来週月曜日本番のEnsemble XENOSは、フランス在住のソプラノ歌手、高橋美千子さんにお誘いいただいて結成したアンサンブルです。
昨年の年明けにカペラの演奏会にお越しいただいた時に、何かやりたいですねえというお話をいただき、その秋頃だったか某ワークショップで再開し、本決まりになりました。
そこからメンバーを集めて、今年10月ころ演奏会できたらいいねえみたいな話をしていたらメンバーの予定が合わなすぎて、結局7月に演奏会をやることに。
準備期間が短く、ギリギリまでどうなることかと思いましたがなんとか演奏会にこぎつけそうです。
クセノスというのは私の好きな言葉の一つで、ギリシャ語で「異邦人」という意味です。
これは西洋から見れば外国人である私たちのことでもあり、社会から見ればカタギの道を外れた私たちのことでもあり、ひとりで生まれ、生き、死んでいく私たちのことでもあります。
疎外感や孤独感、私たちにとって大きなテーマだと思いますが、そこから生まれるのが哲学であり芸術なのだと思います。
そして今回の演奏テーマは”Vanitas”、ラテン語で「空」という意味です。そらじゃないです。色即是空の「くう」です。
これって東洋の考え方かと思っちゃいますけどそうではないんですね。
旧約聖書の「伝道の書」第1章第2節には
Vanitas vanitatum omnia vanitas. 「空の空。すべては空」
とあります。
この世のよしなしごとは儚いですよ、煙を追うようなものですよって話です。
そしてこのVanitasをテーマとした芸術作品が16-17世紀には沢山作られました。
まさにこの時代のこの空気感、「空」の空気感を体現しているのがジェズアルドを筆頭としたイタリアの作曲家たちのマドリガーレです。
もう死ぬ死ぬ死ぬ死ぬゆうとります。
この演奏会、moro「死ぬ」morte「死」という単語が50回くらい出てくると思います。
生きることが「生」とは限らない 死ぬことが「死」とは限らない
そこまで言いますか?ってほど、死が身近で、リアルです。
不倫した妻を情夫ともども殺害したジェズアルドにとってはまさに「愛と死」は妄想でなく、現実のものだったんです。
この殺人事件は当時の貴族の慣例に習ったものであったそうですが、現代の我々にどれほどこの感覚がリアルに感じられるでしょうか。
でも、誰の中にもありますよね。こういう要素。 だから共感できるんですよね。
人間の綺麗事じゃないところを表現したい。 人間にはいろんな側面があるんだってこと、それをひっくるめて人間なんだということを言いたい。 私、そういう思いはいつもあって、だからこそいろんな音楽が好きで、いろいろ聞くし、いろいろやるんです。
ある一面だけ捉えて、ほら、これが人間でしょ?って言われても、まあ、そういう面もあるよねって、そのくらいに思っちゃう。
こういう面もあるけど、けどこういう面もあるよね、それも人間だよね、それが人間だよねって、そう言ってる音楽が私は好きです。
ジェズアルドってそうなんです。マレンツィオってそうなんです。ルッツァスキってそうなんです。(個人の見解です。体感には個人差があります)
でもそういう音楽だと自分が思っても、アンサンブルなので、自分がやりたいと思ったことがいつもできるわけではありません。それができない環境がほとんどです。
自分のテクニックが追いついていないということももちろんあるけれど、それ以上に、リスクを犯してまでそういうことに挑戦しようと思わせてくれる場所が、なかなかないんですね。
今回はリハから思いっきりぶつかっていけるメンバーとアンサンブルを組むことができました。
どーんとぶつかって、それを受け止めてくれる度量のあるメンバーです。
と同時に、本番何が起こるかわからない、スリリングで危険なメンバーとも言えると思います。笑
望むところですよね。
小林道夫先生の言葉でベスト5に入るお気に入りの言葉があります。
「崩壊寸前で楽しみましょう」
なんとか崩壊しませんように・・・・汗
Ensemble XENOS 第1回演奏会 Vanitas《空》 〜イタリアルネサンスの不協和的情感〜
日時:2019年7月8日(月)19:00開演(18:30開場) 会場:大森福興教会 チケット料金: 一般4,000円(当日4,500円) 学生2,500円(当日3,000円)
出演: 高橋美千子/佐藤裕希恵/富本泰成/櫻井元希/青木海斗
曲目: カルロ・ジェズアルド Carlo Gesualdo(1566?-1613) ●”S’io non miro, non moro”「もし見ないでいいなら、私は死なないでしょう」 ●”Mille volte il di moro”「日に千回も私は死んでいるのに」 ●”Moro, lasso al mio duolo”「ああ、苦しみの中で息絶えよう」 ●”Deh come invan sospiro”「ああ、なんて虚しいため息」 ●”Tribulationem et dolorem”「恐怖と悲しみのどん底に突き落とされた」
ルカ・マレンツィオ Luca Marenzio (1553/54-1599) ●”Care lagrime mie”「私の愛しい涙」 ●”Dolorosi martir”「悶えるほどの苦しみ 抉られるほどの苦難」 ●”Basciami mille volte”「薔薇のように柔らかいあなたの唇で」 ●”E questo il legno”「これが聖なる血のついた木なのか? 」
クラウディオ・モンテヴェルディ Claudio Monteverdi(1567-1643) ●”Piagne e sospira”「その女は泣き ため息をつく」 ●”Si ch’io vorrei morire”「ああ 死んでしまいたい」
ポンポニオ・ネンナ Pomponio Nenna(ca.1550/55-1613) ●”Sospir baci e parole”「ため息と口づけと言葉」
ベネデット・パッラヴィチーノ Benedetto Pallavicino(1551-1601) ●”O dolorosa sorte”「ああ 苦悩の定め」
他
チケットお申込み:tiget.net/events/51150