Salicus Kammerchorについて

この数年がサリクスにとって正念場になりそうなので、ここでこれまでの歩みとこれからについて整理しておこうかなと思います。

サリクスは2015年に芸大バッハカンタータクラブの仲間を中心に作ったのですが、現メンバーでその頃のメンバーは数人しかいません。

じゃあどういうメンバーなのかというと、本当に色々で、古楽科出身者が数名、人づてやヘッドハントなんかで構成されています。

2024年、カンタータ全曲プロジェクトのためもあって始めたサリクス研修所からは、昨年2人合格して、今年の定期でデビューしました。

サリクスでやっていることは、現状のクラシック界からするとかなり異常なことをやっているので、なかなか普通の歌手を雇ってそれが戦力になることはありません。

むしろ普段からわたしの団体に参加していたり、ワークショップに参加しているアマチュア歌手の方がやろうとしていることを汲んでくれることが多いです。

そんなわけでサリクスの歌メンバーの1/3くらいは兼業音楽家です。

この状態が良いとは思ってません。実力はあるのに音大を出てないがために音楽では食えない社会には問題があると思ってます。

彼らが音楽に集中できれば、日本の音楽界はもっとはるかに豊かになります。(彼らがそれを望むかどうかは別として)

逆に、音大を出ただけで実力も、音楽に対するモチベーションは大してないのに音楽で食えてるプロが日本の音楽界を貧しくしています。 

そしてそれに音楽ファンは加担しています。下手な演奏者の下手さがわからないので、肩書きをみて、よおわからんけどきっと上手いんやろうと判断するしかないのです。

今の音大は、少なくとも歌に関して言えば、そこにいればいるだけ下手になります。歌が下手になるだけならまだしも、声も出なくなります。

ほんと苦しんでる音大生みんなうちに来てほしい。

研修所でがんばってる研修生も、まず声ががんじがらめになってて、そこをクリアーすることに非常に苦労しています。

クラシックを学びさえしなければ、経験することのなかった苦しみです。他に学ばなければならないことは山ほどあるのに、まずそこに大きな壁があります。

全く。何を呪えばいいんでしょうか。音楽取調係ですか。ヨーハン・クリスティアン・バッハですか。

クラシックと古楽についてはこちら

その上現代日本で生きているとそれだけで声は出なくなります。専門的な教育を受けているから声が出なくなるということは大いにありますが、そうでなくても普通の人が声が出なくなる社会であるというこことは間違いないです。

これもとりあえずイギリス人呪っとけばいいですか。

そういう訳で特に現代日本において、特に西洋クラシックの界隈で、歌を上達させるのは本当に至難の業です。

とまあわたしは育成環境については日本の西洋クラシック業界しか知らないので、観測範囲内のことをお話ししていますが、世界的にみても、西洋クラシックの「演奏」は悲惨です。

西洋クラシックのジャンルで歌の上手い歌手が1人でもいるでしょうか。いるなら教えてください。

ニーチェは神を甦らせるつもりはさらさらなかったようですが、わたしは西洋クラシック音楽を甦らせようとしています。

「失伝した西洋の歌の再創造」と言っているのはその先駆けです。


「失伝した西洋の歌の再創造」の方法

具体的には失伝した古ネウマ(10世紀頃に記されたグレゴリオ聖歌の記譜)の歌いまわしを再創造し、それをその後の西洋音楽の演奏にも活かすということです。

そしてその古ネウマが言わんとするところを知るためには、旋法とヘクサコルドの理解がほとんど必須と言っても過言ではありません。

「ほとんど」と言ったのは、旋法とヘクサコルドという概念は、グレゴリオ聖歌を理解するために生まれた概念なので、それ以前の音楽家はそれなしにグレゴリオ聖歌を理解していたからです。

なので旋法とヘクサコルドの概念が生まれる以前の音楽家と同等の実力をお持ちの方であれば、これらの概念は必要ありません。ただそれは原理的にほとんど不可能と言って差し支えないと思います。生まれてこの方グレゴリオ聖歌以外の音楽(それも1000年以上前のヨーロッパの達人たちの演奏で)を聴いたことがないというような環境で育つというのはあり得ないし、多分現代ではその時点でコンプライアンス的にアウトです。

そして旋法とヘクサコルドという概念が生まれて以降の作品というのは、もはやそれに基づいて音楽が書かれていますので、これらは必須と言って差し支えないと思います。

「古ネウマ」については、これが書かれた時期というのは限られていて、割とすぐに譜線ありの記譜に変化していきます。ここで古ネウマは失伝します。


記譜と音楽の関係性について

ここで押さえておかなければならないのは、「音楽の全てを書き記す記譜法は存在しない」ということです。

音楽は書かれた時点で音楽ではなくなります。それは紙についたインクのシミです。

例えばポップスの歌が記譜されたものを見て、原曲とのズレに戸惑ったことのある人は多いと思います。合唱をやっている人はすぐにピンとくると思いますが、そうでなくてもすでに1970年代には中学の音楽の教科書にポップスは載っていたそうなので、そういうものを通して触れている人はかなり多いと思います。

ポップスを聴いて、自分で楽譜を作ってみるとよくわかりますが、例えばアゴーギク(音価の微調整)をどこまで記譜するか、装飾をどこまで記譜するか、12半音に収まらない音を記譜するか、など、あらかじめ記譜のコンセプトを決める必要があることに気づきます。

また、今我々がよく使っている五線譜は、「音高と音価」を示すことのできる記譜法なので、例えば「音色」に関することというのは記譜することはできません。(言葉で示すことはできます「最高に柔らかく」とか、「喉を締め付けられたような声で」とk)

最も単純な話で、この音は裏声なのか地声なのか、のようなことも、言葉ではかけますが五線譜のシステムでは表せません。そして言葉でも滅多に表しません。これは記譜のコンセプトを知らないとわからないことです。

つまり記譜した人が、音楽の中の様々な要素の中から、「書くことと書かないこと」を決めているのです。

古ネウマには音高と音価が(少なくとも五線譜のようには)書かれません。しかしだからといって、この頃のグレゴリオ聖歌には音高と音価が「無かった」と考える人はいないでしょう。それは無かったのではなく書かれなかっただけです。同様にして五線譜には古ネウマにあるような歌いまわしの指示はありませんが、その歌いまわしは、無かったのではなく書かれなかっただけです。(ところで歌いまわしのない歌はそもそも歌と呼べるのでしょうか)

西洋クラシック音楽の人たちが「音符を並べただけでは音楽にならないよ」と言いながら、音符を並べているのは一体どういう現象なのでしょうか。

その言葉だけが残って、その方法が失われてしまったのだとわたしは考えています。

古ネウマはそれを知るための鍵です。


ヘクサコルドとヘプタコルド

ヘクサコルドについて、これは産業革命を境に音楽の変化に伴って、我々のよく知る(本当に知ってる?)ドレミ階名(ヘプタコルド)にとって変わられました。

しかしヘプタコルドはヘクサコルドから生まれたので、その名残をかなり残しています。何しろ5つもシラブルを共有していますので。

ですから産業革命以後の西洋音楽をやる上でも、ヘクサコルドを知っていることはかなり役に立ちます。今の音楽を聴いてても、肝心なところでラの上のファが結構使われてたりします。

そういった意味でも、わたしのやっている活動は古楽の範疇にはとどまっていません。

わたしは西洋クラシック音楽全体を救おうとしています。誰に頼まれたわけでもなく。

今演奏されてるクラシックのレパートリーにしても、全然こんなもんじゃないと思うんですよね。ヘクサコルドやって、古ネウマやって、その上でヘプタコルドを用いて調性音楽をやれば、もうそれはそれは薔薇色の未来が待っているに違いないわ。


これまでのサリクスの歩み

そんなことを考えながらサリクスはの活動を続けてきてはや11年。

これまで本当にたくさんの演奏機会、教える機会に恵まれました。

活動記録をまとめましたのでささっと眺めてみてください。

2015年5月結成
2015年5月第1回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.1開催
2016年4月第1回ワークショップ開催
2016年4月第2回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.2開催
2016年5月Ensemble Salicus結成ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに参加
2016年10月第2回ワークショップ開催
2016年10月La Musica Collanaとのジョイントコンサート開催
2017年4月第3回ワークショップ開催
2017年4月第3回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.3開催
2017年9月第4回ワークショップ開催
2017年10月Ensemble Salicusレクチャーコンサート開催
2018年4月第5回ワークショップ開催
2018年5月第4回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏シリーズvol.4開催
2018年10月第6回ワークショップ開催
2018年11月Ensemble Salicus第1回演奏会開催
2019年3月メンバーオーディション開催(合格者2名)
2019年4月第7回ワークショップ開催
2019年3月 -5月J. S. バッハのモテット全曲録音CD制作クラウドファンディング
(支援者220人、支援金2,611,800円)
2019年5月第5回定期演奏会 J. S. バッハのモテット全曲演奏会開催
2019年8月J. S. バッハのモテット全曲録音セッション
2019年12月ワークショップ第8回開催
2019年12月Ensemble Salicus第2回演奏会
2020年4月J. S. バッハのモテット全曲録音CD発売
2020年5月リモートEnsemble Salicus1(youtubeライブ配信)
2020年7月リモートEnsemble Salicus2(youtubeライブ配信)
2020年9月リモートEnsemble Salicus3(youtubeライブ配信)
2020年10月ワークショップ第9回
2020年10月プレイバックサリクス1(youtubeライブ配信)
2020年11月J. S. バッハの教会カンタータ演奏会vol.1開催
2021年1月 -10月リモートワークショップ第1回開催
2021年2月プレイバックサリクス2(youtubeライブ配信)
2021年4月リモートEnsemble Salicus4(youtubeライブ配信)
2021年5月第6回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.1開催
2021年8月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサート(web配信)に出演
2021年10月フォンスフローリス主催ジョスカン・デ・プレ没後500年記念演奏会に参加
2021年12月国際基督教大学2021年クリスマス演奏会に出演
2022年3月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサート(web配信)に出演
2022年5月第7回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.2開催
2022年6月 -2023年3月リモートワークショップ第2回開催
2022年11月J. S. バッハの教会カンタータ演奏会vol.2開催
2023年5月第8回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.3開催
2023年10月Ensemble Salicus第3回演奏会開催
2024年3月立教大学キリスト教学研究科主催の公開ワークショップに出演
2024年5月第9回定期演奏会 ハインリヒ・シュッツの音楽vol.4開催
2024年3月 -5月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1クラウドファンディング
(支援者146人、支援金2,273,500円)
2024年7月サリクス研修所第1期生オーディション開催(合格者5名)
2024年11月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1演奏会開催
2024年7月国立西洋美術館レクチャーコンサートに出演
2024年11月国立西洋美術館制作の動画に出演
2025年1月サリクス研修所第2期生オーディション開催(合格者5名)
2025年4月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.1CD発売
2025年6月第10回定期演奏会「モノフォニー→ポリフォニー」vol.1開催
2025年7月サリクス研修所第3期生オーディション開催(合格者2名)
2025年7月メンバーオーディション開催(合格者2名)
2025年11月Ensemble Salicus第4回演奏会、ワークショップ開催
2026年1月サリクス研修所第4期生オーディション開催(合格者なし)
2026年3月立教大学キリスト教学研究科主催のレクチャーコンサートに出演
2026年3月 -5月J. S. バッハの教会カンタータ全曲シリーズvol.2クラウドファンディング
(支援者162人、支援金2,459,111円)
2026年5月第11回定期演奏会「モノフォニー→ポリフォニー」vol.2開催

振り返ってみると、我ながらよくこれだけのことをやったよなあと思います。

特に、自主公演はさておき、立教大学や国際基督教大学や国立西洋美術館やフォンス・フローリスからの依頼によって行った演奏については、外からの評価によってやらせていただいたことなので、ありがたいと同時に誇らしく思います。


ワークショップ

そしてこの活動の中で結構重要なのは、ワークショップをいっぱいやってるということです。

なにしろ私たちがやろうとしていることは文化の再創造なので、自分たちが演奏をして済む話ではないのです。演奏を評価できる人が必要なのです。

2024年に「旋法とヘクサコルド」の教本を書いて、それに基づいたワークショップを始めたので、サリクスでのワークショップは減っていますが、わたし自身がワークショップで教える回数は飛躍的に増えています。

これまで延べ1000人以上は教えてます。

皆様にぜひお願いしたいのは、自分の歌が上達するのは当然として、これらのワークショップを通して学んだ音楽を聴く耳を持って、世の中の音楽を聴いてほしいということです。

まず皆様の音楽を聴く耳が変わるということが第一だと考えています。これは自分の歌の上達にも必要なことです。

とにかく今の西洋クラシック音楽界には目利きがいない。

皆様には目利きになっていただいたいのです。


サリクスが上手くなるために

旋法とヘクサコルドワークショップは、実は本ができる前からゲラを使って、サリクスメンバー対象に行なっていました。

そこで得られたフィードバックがこの教本には活かされています。

そして今も、メンバー対象のワークショップは続いています。

メンバーワークショップの他にも、インド音楽限定公開レッスンやグレゴリオ聖歌合宿を企画したり(これも本来サリクスが上手くなるために企画したものです)、わたしのレッスンを半額にしたり、one dayレッスンを企画したりととにかくなかばボランティアで、サリクスが上手くなるためなら何でもやってます。

(特に今手応えを感じているのはone dayレッスンで、1日で10時間レッスンしますので、それはそれは一撃で超上手になります)

しかしそれでも、こんなほぼ無料みたいな企画でも参加してくれないメンバーもいるので、もはやギャラを払ってレッスンさせていただこうかなとさえ思ってます。

これはしかし資本主義社会においてはかなりの禁じ手。自分が死ぬかもしれないので最後の手段だとは思ってます。が、そこまで考えています。自分が生きることよりもサリクスが上手くなることのほうが自分にとっては優先順位が高いからです。

ほんとにできることは全部やってるつもりなのですが、もっとできることがあればぜひ教えてください。


サリクスの今後

このボランティアのようなサリクス上達計画を、持続していくことがサリクスの今後の目標のひとつです。

正直言って結構きついので、物理的に不可能になっちゃうかもしれません。これはもうまさしく資本主義との戦いです。戦って勝つ見込みがあるのかい?負けると思って勝負する奴なんかいねえんだよ。

というのはわたしが勝手にやることなので、「知らんがな」と捨て置いてくださってまったく結構なのですが、皆様にお願いしたいのは、「演奏会来てー」「ワークショップ来てー」「エレウシス入ってー」「斉唱団入ってー」「覚悟ある人は研修所オーディション受けてー」でございます!!

サリクスは今後、年に1回の定期演奏会、2年に1回のカンタータ全曲、2年に1回のEnsemble Salicusの演奏会を軸に活動してまいりますが、来年のマタイ受難曲初演300周年演奏会を皮切りに、大曲にもチャレンジしていこうと思っております。

しかし何しろ大曲を演奏するにはコストがどぎつい!!

演奏者は2-3倍必要だしその演奏者が乗る舞台面を持ったホールはたっかい!!きっつい!

コスト的には普段の定期演奏会の3倍はかかります。なので必然的に客席数も3倍くらいあるところでやらなければなりません。

皆様の応援あってのサリクスでございます。吹けば飛ぶような私たちの活動の継続のために、どうぞ今後とも応援よろしくお願いいたします。

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