レクチャーコンサート「ザムエル・シャイトー『カンツィオネス・サクレ 』と『コンチェルトゥス・サクリ』

レクチャーコンサート「ザムエル・シャイトー『カンツィオネス・サクレ 』と『コンチェルトゥス・サクリ』

先月収録いたしました、Salicus Kammerchorによるシャイトの演奏がアップされました。

詳細は立教大学のHPからご覧ください。

http://rikkyo-kiriken.com/events/index.php?QBlog-20220310-1

米沢先生、大角先生による貴重なレクチャー動画もあります。

本来はこれらのレクチャーとともに一般公開で演奏する予定でしたが、それぞれ別の動画として公開されることとなりました。

演奏はやはり会場でお聴きいただきたかったという思いが強いですが、今回の録音録画も、いつもお願いしている新村氏による素晴らしいものです。


プログラム

①伝ガルス・ドレスラー《わが慰めと助けはただ神のみ》によるインタヴォリールング
オルガン独奏・編曲:米沢陽子

②伝ガルス・ドレスラー(1533-1580)
《わが慰めと助けはただ神のみ》

ザムエル・シャイト(1587-1654)

③『カンツィオネス・サクレ』より
 《心よりあなたを愛します、おお、主よ》SSWV28
 《たとい私の心がくずおれても》SSWV29

『コンチェルトゥス・サクリ』より
④シンフォニア SSWV423 (70のシンフォニアより)
⑤マグニフィカト第8旋法 SSWV81

⑥シンフォニア SSWV428 (70のシンフォニアより)
⑦《今日、五旬節の日が満ちた》SSWV75
《聖霊は彼らを全世界へと送り出した》SSWV76

①は米沢さんによるオルガン独奏、②は4声の合唱、③は8声の合唱、④と⑥は器楽によるシンフォニア(④は弦楽器、⑥は管楽器)、⑤と⑦は8声の声楽と8声の器楽による作品です。

非常に編成が多彩なプログラムである上、最大編成の作品は二重合唱が器楽により更に倍の声部になった16声の作品で、当時としても、現代でも(!)非常に豪華な編成です。

なかなかここまでの編成の作品を、それもツィンクやサクバットは国内に奏者が少なく、これほどの腕前の奏者を揃えて演奏することは容易ではありません。

普通経費がかさみすぎて無理です。

今回全ては立教大学と米沢先生のお力によって実現しました。心より御礼申し上げます。

メンバー
S: 鏑木綾 中須美喜
A: 金成佳枝 富本泰成
T: 渡辺研一郎 金沢青児
B: 鳳城昊 小藤洋平

Vn1: 遠藤結子 Vn2: 大光嘉理人 Va: 佐々木梨花 Vne: 角谷朋紀
Zink: 上野訓子 Sackbut A: 宮下宣子 Sackbut T: 南紘平 Sackbut B: 石原左近
Org: 新妻由加

指揮:櫻井元希


今回のメインとなるのは『カンツィオネス・サクレ』と『コンチェルトゥス・サクリ』の2つの曲集から取られた作品となります。

カンツィオネス・サクレの方は、7月に収録したレクチャーコンサートで沢山演奏いたしました。その時の録画は今月末までご覧いただけます。

http://rikkyo-kiriken.com/events/index.php?QBlog-20210802-1

ポリフォニックな部分とホモフォニックな部分がバランス良く展開され、非常に緻密な二重合唱の作品です。

それに対してコンチェルトゥス・サクリの方は、ソロや重唱とtuttiの交代によって展開する作品で、同じ二重合唱でありながら、声楽の扱い方は対照的です。こちらの方は緻密というよりはダイナミックです。

初期バロックでは、バロック的な要素(言葉を軸に和声的に展開される)とルネサンス的な要素(旋律を軸に対位法的に展開される)が混在していたり、書き分けられたりしているのですが、ざっくりいうとカンツィオネス・サクレの方はルネサンス的要素が強く、コンチェルトゥス・サクリの方はバロック的な要素が強いと言えます。

バロック的とは言っても、今回の2曲はラテン語による作品なので、ドイツ語の作品ほどは語感が強調されません。つまり「喋る」よりも「唱える」要素が強いと言えます。

この辺のバランスが非常に繊細で、表出的になりすぎてもおかしいし、旋律優位にしすぎてもおかしい。ちょうど絶妙なバランスが取れた時に初めて、この音楽が言わんとしていることが立ち現れます。

私たちSalicus Kammerchorのバックグラウンド的には言葉からのアプローチで育ったところがあり、サリクスが出来てからは、グレゴリオ聖歌の歌いまわしからヒントを得た旋律をいかに歌うかということに注力し、そこにアイデンティティを見出してきました。

これが、どっちかならともかく、どっちもというのがむっずいわけですね。いや常にそうなんですけど、大体これはこっち寄り、これはあっち寄りというのがあって、絶妙に両方の要素が必要、というのはそう多くはないのではないかと思います。

どの曲も日本でも世界でもそうそう演奏される曲ではないです。もう一生聴かない曲もきっとあるでしょう。ぜひ多くの方に聴いていただきたいです。


実は今回お願いした金管楽器の方は、秋のカンタータでもご一緒いたします。

そのためにツィンク1本、サクバット3本を使用するカンタータばかりを集めました。

今から楽しみです。

Salicus Kammerchor演奏会
J. S. バッハの教会カンタータvol.2

【日時・会場】
2022年11月25日(金)
日本福音ルーテル東京教会

2022年11月29日(火)
豊洲文化センター ホール

【曲目】
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
Johan Sebastian Bach

モテット
“Ich lasse dich nicht, du segnest mich denn” BWV Anh. 159

​カンタータ
“Christ lag in Todesbanden” BWV 4
“Gottlob! Nun geht das Jahr zu Ende” BWV 28
“Sehet, welch eine Liebe” BWV 64
“Christum wir sollen loben schon” BWV 121


その前に、5月には第7回定期演奏会があります。

シャイトの同時代人、シュッツと、彼に多大なる影響を与えたモンテヴェルディの作品を演奏します。

同時代で、しかも同じ地域で活躍したシャイト、シュッツ、それからシャインもですが、驚くほどこの3人の作風は個性が際立ってます。

個人的にはこの3人はイザーク(職人的で変人)、ジョスカン(ただの天才)、ラリュー(信じられないくらい流麗)の関係に似てるなあと思ってます。

前半プログラムではパレストリーナやチプリアーノ・デ・ローレ、コンペール、ジョスカンなんかもやりますので、ぜひお越しください。

Salicus Kammerchor第7回定期演奏会
ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2
二人の天才
​〜モンテヴェルディ→シュッツ〜

【日時・会場】

5月20日(金)19時開演
日本福音ルーテル東京教会
チケット予約:https://tiget.net/events/160766

5月22日(日)14時開演
台東区生涯学習センター ミレニアムホール
チケット予約:https://tiget.net/events/160767

Afra|Human Beatboxワークショップ

Afra|Human Beatboxワークショップ

先週末、日本ビートボックス界のレジェンド中のレジェンド、Afraさんのワークショップに参加してきました。

まさか僕みたいなもんがAfraさんから直接ビートボックスを教わる日が来ようとは夢にも思わなかったのですが、徳久さんが過去に共演経験があったそうで、コエダイ主催のWSが実現しました。

教わった内容は基礎音と簡単なビートの組み合わせだったのですが、生音とマイク通した音と比べながら、一つ一つ丁寧に教えていただいて、Afraさんの基礎音が私が想像したものと結構違って、なかなかショッキングでした。


キック

普通のBのキックですが、めっちゃAfraさんの喉頭上下に動いていて、これノーワードでやってたんですね。

ノーワードというのは、(私の理解では)肺からの呼気や吸気を用いずに喉頭か舌のポンプで呼気圧か吸気圧を作ることです。

(私の理解がビートボクサーの一般常識と異なる場合があることをご了承ください。)

喉頭が上下しているということで、声帯を閉じて喉頭を上下させて気圧を作っているということがわかります。

多分私が思い込んでただけなんでしょうねえ、改めてOnii-chanのチュートリアル見たら、口の中に空気の玉を作ると言っているので、これノーワードですね。後半のSxinのデモンストレーションでもはっきり喉頭の上下を見て取れます。

https://youtu.be/axHknUapQAU

そしてなんでこれアウトワード(吐き)じゃなくてノーワードの方が良いかというと、まず唇に圧力をかけやすいです。肺で作る圧力よりも、喉頭や舌で作る圧力の方が強いんです。これはSpitzスネア(ハンドクラップ)をやってみるとわかります。アウトワードでもSpitzスネアできるんですが、めっちゃ筋力必要な上に、舌でやってるときのようなクリスピーな音はしません。

momimaru先生も解説しております。

あとノーワードの利点は、キレがいいところですね。アウトワードだと発音のあとに呼気が出て、余韻が残る感じ(アスピレーションの感じ)になるのですが、ノーワードだと音がピタッと切れる感じになります。

なので硬い印象の音を出すにはノーワードの方が良いのだと思います。

そしてAfraさんのキック、生音で聞くと、わりと「プッ」くらいの感じで軽いんですが、マイク通すとカッチカチです。

こういうのは動画ではわからないところなんだろうなと思います、動画だといずれにせよマイクを通しているので。


ハイハット

ハイハットも私全くアウトワードでやってましたが、Afraさんがやってたのはノーワードでした。

よく考えたらアウトワードでやるとオープンハイハットになりやすいですよね。これもキレの問題で、ノーワードの方がキレが良いです。

あとハイハットを”t”でやる人と”ts”でやる人といると思うんですが、いや、これただの表記の問題で、音は殆ど同じなんじゃないかとも思うのですが、実は前から気になってるんですよね。

Afraさんは”t”で表記されていました。

あとt派で面白いのは、ロシアのビートボクサーImproverで、彼は右手に”b t k t”というタトゥーをしていて、ハイハットをtで表記しています。

Rofuは「ツ」だ!以上!と言ってますね。

そして上のOnii-chanは”tz”と表記してます。ドイツ人なんで!

いやしかしこれ最終的には同じような音になるとしても、入り口がtかtsかって結構な違いな気がするんですよね。

(この件についてAfraさんに質問しようと思ってたけどすっかり忘れていたよ。というか質問いくつか用意してたのに、質問ありますかって言われた時に頭が真っ白になったよ。)


Pスネア

今回習った基礎音はこの3つですが、Pスネアだけアウトワードでした。

そしてアタクシはこの3つ全部アウトワードだと思ってたので、bとtをノーワードにするというだけで完全に脳と口まわりがバグりまして、何もできなくなりました笑

たったこれだけのことでバグっちゃうんだなあとわがことながら感心しておりました。

今ちょっとやってみてもtがアウトワードになっちゃったりpがノーワードになっちゃったり(これはもはやスネアではない)、結構長い間自己流で全部アウトワードでやっててこの習慣はなかなか抜けないものだなあと思います。

あとFugaさんも言っていますが、Pスネアは個性が出る。AfraさんのPスネアは結構高めの音で、真似しようと思っても全然その高さ出ませんでした。唇つよつよです。

いや、Pスネアに限らず、ビートボックスってドラムとは比較にならないくらい個性が出て、それがヒューマンだなあと思うのですが、多分私音質にもよりますが、so-soのハイハットは聞き分けられます。あとFootbox GとかHeliumのハイハットも好きで、多分これも聞き分けれると思う。

効きビートボックスやってみたいな。いろんなビートボクサーのキックだけとか、ハイハットだけとか集めて、あてっこすんのね。超楽しそう。

ビートボックスの歴史

今回の講座は実践だけでなく、ビートボックスの歴史も教わりました。レジェンドによるビートボックスの歴史。えぐい。

私は新参者のビートボックスファンなので、最近の事しか知らなかったので、とても興味深かったです。

特に黎明期の全部勢いでやってます!みたいなビートボックス、激アツでした。

やっばいですよねこの気合い。つよい。めっちゃつよい。

いやデスメタルとかもそうなんですけど、テクニックは時代とともに向上していくんですけど、こういう気合いのパフォーマンスって減ってくんですよね。余裕でできるようになっちゃってさあ。

ギリギリのところで千切れそうになりながらやってるのがいいんじゃんねえとかデスメタルの場合は思います。

あとデスメタルでプチョヘンザとか言い出したら世も末(ry

脱線しましたが、現代のガッチガチにテクいビートボックスもいいけど、黎明期の気合いと勢いのパフォーマンスもいいですよね、という話で、初心忘るべからずという話でございます。


というわけで様々な発見のあった講座でしたが、Afraさん、実際にお会いすると音はカッチカチなのに物腰は柔らかすぎてこちらが恐縮するほどでした。

こんな柔らかいレジェンドいる〜〜〜?って感じでした。

また講座第二弾やってほしいなと思うと同時に、最近のビートボックスについてもどう思ってるかなどお話聞いてみたいなと思いました。


さて本業の方ですが、Salicus Kammerchorが先月収録しましたシャイトの動画が公開になりました。

無料でご覧いただけますので是非多くの方に聴いていただきたいです。

大角先生、米沢先生の解説動画も、こちらからご覧いただけます。

http://rikkyo-kiriken.com/events/index.php?QBlog-20220310-1

Salicus Kammerchorは5月に第7回定期演奏会を開催いたします。

こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

Salicus Kammerchor第7回定期演奏会
ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2
二人の天才
​〜モンテヴェルディ→シュッツ〜

【日時・会場】

5月20日(金)19時開演
日本福音ルーテル東京教会
チケット予約:https://tiget.net/events/160766

5月22日(日)14時開演
台東区生涯学習センター ミレニアムホール
チケット予約:https://tiget.net/events/160767

自己紹介します

自己紹介します

最近このブログの記事のラインナップを見ても、お前は一体何者だ、結局何がしたいのだと自分でも思いましたので、改めて自己紹介しようと思います。

これが私、櫻井元希です。

この写真いいですよね。昨年のemulsionのコンサートの時に平舘平さんに撮っていただきました。

これだけだとなんだかやばい人だと誤解されそうなので、自意識過剰に自分が写ってる写真を集めてまとめてみました。↓


本業

私の本業は歌手、指揮者です。専門はバロック以前のキリスト教声楽作品です。

その中でも特にフォーカスしているのは、グレゴリオ聖歌、フランドル・ポリフォニー、J. S. バッハです。


歌う方

Ensemble SalicusemulsionEnsemble XENOSThe Cygnus Vocal Octetヴォーカル・アンサンブル カペラ古楽アンサンブル コントラポントなどで歌っています。

大体古楽と呼ばれる1750年以前のクラシック音楽が多いですが、emulsionやThe Cygnus Vocal Octetではもっと新しいものや、バーバーショップなどポップスに近いものなんかも歌っています。

声種はなんなんですかと聞かれることも多いのですが、最近あんまり気にしてません。歌わせてもらえるんであればどこでも歌いますよというスタンスです。

アルトからバスまでならどこでも、という感じですが、シグナスではちょろっとソプラノを歌うことになったこともありました。ホイッスル練習してソプラノも歌えるようになりたいなという希望もあります。

そういうことも滅多に無いのですが、どうしても書類に声種を書かなきゃいけないとかいうときは、間を取ってテノールと書いてます。

最近「声楽家」ではなく「歌手」を名乗っているのは、私の中の声楽家のイメージと、私のやっていることがあまりにも乖離してきたので、「歌手」としています。


指揮の方

指揮は主催しているプロの室内合唱団Salicus Kammerchor、アマチュア合唱団Chor Eleusisと、バッハ・カンタータ・アンサンブルで振っています。

指揮をするようになったのは芸大のバッハ・カンタータ・クラブがきっかけで、モテットやカンタータやミサなんかをやりまして、そこを引退する時に、振るとこなくなっちゃうなあと思って、2015年にSalicus Kammerchorを作りました。

サリクスではまずJ. S. バッハのモテット全曲演奏、全曲録音に取り組み、2019年にモテット全曲録音CDをリリースしました。

現在はJ. S. バッハから時代をさかのぼり、ハインリヒ・シュッツの作品をメインで取り上げるシリーズを進行中です。5月に第7回定期演奏会を行います。

秋にはJ. S. バッハのカンタータを演奏します。直近ではこのシュッツのシリーズとカンタータのシリーズの二本立てとなっております。

Chor Eleusisは2019年に立ち上げたアマチュア合唱団で、サリクス同様グレゴリオ聖歌からJ. S. バッハまでのキリスト教声楽作品をレパートリーとしています。

立ち上げ早々コロナ禍に突入してしまいまして、まだ演奏会が出来ていないのですが、毎週地道に地力向上を目指して練習しています。

バッハ・カンタータ・アンサンブルは師匠花井哲郎がやっている団体で、器楽も合唱もアマチュアでJ. S. バッハのカンタータ全曲演奏を目指している骨の太い団体です。

数年前から花井先生と交互で本番の指揮を振っています。


本業以外(に一見見える方)

ここまでのところはまあ音楽家としてそこそこ普通かなと思う部分なのですが、ここから一見本業とは関係なさそうな活動のお話です。


武術

このブログでもしょっちゅう更新しておりますが、光岡英稔先生のもと武術を稽古しております。

光岡先生は韓氏意拳という中国武術の日本の代表であると同時に、世界の様々な武術を修めて、講座で教えてくださっています。

ほぼ毎回このブログでレポートしているので、詳しくはそちらをご覧いただくとして、なぜ私が武術をやっているのかというところをお話したいと思います。

きっかけは、学部卒業くらいのときに、徳久ウィリアムさんのボイトレを受けに行ったということです。

おそらく7−8年前くらいの話ですが、この時すでに徳久さんは武術からインスピレーションを受けたボイトレをやっていました。

我々が普通にボイトレと言って想像するのは、現状の声を聞いて、それに対してそれをどういう風に変えたいかというところからアプローチするというのが基本かなと思います。

徳久さんのボイトレは、「状態が行為を生む」という発想の元、出ている声をどうこうするのではなく、望んだ声を出すための「状態」の方に着目します、そして声そのものではなく、「状態」にアプローチします。

(あくまで私が徳久さんのボイトレを受けた上での印象なので、気になる方はぜひ徳久さんのボイトレを受けてみてください。)

それでまあ声という現象ばかりを追っていた私にとっては目から鱗でございまして、そのおかげで今の私がいると言っても過言ではありません。

そしてその徳久さんの武術のお師匠が光岡先生ということで、光岡先生の講座に通うようになったというわけです。

ここで学んだことは、歌や指揮のみならず、生きて在るということに関して私の指針となっています。人間とはなにものか、身体とはなにか、自然とはなにか、生きるか死ぬかというあまりに身も蓋もない状況下で生まれた「武術」は、こういった最も根源的な問いに対する示唆をシンプルに、ストレートに与えてくれます。


特殊発声・ノイズボイス

ここでお話するのは、上記の徳久さんにまつわる活動です。

特殊発声というのは、何に対して特殊かというのがめちゃくちゃ曖昧な定義ですが、コエダイr合唱団の活動を想像していただくと大体こういうもんかとわかっていただけるかと思います。

これはイタリアサルデーニャ島のテノーレスという芸能ですが、こんな感じの曲をレパートリーとしています。

他にブルガリアン・ヴォイス、ジョージアの男声合唱、オルティンドー、ホーメイ、ヨーデルなどをやっています。

これをまあなんでやってるかということなのですが、まず第一にこういうのが好きだからです。

特にホーメイやテノーレスは昔から憧れがめちゃくちゃあって、日本でまさかテノーレスを歌える機会があるなんて10年前は想像だにしませんでした。ドリームズ・カム・トゥルーですね。

それでやってみて感じたり、わかってきたのは、こういった特殊と呼ばれる発声方法は、ボイトレ的に普通の声を出すにあたっても良い効果がめっちゃある、ということです。

普通の発想だと、こんな変な声出したら喉を傷めそうとか、声出なくなりそう、とか思いそうですが、真逆です。

ますます健康になりますし、ますます声は出るようになります。

いろんな声出すのが良いことだというのは最近ボイトレ業界でも言われるようになっています。私の経験だけを根拠にしているわけではないです。

ヨーデル、カルグラ、喉詰め、オルティンドー≒ベルティングは私のボイトレのレッスンでは普通にツールとして使います。

そしてノイズボイス。これは徳久さんのオハコです。

去年の灰野敬二さんとのDUOを聴きに行ったのですが、衝撃的に良かったです。

こういう声(?)を使った企画でノイズボイスカラオケというのに参加しているのですが、ほんとデトックスです。私たちには叫びが足りなかったんだなあと思います。

そしてもちろん喉には良いです。翌日めっちゃ調子いい。出来なかったことが急にできるようになったりします。

呼気にしても吸気にしても、やっぱりノイズボイスが一番気圧がアガります。


ビートボックス

ビートボックスもまず単純に超ハマってます。ただただ好きです。

クラシックの演奏家の中で多分一番ハマってると思います。

ビートボックスについて書いた記事はコチラ

お読みいただければいかに私がビートボックスを愛しているかをわかっていただけると思います。

それでビートボックスの文化って面白くて、オリジナルの技とか自分で作ったらすぐチュートリアル動画出すんですよね。新しいものがすぐオープンソースになる。素敵ですよね。

そういうのを観て私もやってみよーとか思うんですけど、これがね、おっどろくほど何もできない。私かなりいろんな声出してるし、そこそこ発声に関わる筋肉も鍛えてる方だと思うのですが、マジで手も足も出ない。それどころか何を言っているのかさえわからない。

https://youtu.be/9yEKHmCgovY

こういうのです。マジで意味がわからん。

ただこういうの観ていくと思うのは、見えるところでも舌の筋肉の盛り上がり方とか異常だというところとか、見えないところではきっと想像もできないことが彼らの体内で起こっているということ。

人間のポテンシャルに関する見方が変わりましたね。

マジで無限大過ぎる。

自分の想像力なんてハナクソみたいなもんですね。

でまあ出来ないなりにビートボックスを練習していくと、まあ出来ないなりに上達はしていって、それに伴って声を支える筋肉もついていってる感じがするんです。

この後紹介する岩崎ひろきさんもビートボックスをボイトレに取り入れているのですが、発声に必要な筋肉を鍛えるのに結構ビートボックスは最適かもしれません。

普通に声を出しているだけでは決してかからない負荷をかけることができる。


将棋

将棋もただただ好きなだけです。趣味です。

けど将棋と音楽の共通点は多いと加藤一二三先生も仰っておりますし、もの凄くコアのコアのところではそのとおりだなと思います。

まっさらではない盤面に二人でせめぎ合いながらいっきょくの世界をアンサンブルして、同じ戦型を何千回指しても全く同じ将棋は一回もない。

特にフランドル・ポリフォニーの世界観に似てると思います。宇宙の真理を探求してる感じですよね。

また、AIについての加藤一二三先生の言葉を引用しましょう。

車は人間が追いつけない速さで走る。しかし、車が登場したからといって陸上競技の百メートル走が廃れることはなかった。百メートル走は、今なお観客を魅了し続けている。

音楽もそうですよね、初音ミクのように正確に歌える人間はいないけど、それはそれ。初音ミクは初音ミクだし、人間は人間。


ボイトレ

私は現在3人のボイストレーナーに習っています。小久保よしあきさん、岩崎ひろきさん、mahoneさんの3人です。

それぞれの先生にそれぞれ違うことを学んでいます。

ポップス系

小久保先生はマイケル・ジャクソンも受けていたメソッドとして有名なSLSバックグラウンドのボイストレーナーで、ポップス系の発声をメインで教えています。

いわゆるミックスボイスというやつを教えてもらっていますが、最近はコーチング的なアプローチが多く、自分が一体どういう声を求めていて、それには何が必要なのかということのディティールを詰めていくのにとても役立っています。

芸大を出てから最初についたボイストレーナーで、私の声を脱芸大化するのにとても力になってくださいました。

一度どっぷりと浸かってしまった価値観の枠の中から出ていくというのはかなり難しいことです。

私もいまだに昔の悪癖に苦しめられることがあります。

なぜひとつの価値観の中から飛び出していくことが私に必要だったのかについては、最後に書こうと思います。


ベルティング

ビートボックスの項にも登場した岩崎ひろきさんには、主にベルティングを教わっています。

ベルティングはゴスペルやなんかでソウルフルに高音を出すために使うテクニックで、結構ミックスとは真逆のテクニックと言えると思います。

岩崎さんにはSalicus Kammerchorのメルマガ、サリクス通信でも記事を書いていただきましたが、舌骨をキーとして全身へと繋がる筋肉の張力に注目したテンセグリティ的な発想によるボイストレーニングをやってらっしゃいます。

クラシックではベルティングは使わないと今は言われておりますが、私はそんなことはないんじゃないかと思っています。

広義でのベルティングは普通に使われていると思いますし、狭義でのベルティングもかつて使われていた可能性は非常に高いと思います。

ミックス的な高音の出し方と、ベルティング的な高音の出し方と、どちらが「自然」かと考えると、ベルティング的な出し方の方がより原始的で、時代が下れば下るほど普通であった可能性が高いと思うんですよね。

あと、使わなかったとしても、当然ボイトレのツールとしてベルティングはめちゃくちゃ有用です。

合唱団の練習でほぼ毎回やってます笑


スクリーム

デスボイスといった方がイメージはしやすいかもしれませんが、より広義にスクリームとしました。

もともとデスメタル、ブラックメタル、グラインドコアあたりをよく聴いていて(といってもCarcassとGorgorothとCephalic Carnageくらいですが)、これも私の人生と分かちがたく好き♡なんですよね。

メタル関連の記事はコチラ

それでずっと自己流でデスボはやってたんですけど、去年からちゃんとレッスン受けるようになりました。

mahoneさんは教えるのも上手いし、物理の理解も桁違いだしその上デタラメにバカテクです。

この動画一発でバカテク具合がわかります。

日本最高難度と言いながら、その難易度をむしろ上げにいってますよね。異常者(褒め言葉)。

スクリームとホイッスルとガナリを習ってて、最近ガナリをメインで教わっているのですが、ガナリというとこういう感じです。

あートム・ウェイツ好き、あーー好き、好き。

一応音程がある歌唱をクリーントーンと呼ぶのなら、その中で一番好きかも、二番目はウラジーミル・オイドゥパーかなあ、次はSentencedのヴィレ・レイヒアラ。

あ、全員仮声帯発声だ。でも音程があるというだけを定義とするならイゴール・コシュケンディとかも入ってくるか。

レッスンを続けて受けていて思うのは、ビートボックスともホーメイともめちゃくちゃつながってくるというところで、それはつまるところ普通のボイトレにも役になっているということです。

また、スクリームのレッスンが一番ギリギリのところを攻めてる感じがします。

これまでの自分の経験から、身体が完全に拒否反応を起こして、「立入禁止」って看板立ててるところをおらーって突っ込んでくんですよね。でそこ行ってみると意外となんともなくて、翌日筋肉痛になっているという、つまり未だ鍛えたことのない筋肉を鍛えることができたということなんですよねえ。

これも、それまでの自分の常識みたいなもんをぶち壊して、その先に可能性が見出だせた例でありまして、得難い経験でございました。


インド音楽

昨年からバーンスリー奏者の寺原太郎さんに個人レッスンしていただいて、インド古典音楽を学んでいます。

これにははっきりした目的がありまして、グレゴリオ聖歌の歌いまわしを探るためです。

グレゴリオ聖歌の歌唱法って、一応10世紀頃に記された古ネウマによって伝えられてはいるのですが、ネウマによる歌唱の伝統が途絶えてしまって、ネウマが意味するところが一部はっきりしないところがあるのです。

特に特殊ネウマと呼ばれる一群のネウマは何らかの特殊な唱法が用いられたということぐらいしかわかってなくて、私たちはその歌い方を想像して再現するしかないんですね。

でなんで古ネウマによる歌唱の伝統が途絶えてしまったのかというと、古ネウマでの記譜の習慣がなくなって、音程と一部古ネウマの名残を残した記譜法に変化してしまったからで、それはやはりポリフォニーの発達も大きく影響していると思います。

西洋音楽は横方向ではなく縦方向に進化した、そう言えると思います。つまり声部が増えていったことで、一つ一つの声部の旋律に対する繊細な感覚は失われていったと。

その点インド音楽は横方向のまま進化したと言えると思います。とにかく一つの旋律に対する感覚というのが、我々からすると異常に繊細で、聞き取ることもできないほんの僅かな変化によってもの凄く多様なラーガの世界を形作っているんです。

だからきっとそこには同じ単旋律の歌であるグレゴリオ聖歌を歌うためのヒントがあると思ったんですね。

まだまだ研究の途上ですが、少なくとも私の中で、グレゴリオ聖歌を歌う時の旋律に対する感度といいますか、繊細さは飛躍的に増しました。

インド音楽の気の遠くなるような世界観についてはこちらの動画をちょっと観ただけでもおわかりいただけるのではないかと思います。


結局何がしたいんだい

というわけで「本業以外(に一見見える方)」という項目がやたら長くなってしまいましたが、私の活動、一見とっちらかってますよね。

しかしまあほとんど本業に直結しているというか、極論言うと人生に無駄はないので、全部つながっているといえばいるのですが、これがほんとに思ったよりつながってるんですね。

というのも私の本業、いわゆる「古楽」の中の特に声楽というジャンルはなかなか曲者でありまして、もちろん録音が残っているわけでもなく、楽器が残っているわけでもないので、実際にどういう声で歌っていたかわからないんです。

インド音楽のところでも書きましたが、グレゴリオ聖歌の場合、古ネウマという歌いまわしを示した記号は残っておりまして、どういう歌いまわしをしていたかは(一部除いて)だいたいわかります。

また歌の教則本のようなものも残っておりまして、例えばヤギが鳴くような声で歌っちゃだめだよーとかこういうときはこういう装飾をつけるんだよーとかそういうことは残っているのですが、やはりテキストで音色を表現するのは難しいということと、書くまでもないことは書かないというところから、実際にどういう音色で歌っていたかわからないんですよね。

ヤギの鳴くような声で歌っちゃだめってそれわざわざ書かなきゃならなきゃいけないようなことかと思うんですけど、そういう声で歌う人がいたからそういうことを書くわけですよね。

そんなわけで、多分今巷でやられてるような、いわゆるオペラ発声のマイナーチェンジでしかない「古楽発声」みたいな声ではなかったと思うんです。

時代を遡れば遡るほど。

また、そもそもわりと新しい作品であっても、今やられてるような発声が本当にふさわしいかどうかというのは甚だ疑問がありまして、特に、わりとみんな「歌詞に即した表現をしましょう」というようなことを言うのですが、その割にみんなずーっとおんなじような音色で歌うんですよね。

「え〜〜〜そんな生々しいエゲツない歌詞歌ってるのにそんなよそよそしい声で歌うの〜〜?」ってよく思うのですよねえ。

音色のバリエーションが極端に少ないというのは、今のクラシックの歌の最も大きな特徴ではないでしょうか。

私は歌を歌う時に、その歌にほんとうにぴったりな声で歌いたいと思うわけです。

気剣体の一致とか剣術では言いますけれど、気声体が一致した歌が歌いたいんです。

特殊発声も、ノイズボイスも、ビートボックスも、ベルティングも、スクリームも、人間の声の可能性のひとつなんです。

これは武術で学んだことですが、「型」というのは身体観の変容を経験することだと。

そして型によって経験した身体観の変容を、型によらずして起こすことが観法だと。

いろんな声を出すということは、型の稽古をしているようなもので、「身体観の変容の経験」を目的としていて、「意」が起きたその瞬間に「意識」のラグを挟まないでその声が「出ている」ということを目指しています。

韓氏意拳では一形一意(意と形の一致)という言葉がありますが、歌の場合「一声一意」です。

そのための型稽古としてのボイストレーニングという感じですね。

特殊発声、ノイズボイス、ビートボックス、スクリームといったあたりは、ただただ好きでやってたらいつの間にかつながってたんですよね、偶然。笑

自分から足を突っ込んでいったのはポップス系の発声、ベルティング、インド音楽あたりです。

これは必要だなと思ったから突撃しました。

武術はこれらで身につけたテクニックをテクニックで終わらせないための土台といいますか、それらと体、心、気を一致させていくために私にとって絶対必要なことです。

あー、将棋だけただの趣味のようですが、うん、いや別にただの趣味でもいいんですけど、ただの趣味と言うには憚られる奥深さ、コアのコアでのつながりを感じます。宇宙とはなんぞや、人間とはなんぞや、ということを追求してますよね。プロ中のプロの将棋の話ですけどね。


いやはや長くなってしましました。

興味ある方はレッスンやってますので私のところに来ていただいてもいいし、私はそれぞれの専門家では全然ないので、それぞれの専門家のところへ行ってください。

武術:光岡英稔先生の講座 BUGAKU 韓氏意拳

特殊発声・ノイズボイス:徳久ウィリアムさんhttps://note.com/voiz

ポップス系発声:小久保よしあき先生http://kokubovoicetraining.com/

ベルティング:岩崎ひろきさんhttp://gospelvoicelab.com/

スクリーム:Mahoneさんhttps://mahone.jp/

インド音楽:寺原太郎さんhttps://srgmtaro.jimdofree.com/class/


所属団体のリンクもここに貼っておきます。

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光岡英稔 韓氏意拳講座|10回目:BUGAKU講座|13.14回目

光岡英稔 韓氏意拳講座|10回目:BUGAKU講座|13.14回目

先月は全然参加できなかったのですが、今月は2日で3コマ受講してきました。

土日の方にこのところ全然出来ずにいまして、連続受講もものすごく久しぶりだったもので、内容の多彩さに目が回っておりました。

今月の東京での講座は、
水)GPC空手
木)GPC剣術
金)GPCシラット GPC韓氏意拳
土)韓氏意拳(2コマ)
日)BUGAKU(3コマ)
月)GPC八卦掌
(GPCはグループプライベートクラスの略)

となっておりまして、まず光岡先生が鉄人過ぎるのは言うまでもなく、某I毛さんとかS水さんとかは全部参加したのかしらとか、受講する方のタフさもエグいです。

私なんか2日、3コマで全身疲労で翌日起きるのも億劫でした。。。


【これまでの講座レポート】
BUGAKU講座|1回目 https://wp.me/p7Ktcz-cpK
BUGAKU講座|2回目 https://wp.me/p7Ktcz-dGh
BUGAKU講座|3回目 https://is.gd/Gm9C17
韓氏意拳講座|1回目 https://is.gd/D3RjiJ
BUGAKU講座|4回目 https://is.gd/37Oxg1
BUGAKU講座|5回目 https://ux.nu/AmsQM
韓氏意拳講座|2回目https://is.gd/G7l53a
BUGAKU講座|7回目 https://is.gd/xiBfFB
韓氏意拳講座|3回目 https://is.gd/rDRgMX
韓氏意拳講座|4回目 https://is.gd/8BX3eO
BUGAKU講座|8回目 https://is.gd/tbIYiI
韓氏意拳講座|5回目 https://is.gd/YmZ2Yc
BUGAKU講座|9回目https://is.gd/BnOQit
韓氏意拳講座|6回目https://is.gd/dlMQTX
BUGAKU講座|10回目https://is.gd/RczZH5
韓氏意拳講座|7回目https://is.gd/a1Yor1
韓氏意拳講座|8回目https://is.gd/ayTQMA
BUGAKU講座|11回目https://is.gd/ayTQMA
韓氏意拳講座|9回目https://is.gd/NCZKxY
BUGAKU講座|12回目https://is.gd/zHtNYL


剣術

木曜は剣術のクラスでした。このクラスに参加するのは初めてで、一応私元剣道部ということもあって楽しみにしていました。

講座はまず「線」のことから。マスキングテープで直線を途切れ途切れに作ると、目に見える線と線の間に、目に見えない線が現れる。目に見える実線を設けることによって、目に見えない線の世界へ導入するという内容でした。

私、後から考えると非常にアホな質問をしました。

「ああ、正中線とかって言うときはその目に見えない線のことを言ってるんですね?」

そりゃそうだ笑

正中線が実際に書かれてたら相当面白い笑。

そんなやつおらへんやろ、ちっちきちー。

ただ、この見の目(顔についてる目)から観の目(心の目のようなもの)へという流れ、私にとっては新鮮でした。

というのも観の目の稽古として観法をやるとき、見の目は大体閉じてるんですよね。見の目と観の目を混同しないようにということだと思うのですが。

なので、見の目でこう実線を見ていって、実線と実線との間にある「空間の線」を「みる」というのが、自分としては見の目で見ているつもりが、いつの間にか観の目で観ている。

これがなんだか面白くて不思議でした。あれ?今目で見てるよね?あ、でもここに実際に線はないから目では見えないのか。そうかそうか。などという自問自答をしておりました。

それで試し稽古で見の目で見ている時と観の目で観ている時の違いというのを経験していきます。

実際に試してみると火を見るより明らかなのですが、自分の身体で経験したことのない人にとってはただのオカルトです。これはBUGAKUの全ての講座に共通することですが。

だからいつも、こうして言葉にすることに虚しさを感じながら書いているのですが、講座に参加された方が読んでくださっていたり、極稀に私きっかけで武術に興味を持ってくださる方もいるので、無駄ではないかなあと思い、続けております。

しかし本当に自分の身体で体験しないとわからないので、是非みなさんに体験していただきたいです。ここで学べることは少なくとも都市部で文化的な生活をしている方全てに有益な内容です。特にここ最近よりその価値は高まっていると思います。

いやー例えるなら、宮本武蔵が毎月東京で講座をやってると思ってみてください。みんな血眼で馳せ参じますよね。あと多分宮本武蔵よりはるかに教えるの上手いです笑

講座の内容に戻りますと、線の応用として「卍」を壁にテープで書いて、それを見る(と同時に多分「観る」)ことによる身体観の違いもみていきました。

これも不思議だったのですが、今この卍を確かに目で見てる、が線と線によってできた空間を観の目でも観ている、だから身体観が変わる。ということなのか、どうかちょっと自信ないです笑。質問しとけばよかった。。

そして剣術の型を教わって、それをまた卍を見ながら行う、ということもやりました。

型のことで新たに発見だったのは、型をちゃんとやろうとすると、「え、無理じゃない?変じゃない?こんなきついの?」ってことがあるのですが、それを疑問に思って、今の自分が普通だと思うやり方に変えてしまうと、型が意味を為さなくなる。

型はその型ができる身体を導くものでもあるということで、これは声を出すときも、ついつい私たちは、楽にできる方法を探そうとしてしまうのですが、今の自分の身体で無理なくできることをやってるだけではなーんも変わらんのですよね。え、これ無理じゃない?きつくない?あかんくない?っていう所を通らないといつまでもできるようにならない。(ただその結果ほんまにあかんこともあるのでその見極めが重要)

最近mahoneさんのところでガナリを教わってるんですが、これはもうこれまでの自分の身体が、あかん、そっちいったらあかん、そっから崖や!って悲鳴を上げるその道を全速力でダッシュするみたいな練習方法で、今まで本当にいろんな声を出しまくってきたんですが、まだここにこんな道があったのかと愕然としたんですよね。

ちょっと脱線しましたが、身体の持つ可能性、ポテンシャルを自分の意識、無意識がいかに閉ざしてしまっているかということなんだと思います。


シラット

2日目の午後はインドネシアの武術、シラットのクラスでした。

講座はまず観法から。

毎朝の稽古の中で私も色々なやり方で観法をやっているのですが、光岡先生の導観法はいつも本当に芸術そのものでありまして、魔法のように身体が変化していきます。

また、こういう観方もあるのかと、いつもその観方のバリエーションにも驚きます。今回はシラットの講座ということで、その身体観へと導くような観法でした。

例えば、右手の甲から背中を回って左足の甲を観るというときには、身体の中に竜巻が起こったかのように、ダイナミックに回転が起こりまして(実際の動きではなく)、ぶっとびました。

うん。トべるんですよねえ。観法って。クスリに溺れるより、酒に溺れるより、観法した方がいいよ。お金かからないし。

ねえ?怪しいでしょう?怪しいんですよ我々の生きている世界は。

世界は人知が及ばないほど複雑怪奇で、生きることはそれを受け入れることから始まるのじゃ。

はい。

観法に続いて、シラットの礼式と型を教わりました。

一通り教わった後、おもむろに先生がガムランの音源を流し始めたのですが、うんうん雰囲気出るよねとか思ってたら突然モーツァルトに変わったんですね。

なんか操作ミスかなとか思ったのですが、えらいもんでモーツァルトが流れている間みんな型の動きがピタッと止まって動けない笑

私はこのとき型を初めて教わったので、思い出しつつやってるとそうなのかと思いきや、みんなそうなんですよね。スルスルと流れるように型をやっていた人がモーツァルトによってピタッと動きを止められる。

文化と身体観と武術、これらは分かちがたく結びついているんですね。だからこそ混ぜるな危険。

しかしやってるのが日本人である私たちだからということなのか、能の囃子だと意外としっくりきちゃってる。

これは西洋音楽を日本人である私たちがやるときにも言えることなのではないかと思います。西洋音楽をやるのだから、西洋の身体観でそれをやるのは一つの方法だしとてもオーセンティックだと思うけど、やってるのは私たち日本人なのだから、どうやったってそのバックグラウンドが投影されてしまう。それを否定しないやり方で私は西洋音楽と向き合いたいと思ってます。


韓氏意拳

この日の夜のコマは韓氏意拳でした。韓氏意拳自体かなり武術界ではユニーク?な方な武術だと思いますが、その中でも光岡教室の内容は尖ってます。

今回は最初に観法、そして三元分立のお話、そしてシュワイジャオの型、でした。

(韓氏意拳やってねえ・・・)

そう。站樁も形体訓練もやらなかったんですが、私が参加した韓氏意拳講座で最後に站樁をやったのは多分2年前くらい・・・?

調べてみたら2020年の10月が最後でした笑

今回特に私にとって衝撃的だったのは、三元分立について。

気と、感覚と、動きとがそれぞれ別々にあって、混同しないように、くらいの理解だったのですが、その奥にとんでもない世界が広がっていました。

「外」としての行動・行為、「内の外」としての感覚、「内の内」としての気の世界がそれぞれ分かれてあるというのが三元分立で、更にこの「外」「内の外」「内の内」の真逆に「内」「外の内」「外の外」があって全体では6つの世界があると。

これを詳説するのはちょっとはばかられますし、容易にはわからないことなので省きますが、テンセグリティの梶川泰司さんと光岡先生が、一見真逆のことをしているように見えながら、なぜ響き合っているのかということがバチイっと理解できました。

まさに真逆だからこそ交わっている。

「内の内」を極める光岡英稔と「外の外」を極める梶川泰司。

声や音楽の世界で、前者の立場を担いたいなと思いました。後者はきっと岩崎ひろきさんが担うのだと思います。


お知らせ

Salicus Kammerchor第7回定期演奏会
ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2
二人の天才
​〜モンテヴェルディ→シュッツ〜

【日時・会場】

5月20日(金)19時開演
日本福音ルーテル東京教会
チケット予約:https://tiget.net/events/160766

5月22日(日)14時開演
台東区生涯学習センター ミレニアムホール
チケット予約:https://tiget.net/events/160767