サレガマパダミサIII終演

先日、カニササレアヤコさんとの企画の第3弾が終演いたしました。

ご来場いただきました皆様、誠にありがとうございました。

タンプーラと笙とグレゴリオ聖歌を歌うという企画ですが、前回からインド音楽のアーラープもやっています。

こちらのプロデュースはバーンスリー奏者の寺原太郎さんにお願いしております。

普通グレゴリオ聖歌というものはアカペラで歌われますが、タンプーラと一緒にやろうと思うと、キーを固定するということになります。

つまり、レ旋法はレで終わり、ミ旋法はミで終わりまして、これを終わる音ということでfinalisといいますが、このfinalisの高さを固定するということです。

今回の場合は笙と私の歌のキーに合わせて、タンプーラをa’=430HzのDでチューニングしていました。

このfinalisを固定するというやり方は、旋法それぞれの違いがわかりやすいということがありまして、ワークショップやなんかでもそのようにしています。

これはまたインド音楽のやりかたでもありまして、歌だったら歌い手のキーというのが決まっていて、そのキーでタンプーラをチューニングし、そのキーをサレガマパダニサの「サ」の音として様々なラーガを歌うんですね。

西洋でも基準ピッチという概念が生まれるまでは大概似たような有り様だったと考えられます。それぞれやりやすい高さで歌やあええ。複数人で歌うならだいたいみんなが歌いやすい高さでやりましょうということですね。

サレガマの話が少し出たので、演奏会タイトルについてですが、お察しの通りサレガマパダニサの最後のところをミサにもじっております。なのでこの企画ではミサ以外はやりません。

このタイトルはカニさんと最初に打ち合わせした帰り道にLINEでカニさんから候補が山程送られてきまして、いやさすがというか、この人天才やなと思いました。他の候補もめっちゃ面白かった。

少し脱線しましたが、つまりミサの中で、同じキーで様々な旋法を歌いますので、その度にムードとモードを切り替える必要があるわけです。

記譜通り、レ旋法はDをfinalisに、ミ旋法はEをfinalisにということであれば、音階が固定されていますので、同じ音階の中で軸足をずらしていく感じになるのですが、finalisの音高を固定すると、finalisの周りに広がる音世界がガラッと変わりますので、聞いてる方としてはわかりやすいのですが、演奏する方としては世界の切り替えが必要になってくるんですね。

そういうわけで前回からアーラープをやっているというわけです。

アーラープというのはインド音楽の最初の部分で、タブラ等打楽器が入っていない、周期的なリズムの存在しない部分のことです。

https://youtu.be/g2OsGaSyYOM?si=2UaQnnptNIsYjOax

こちらでは30分くらいやっていますが、パカワージの出番は最後10分くらいでなんか可哀想な気もしますが、そんなもんらしいです。

それでこのアーラープというのが、そのラーガを立ち上げる呪文的な意味合いもあって、そんなわけで、今回の場合旋法が切り替わるタイミングで、次の旋法へスムーズに転換していくようなアーラープを考えていただきました。

本来その他のセクション同様アーラープも完全に即興なのですが、私はまだそこまでインド音楽に習熟しておりませんので、太郎さんによりfixされたものを歌わせていただきました。

そして旋法が切り替わるところすべてというわけではなく、その一部でアーラープを、他の部分では笙の即興をいれてもらって、流れがあって且つ旋法の切り替えをスムーズにということを試みています。


グレゴリオ聖歌の部分では、笙は交互唱したり、ハルモニウム(歌の伴奏によく用いられるインドの楽器)のように歌と同じ旋律を演奏したり、シュルティボックス(タンプーラの代わりに用いられることのあるインドの楽器)のようにドローンをやったり、あるいは笙のように(!)和音を演奏したりというさまざまなやり方で演奏してもらいました。

私の方は普通に、超普通にグレゴリオ聖歌を歌っております。

そしてもう一つのやり方として、雅楽の伝統曲である「調子」を普通に吹いてもらって、本当に単純にそれにグレゴリオ聖歌を重ねるというやり方もやっています。

↑こちらがそのパターンです。

なんの違和感もないんですよね。まるで古い友人に久々に会ったかのような馴染みっぷり。

これお互いにただそれぞれの伝統曲を演奏してるだけなんですけどね。

「音取」といったほうが聞き馴染みがあるような気がしますが、「調子」は音取の規模が大きい版?あるいは調子の一部が音取になった?ようです。(詳しくなくてすみません今度聞いときます)

アーラープと役割がよく似てるというかもうほとんど同じというか、そしてもはや私はグレゴリオ聖歌はアーラープにラテン語がついたものくらいに感がてますから、このマリアージュも納得の出来栄えという感じがします。

あと、今回初の試みとしては、Sanctusを笙のソロで、4度並行のオルガヌム風に演奏してもらいました。

そうそう、笙って竹製の人力オルガンですから、教会音楽に合うのは当然ですよね。

オルガヌムとオルガンは語源が多分同じですからまあなんちゅうか、はい、全部つながってるよねええという話です。


そして普通に私が歌っているグレゴリオ聖歌は、世界で私しかやってないやり方で歌っています。

単にインド音楽の楽器を使って、インド音楽と交互にグレゴリオ聖歌を歌っているというよりも、もっとダイレクトに、インド音楽からグレゴリオ聖歌の歌唱法のインスピレーションを得ています。

グレゴリオ聖歌の歌いまわしを記載した「古ネウマ」というものがあるのですが、その中にある「装飾ネウマ」これは何らかの装飾的な歌い方をしていたらしいということはわかっているのですが、具体的にどういう装飾だったのかはっきりとはわかっていません。

最初はこの「装飾ネウマ」のヒントを得ようとしてインド音楽を学び始めまして、私がやっている装飾ネウマの歌い方は、例えばクィリスマやオリスクスはムルキーに、サリクスはミーンド、ストローファはアンドーランにといった具合にインド音楽にヒントを得た歌い方になっております。

きっとこうだったに違いないと思ってやっておりますが、誰も「そうではなかった」とは言えない。これが古楽のロマンですよねえ。

それでインド音楽を学んで、その凄まじい旋律に対する解像度を持ってグレゴリオ聖歌に取り組んでみると、装飾ネウマではないところ(単純ネウマや複合ネウマといいます)も、それまでとは全然違って観えてくるんですね。

ここはこういうミーンドなんじゃないか、ここは全部流れないネウマで書いてあるけどこっちよりこっちは流れるんじゃないか、速いとか遅いとか書いてあるけどそれってこのくらいの速さ、遅さなんじゃないか、とかですね。旋律が即興されたその瞬間に持っていたであろう有機性みたいなものが観えてくる気がしてですね、そういった意味で私のグレゴリオ聖歌の歌い方は、もはや装飾にとどまらず、全体的にインド音楽に激烈に影響を受けています。

そんな風にグレゴリオ聖歌を歌っている人は世界に私だけで、他にいたら紹介してほしいです。いるならそういう人と一緒に演奏したい。

はい。このような営みをですね、「失伝した西洋の歌の再創造」という言い方でやっておるわけですが、これをゆくゆくはその後の西洋の歌、ルネサンスポリフォニーやバロック音楽でも活かしていきたいのです。

それでその第一歩として6月のサリクスの公演はグレゴリオ聖歌だけの演奏会をやります。

毎日こんなことばっかりやってる私でも難しいこのグレゴリオ聖歌の歌唱法、大勢でやるとどうなっちゃうのか?!というのがこの演奏会の聴きどころです。

詳細はこちら→https://www.salicuskammerchor.com/concert


はい。と、いうような記事を演奏会前に出せばよかったなあとも思うのですが、後の祭り。全く思いつきませんでした。

ということで、演奏会には来れなかったけど、興味を持ってくださったそこのあなた!

ご安心ください。前回と前前回の演奏会音源を販売しております。動画もついてます。

https://genkisakurai.base.shop/categories/6544442

今回のも販売する予定ではありますが、編集いつできるかわからないので、ぜひこちら↑ご利用いただければと思います。

寺原さんも今回客席にお越しくださいまして、大変ありがたい感想をいただきました。

(ここからはじまるツリーがほんとありがたーいのでぜひリンクから飛んでいただいて、いいね!&リツイしてね)

また、ピアニストの榎本さんもお越しくださいまして、凄い長文の記事を書いてくださいました。

誠にありがとうございます。

https://www.virtuoso3104.com/post/srgmpdms3


以下お知らせでございます。

今週末から古楽院の2025年度講座が始まります。

ルネサンス音楽基礎ということで名前を変えまして、私がルネサンスポリフォニーをやるときに教えている基礎を全部まるっとパッケージでお伝えします。できるかどうかはさておき全部お伝えはします。

こういう講座はここだけです。

詳細↓


J. S. バッハの教会カンタータ全集vol1リリース!

サリクスのJ. S. バッハの教会カンタータ全集vol.1、お待たせしておりましたがついに販売開始となりました。

クラウドファンディングでご支援いただいた方にはすでに発送しております(サインが必要な方だけもう少々お待ちください。今都内を駆けずり回って集めているところです)。

クラファン間に合わなかったという方、これはもうマストで買ってください。マジで。これが売れないとマジで悲しい。壮絶な演奏です。↓

https://salicus.thebase.in/items/105521915

2019年にリリースしたモテットのCDとセットだとお安くなります!↓

https://salicus.thebase.in/items/105522627


ヘクサコルドWS第13回受講者募集!

東京のWSもこれで教本一巡します。産業革命以前の西洋音楽の基礎であるヘクサコルドにじっくり取り組みたい方はこちらにどうぞ。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSesWlDzbuyYFQ44zzTcYQnzdnmDrxID-PFWAcO1-l2P4PwDoQ/viewform


合唱団エレウシス団員募集!

最もプリミティブに、最も地道に実力をつけたい方はこちら。毎週信じられないくらい地道な練習をしています。

見学お申し込み↓

https://docs.google.com/forms/d/1xA76VkG8AOTb9G_SPNFcMKa5WRwoHSsSyXzI5r8wGWw/viewform?edit_requested=true


サリクス研修所第3期研修生募集!

サリクスのメンバーになりたい方はこちらでございます↓

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeRHwet1wNXMfZy9TQDaQ7HWoNQTEaBDhESDPi55aK79Kv9Fg/viewform

謹賀新年

謹賀新年

皆様あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末お騒がせいたしましたSalicus Kammerchorの定期会員募集は最終的に80名の方にお申し込みいただきました。

目標の100名様には届きませんでしたが、会員とは別にご寄付を頂いたこともあり、2024年もSalicus Kammerchorは活動できそうです。

皆様本当にいつも応援ありがとうございます。

年末年始私は広島に帰り、蟹を吹いたり、

https://twitter.com/g_sakurai1031/status/1741769978553176329/
蟹笛をラッキーくんに聴かせたり、
ラッキーくんに重がられたりしました。
あ、あと熊手の柄と生竹を切って笛を作りました。
この絨毯去年カニササレさんとの演奏会で使うためにザクロで買ったのですが、2000円でした。激安。皆様日暮里のザクロ絶対行ったほうがいいですよ。価格が崩壊してます。

あらゆるものはこの上に置くと素敵に見えるな。蟹笛でさえも。


マタイ受難曲ヘクサコルド付き楽譜

もちろん私もただ遊んでいたわけではなく、やろうやろうと思っていて滞っていたことを少し進めたりなんかしておりました。

一つはJ. S. バッハのマタイ受難曲の各パートにヘクサコルドを振っていくという気が遠くなりそうなほど壮大なプロジェクトです。

これは私が関わらせていただいているJ. S. バッハカンタータアンサンブルという団体でマタイをやるからというのが主な動機なのですが、何しろ最近ヘクサコルドを抜きにして合唱指導をするというのが甚だ困難になっておりまして、それで少しでも皆様とヘクサコルドを共有したいという思いで始めました。

今第1曲の通奏低音と、歌バスと、ソプラノだけアップしております。

https://genkisakurai.base.shop/categories/5649882


教本「旋法とヘクサコルド」PDF版

上記のウェブショップで教本のデータ販売も開始しました。

お値段据え置きですみません。紙の方の在庫も早くさばきたいので、同じ値段にしてあります。(できれば紙の方を買っていただきたい・・・。)

https://genkisakurai.base.shop/items/81617618


BUGAKUスピンオフ第5弾

光岡英稔先生による「声と身体」についての講座の第5弾、一般受付を開始しました。

光岡武学は、私の古楽に対する考え方のベースにもなっています。その地その時のその人達の身体に近づくというのが古楽の入り口である、ということでしょうか、簡単に言うと。現代人の身体のままで古楽はできないという考えです。

ヘクサコルドの講座の中にも随所にこの考えを取り入れた稽古方法を紹介しています。

毎回強烈な気づきへのきっかけが提示されます。

もちろんそれをもとに稽古するのは自分なので、この講習会に出ただけで何かが身についたとは思わないほうがいいのですが、稽古したくなります。いろいろ試してみたくなる。

自分も指導にあたる身として、そうありたいと思います。指導を受けた人が自らすすんで稽古に向かうような、そんな指導がしたいものです。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeKlUKhJthwTRA8uKa6YaPmi00OLYuHbB62T2o0steqfEMMYQ/viewform

今回お申し込みはこちらのフォームからお願い致します↑

定員まで残り少なくなっておりますので、お申し込みはお早めに。


旋法のchalan

チャランというのはインド音楽の用語で、あるラーガにおける典型的な音の運び方を短い旋律句にまとめたものです。これを覚えてひたすら繰り返すことによって、そのラーガのムードを掴み、音の通り道を整えていきます。インド音楽的にはそのラーガで即興ができなければならないので、そのための「型」といえるものだと思います。

これを、産業革命以前の西洋音楽における各「旋法」で作りたい。

「覚える」「即興する」というのが楽譜に慣れた我々にとってはなかなか困難になっていると思いますが、階名はもともとこの二つのことも目的としてデザインされているので、それでできた音楽を本当に理解するためにはこれが不可欠だと思うんですよね。

なので、ひとつスモールステップとして、誰しも旋法のchalanくらいは即興で作れる、というところをまず目指したい。

ということでこの年末年始で少し手をつけ始めました。

i tabla proのアプリをお持ちの方は、タンプーラはPaでタブラはbpm=52くらいでTeentaalでやってみてください。最初から覚えるつもりで。1拍に音1つ、できたら2倍、できたら4倍、できたら8倍、までやろうと思うと完全に口が覚えないとできません。

それでそこまでやると相当いいかげんになってると思うので今度は4拍に音1つくらいにしてひとつひとつの音の質を上げるようにしてみてください。

この旋律ひとつ覚えていれば、いつでもどこでも稽古ができます。トイレでも、大江戸線(日本で一番うるさい地下鉄なので多分可能)でも、自転車乗りながら。


旋法とヘクサコルドWS第4回

日程調整が終了しまして決まりました。

毎回この調整作業が本当に大変で、毎回人数は減っていってるのに講座の回数は全く減らないというまずい事態になっています。

特にアドヴァンスの方は14人しかいないのに5回にわけて行うことになっているので、各回2−3人という状況です。

はっきり言って赤字です。まあ赤字でも構わないといえば構わないのですけど、辛いは辛いです。

文化を根付かせていくという意味で、指導的立場にある人達の役割は非常に大きいので、アドヴァンスの方の受講者を増やす努力をもっとしていかないとと考えています。

私一人では限界があるので、指導者を育てていきたい。

またベーシックコースの方にお願いしているのは、ヘクサコルドのセンスを持ってプロの演奏を聴いてほしいということで、これも文化を根付かせるという意味では必須です。いい加減な演奏は淘汰されなければならない。プロはそのつもりで稽古しないといけない。

もちろん人数が少ないからといって講座をやめることはないです。

少なくともヘクサコルドが古楽界で基礎の基礎として、私が教えるまでもないという状況になるまでは。

しかしまあ私が死ぬまではそういうことにはならないでしょうから、多分一生ヘクサコルドを教え続けると思います。

皆様ぜひこの活動をご支援ください。

第4回の日程は下記です。

【ベーシックコース】
対象:一般の方対象(楽譜が読める必要はありません)
①1/29(月)18:30-21:30
②2/8(木)18:30-21:30
③2/13(火)18:30-21:30
④2/17(土)10-13時
⑤2/17(土)14-17時
⑥2/17(土)18:30-21:30

【アドヴァンスコース】
対象:音楽家、音大卒、音大生
⑦1/22(月)10-13時
⑧1/23(火)18-21時
⑨2/2(金)14時-17時
⑩2/4(日)18:30-21:30
⑪2/6(火)14時-17時

お申し込みはこちらから↓

https://forms.gle/qjdhpXnxzXu1vFgx8


「旋法とヘクサコルド」ガチンコ稽古会

京都の講座は上記のようなタイトルになっております笑

世話人をお願いしている有田さんが非常に面白い感じで告知して下っています。

また、有田さんによるヘクサコルドWS体験記が非常に詳細でよくまとめてくださっているので、こちらまだご覧になっていない方はぜひご覧ください↓

京都の方は1日で2コマ、6時間やっておりますので、東京の講座より速く進んでおります。

次回はいよいよムタツィオ(ヘクサコルドの乗り換え)に入りまして、第3旋法と第5旋法に取り組む予定です。

お近くの方はぜひこちらにお申し込みください↓


そういえば初夢でもヘクサコルドの指導をしていました。

そしていつものように時間切れであわあわしてました。

やりたいことは山程はあるけれど、自分の身ひとつで出来ることは限られているので、今やるべきことを焦らずにひとつひとつやっていく、そんな1年になるかなと思います。

急いては事を仕損じる。

どうぞ気長にお付き合いいただければと思います。