叫んでしまいやすいのか

さて、では女性が高音域プリングチェスト、すなわち叫ぶ感じになってしまうのはなぜでしょう。

ちょっとこれなぜかわからないです。下の方がノーチェスト傾向ならそのまま上がっていって薄いままブリッジを越えられるのではないかと思うのですが、なぜかそうならずに、多くの場合喉頭が上がって仮声帯が接近してきて叫ぶ感じになっちゃう。

音の芯の作り方、エネルギーを無駄にせず倍音をブーストする方法がわからずに、声帯で頑張ろうとしちゃってるのかもしれません。


男性の場合

男性の場合も、女性同様高い方は叫んじゃって低い方はスカスカなことが多いのですが、女性の場合と原因は違います。

基本的に、音域が高くなってくると声帯を薄く引き伸ばしていかなければならないのですが、それが上手くできずに、下の発声のまま上に持ち上げてしまうことが多いです。

その際力みが出てしまって、高いほう叫ぶ感じになってしまいます。

おそらく男性の場合はその力みを引きずって、低い方が出なくなってしまっているのではないかと思います。

低い音域は声帯を引き延ばす筋肉も声帯を縮める筋肉も両方弛緩していかなければならないので、力みが残っていると低い方はうまく鳴らないんです。


まだまだ傾向は山のようにあって、対策までまだ書けていないのですが、あまりにも長くなってしまったので数回に分けようと思います。

ご興味のある方は次の記事をお待ちください。

第2回リモートアンサリ|終演

第2回リモートアンサリ|終演

昨日、第2回 “Remote” Ensemble Salicus Live 〈40声のモテット大発表スペシャル!〉が終演いたしました。

ご視聴くださいました皆様、誠にありがとうございました。

そしてタリスのモテットにご参加くださいました皆様、本当にご苦労様でした。

やってみないとわからないんですが、宅録ってほんと大変なんですよね。

何が大変って自分の下手さに正面から向き合わざるを得ないというところが一番大きいかと思うのですが、そこを乗り越えなければ得られないものがあります。そしてそういったある種のリスクを冒してまで、「合唱したい」という皆さんの熱量を感じました。

30分レッスンを希望者の方は受けれるようにしていて、50名の方のレッスンをしたのですが、ほとんど全員が、近ごろ歌ってないので自分の声が今どうなってるかわからない、という状況でした。

はじめましての方もかなり多かったのが印象的で、一気に50人分の合唱人のレッスンをするという機会も初めてだったので、私自身大変学びが大きかったです。

この学びを後日「合唱発声の一般的傾向と対策」というブログにしたためようと思います。

昨日の配信、やはりタリスのインパクトが強かったようで、前半にお聞かせした2曲の印象が薄くなってしまったようです。

6人でのグレゴリオ聖歌、パレストリーナ、アンコールのジョヴァンニ・ガブリエーリのモテットの音源を販売しています。

どれも本当にちからいっぱい作り上げた作品ですので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。(Tシャツはおかげさまで売れ行き好調でございます)

ここで得た収益をもとに、次回以降の企画の発展を考えています。

次回は8人でお届けできればと思っています。メンバーの録音環境を経費で賄わなければならないため、先立つものが必要です。どうぞよろしくお願いいたします。

同時視聴者数が400人を超えていて本当に驚きました。前回確か200人くらいだったはずなので。

演奏会でも400人は入らないのに(笑)

アーカイブは1週間限定で公開しますので、見逃した方はぜひご覧ください。

投げ銭も常時承っております。

ofuseの返信、欠かさずやってまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。(アカウント登録をされないと、返信はできないようです)

https://ofuse.me/users/salicuskammerchor


そして来週月曜日はカペラがカテドラルから無観客ライブを配信します。

今日もこれからリハーサルです。

こういう形の配信は初めてなので、とてもワクワクしています。

こちらもどうぞ応援よろしくお願いいたします。

https://www.facebook.com/events/743369583082081/

多重録音のススメ

多重録音のススメ

こんにちは

今日わたし、久しぶりに歩きました。

ほんと家から出なくて、出るときは走りに行くか、自転車でスーパーに行くかだったので、気づいたら多分2週間くらい歩いてなかった気がします。

今、歩いてみたら足の関節という関節がバラバラになってて笑いました。

で試しに走ってみたんですけど、そうするとバチィって身体がまとまるんですよね。

走ることと歩くことってこんなに違うんですね。

まあまあそこそこ運動はしてると思ってましたが、走るだけじゃなく歩くこともしなきゃならないと思いました。

驚きました。ほんと。


さて、前回のブログで書きましたドイツの友達の話なのですが、もう一つ印象的だったことがあったのですが前回書くのを忘れていました。

電話で彼、「こういう状況になって何かポジティブに捉えられることあった?」て聞いて、私「うん。ないね。」ってその時わりと即答したんですね。

でその言葉が心の片隅にあって、翌日か翌々日か、あったんですよ。ポジティブに捉えられることが。

その時のツイートがこれです。

いやあ。これが引き寄せってやつなんでしょうか。

実際驚きましたね。こんなに多重録音の練習効果が高いとは。

やっぱり他人よりも自分の耳が自分に一番厳しいんですよね。

他人は感じたままを言わないけど、自分は自分に罵詈雑言浴びせられますしね。

これまでもたいていのリハーサルは録音して後で聞きなおすようにはしてたんですが、自分の声だけにこんなに長時間向き合うってことはなかったですからね。

リハーサル録音の場合はある程度時間がたってから、たいていは電車の中で聞いてて、その場では声出せないですけど、多重録音やってると、歌った直後にすぐ聴いて、発声体感と実際の音響の誤差を確認してその場でその誤差を埋めるということができるんですね。

でそれを何度も何度も繰り返す。そりゃあ上手くもなるわと思います。

自分の足りない部分がわかって、そこを埋めればまあまあ聴けるくらいのことはできるということがわかってきたし。これは小さな光かもしれない。

自分の下手さに打ちのめされて、けどそれをリカバーするチャンスがある。

ある意味理想的な練習なのではないだろうか。

あとは編集ですね。

歌った後ズレとかなんかを編集で手直ししたり、音響効果を加えていろんな音響で聞いたりできるんですけど、その過程にまた学びが大きい。

視覚的に波形が見えたり、何セント音が高い低いというのがわかるし、どういう倍音が出てるかもわかる。

そうすると自分の声の特性とか歌い癖、音程の取り方なんかが見えてくる。

それもすべてのパートを自分でやってるので、音域ごとにできること、できないこと、特徴ってのが実践を通してわかってくる。

実はそういう機会ってないですよね。僕も普段いろんなパートを歌ってますが、今日はアルト、今日はバス、とか、午前はテノールで午後はバスとかそういうことはあっても、バス歌って10秒後テノールでまた10秒後アルトでまた10秒後ソプラノでまた10秒後バスとかそういうことはないですもんね。笑

発声練習ではかなり広い音域を練習しますが、やはりこれは型であって実戦ではない。

他にもいろんなことがわかりました。今タリスの40声のモテットを多重録音してるんですが、私の担当はバリトン7・8とバス1-8の10声なんです。

これ音域がほぼ同じでそれが10声分それぞれ10分あるので、ほんとに1日中おんなじ音域をずーっと歌ってる感じになるんです。

これね。発声のバランスを崩しました。ちょっと高いほう練習してからまたバスに戻るというようなことをやった方がうまくいく。

つまりソプラノからバスまで全部歌ってる時の方がうまく歌えていて、ずーっとバス歌ってる時の方がうまくいかない。

そういうこともわかってきました。

以上自分自分の多重録音の実践を通して得たことですが、これはこういう状況が生んだポジティブと捉えられることです。


更に、ここまでは自分の練習としての多重録音ですが、もう一つ、合唱団の練習としての多重録音も、以上のことに加えてメリットがあると思います。

今合唱団で使ってるのはsoundtrapというサービスなのですが、これ作った人に僕は一生足を向けて寝れないくらいお世話になってます。笑

もうほんとに素晴らしい。ありがとう。超ありがとう。感謝。超感謝。

それで合唱団としてのメリットなのですが、これ自主練がはかどるみたいです。

普段対面練習だけ行っている状況だと、なかなか自主練ってやらないですよね。もちろんやってる人もいると思います。でもお仕事されてる方の多くはかなり難しいですよね。週に30分でも合唱の練習の時間作るの。

それも一人でそもそも練習できるという人とそうでない人がいますし、やっぱり合唱の個人練習にモチベーションがわかないという人も多いと思います。(これは指導者の大きな課題でもあります。いかにしてメンバーの個人練のモチベーションを上げるか)

soundtrapに私が仮歌を入れておけば、読譜力に難ありの方でも一緒に歌うことができます。いわゆる耳コピですが、ある意味グレゴリオ聖歌の練習としてはオーセンティック!(しかし読譜力向上の課題は未解決のまま。。。)

あとsoundtrapって参加者が更新するとメールが飛ぶんですね。それで、あ、今○○さんやってんだなーというのがわかる。

こっちとしてはヨシヨシって安心するし、メンバー同士だと、あ、私もやんなきゃな、とか、ちょっとした焦りを感じることもあると思います。

鬼のようにsoundtrapで自主練してる人と、全然やってない人とで実力差が開いていけば、soundtrapで自主練すれば、うまくなるんだということの証明にもなる。

そう。だから今私が思っているのは、私が上手くなることが、多重録音の練習効果を証明することになるんだということ。

それもモチベーションになってます。絶対うまくなってやるんだと。私が上手くなれば、みんな多重録音で練習しようという気になるでしょう?

あの糞みてえな歌しか歌ってなかった櫻井が最近結構聞けるらしいよ。どうやら多重録音をやってるそうな。え?多重録音ってそんなにいいの?私も試してみようかしら。みたいな笑

それで、ここ2か月くらいの自分の成長の証を残すために一つ、コラールを歌ってみました。1パート2人ずつのオレ。オルガン8フィートのオレ、16フィートのオレ、コラール旋律をオルガンで弾くオレ。です。

まだソプラノは糞下手くそだし、バスも全然ダメなんですけど笑、それでも2か月前のオレからは飛躍的に上手くなってます。

また1か月後くらいに、メルクマールとして残していけたらいいなと思います。多重録音の練習効果を知るためのビフォーアフターですね。

この曲は今合唱団エレウシスでやってる曲で、この録音はそのままsoundtrapにアップして練習に使います。


それで最後に、この多重録音を使った企画を二つ、紹介したいと思います。

一つは今週末、サリクスの第6回定期演奏会をやる予定だった5/22に行うEnsemble Salicusのライブ配信です。

多重録音で作った作品を発表し、4人でzoomでトークします。

トーク&ライブみたいな雰囲気になれば。

録音はなかなかの出来になったと思います。この状況でしか生まれない作品を、残しておく必要があると思うんですよね。

というのはこの方法ということではなくて、この状況の私たちの心気体の状態でしかできないことがあるということです。

必ずしも、順風満帆の時の演奏が、いい演奏とは限らないですよね。

詳細こちらです↓

https://www.salicuskammerchor.com/post/%E7%AC%AC1%E5%9B%9E-remote-ensemble-salicus-live-%E8%BB%A2%E3%82%93%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%9F%E3%81%A0%E3%81%A7%E3%81%AF%E8%B5%B7%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%84%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1


もう一つ。多重録音を利用したアマチュア参加企画を立てました。

タリスの40声のモテットSpem in alium、なかなか演奏機会がなくて、私もいつかやりたいなあと思っていたのですが、多重録音なら可能だし、僕みたいにこの曲にあこがれを持ってるアマチュアの方にも参加してもらえれば、この時期にしかできない面白い録音作品が出来上がるのではないかと思いました。

この楽譜笑えますよね。縦長すぎだろ笑

募集3日ですでにソプラノは当初の予定の1.5倍の12人の方にお申込みいただいておりまして、驚いておりますが、ひとまずソプラノも含め募集を継続し、ほかのパートの集まり具合も見ながらどういう編成で作品作りをするか検討したいと思います。

パートバランスなんかも、結構どうにでもできるというところもまた多重録音の強み。フレキシブルに対応していきたいと思います。

まだ男声の方のお申し込みが少ないですが、この曲男声のパートの方が多いので(女声16パート、男声24パート)、奮ってご参加いただければと思います。

リアルで演奏することがますます難しい40声のモテット。これは千載一遇のチャンスかもしれません。

曲としては非常に壮大ですが、一つ一つのパートそれぞれはそんなに難しいことはありません。音域的にも、音の動きにしても。

全く臆することはないです。ぜひ一緒に作り上げましょう!

詳細こちらです↓

https://www.salicuskammerchor.com/post/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%A4-ensemble-salicus%E3%81%A8%E6%AD%8C%E3%81%8640%E5%A3%B0%E3%81%AE%E3%83%A2%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88