改めてリモート合唱を考える

改めてリモート合唱を考える

4月から始めたリモートアンサンブル、リモート合唱について、少し振り返る時期が来たような気がしています。

アマチュア合唱団の練習手段として、アマ・プロ合唱団の作品発表の機会として、様々な形で関わり、また他の方の話も聞き、作品にも触れてきました。

いずれにしても、最近思うのは、リモート合唱はリアル合唱の代替、廉価版、バッタモン、っていうのは違うんじゃないかなということ。

リモート合唱にはリモート合唱のロマンがあって、それはリアル合唱にはない。

違う種類の感動がある。

なんか、焦がれというか、そういう種類の。

リモート合唱で得るものが沢山あって、リアルの合唱にそれを活かそうっていうのも、もちろんあるけど、それって現代曲歌えるようになるためにルネサンスポリフォニーを利用するようなもんで、あるいはルネポリ歌うためにグレゴリオ聖歌を勉強するようなもんで。

それそのものの価値はまた別のところにある。

リモート合唱をリアル合唱のためのつなぎ、練習台、と考えるのはどうももったいないような気がする。

リモート合唱やった時のなんとも言えない何かを、気のせいだと思って、なかったことにする。ワクチンや治療薬が流通するようになったらみんなそうするのだろうか。

それとも、このなんとも言えない何かは、リアル合唱の中にもあったのだろうか。

5月末だか6月頭だかに、2ヶ月ぶりに電車に乗った時、電車って、こんなにワクワクする乗り物だったのか!って驚きました。

うわ、揺れる、動く、走る、はやーいって感動しました。

でもそれって、もともと電車に乗るっていうアクティビティの中に含まれていたものですよね。

そういう類のものなのだろうか、リモート合唱にある、なんとも言えない何かは、リアル合唱にもともとあったけれど、気がつけなくなっていたものなのだろうか。


また私たちが主にやっている音楽がいわゆる古楽と呼ばれる音楽ジャンルであるということもなかなか面白い。

“Remote” Ensemble Salicusでやってることが古楽なのか否か。

まずそれは古楽をどう定義しているかによります。

私としては「古楽」って1750年以前に作曲された音楽ってそのぐらいのことでいいのではないかと思ってます。

「古楽的」というとまた話が違ってきて、これは非常〜に曖昧かつキナ臭い言葉だから基本的には使わないし、使うときは「いわゆる古楽的」という使い方をしてます。

それはつまり作曲当時の演奏習慣を知ること(再現することではない)であったり、あたれる限り作曲者に近い資料にあたったりすることであったりするわけですが、それって別に1750年以前の音楽に限ったことではない。だからいわゆる古楽演奏家が古典派やロマン派の音楽を「古楽的アプローチ」と称して演奏するのが全然ありなの。

だけどそれって普通のことじゃない?

どんな音楽やるにしても、作曲者の意図を知ろうとすることは、単に音楽対して誠実であるかどうかという問題で。

まして古楽器で演奏することを「古楽的」だと勘違いしてる人もいるくらいだけど、それはそれで別の言い方がある。

「古楽器使用」

だから”Rmote” Ensemble Salicusにしてもなんにしても、与えられた条件で音楽に対して誠実に演奏しましょう。というのは誠実な音楽家であれば一緒ですよね。どんなジャンルの、どんな時代の、どんな地域の音楽であっても。

怪我の功名ってこともあって、先日関ジャムで宮本浩次さんが言ってたみたいに、不自由な、ネガティブなシチュエーションからすっげえ作品ができたりするんですよね。

それを面白がることができるか、今までと違うことを受け入れられるかどうか。

私は何か小さなもの、小さなことを、見過ごさないようにしたいと思ってます。目に見えないくらい小さくて、一瞬で過ぎ去って忘れてしまうようなこと。

人生を刷新するような出来事というのは、いつだってとても小さなことなのです。


11月には本当に久しぶりにSalicus Kammerchorとしてリアルの演奏会を開催します。

2011年3月、僕はもう二度と関東には戻ってこれないと思ってました。もう二度と、仲間たちと、バッハを演奏することはないだろうと、思ってました。

けどそうはならなかった。5月に再開して、カンタータを演奏したときのことを僕は一生忘れられないと思う。

その時から、今日が最後の日だと思いながら生きるという思いがより強くなったと思います。

毎日、もう二度と会えないかもしれないと思って「いってらっしゃい、いってきます」と言ってます。今も。

今回また別の形で私たちの日常が奪われて、311の時から今まで生きてきた自分が試されてるなと思いました。

あの時、自分はまだ海のようには生きられないと思いました。海容エチカってやつですね。

今の自分はどうだろう。あの時よりはましだろうか。

試される日々はまだ続いていますが、11月のカンタータ公演は一つの試金石になると思っています。

神様からの中間テスト。

あなたはいままでどんなに生きてきましたか?

こんなに生きてきましたよと、言えるような演奏をしようと思います。

https://www.salicuskammerchor.com/concert

合唱発声の一般的傾向と対策5

合唱発声の一般的傾向と対策5

さて、いよいよ最終回です。

何度でも注意喚起しますが、この記事に書かれていることは鵜呑みにしてはいけません。

合唱をやっているひとで、今回取り上げた傾向のうち、どれかが当てはまるという人はかなりの割合いると思います。私の予想では9割以上はいると思います。

ただどれも全く当てはまらない人もいると思います。そういう方にとってはこの記事は全く無意味とまではいいませんが気に留める必要もないでしょう。

どれかが当てはまる9割の方も、どれが当てはまっているか自分で判断できる方はほとんどいないでしょう。

おそらく正しく判断できる方は1割位だと思います。

残りの9割の方にとってはこの記事は薬にも毒にもなりえます。

街の薬局だと思ってください。

自分で自分の症状から病名を診断して自分で薬を買うかんじです。

その診断があたっている可能性は1割。

なんというギャンブル!

というわけでもう一度言います。

本当に自分の声を良くしようと思ったら、

ボイトレに通ってください。


傾向その5「だんご舌」

だんご舌というのは舌が奥の方で固まってしまうことでした。

これの対策は次の狭母音の対策ともかぶるのですが、前舌母音の練習がおすすめです。

顎を開いて両手で頬をおさえて、いわゆるアッチョンブリケのポーズをとります。ムンクの叫びでもいっか。

その状態で「aaaeeeiii」と発音します。

その際顎が狭くならないように。(狭くならないためにアッチョンブリケします)

顎を開いたままだと、iと発音するためには舌をかなり前上にもってこなければなりません。

この訓練は舌をしっかり前に動かすことができるようになるためのものです。

顎を開いた状態でi母音がしっかり発音できるようになったら、「yayayayaya」と速めにi母音とa母音を交代させていきます。アルペジオで練習するのもよいです。

あとは巻き舌ですね。巻き舌の練習は奥舌をフリーにする助けになると思います。傾向その1の対策ともかぶりますが、その効果も狙いながら合わせて使うといいと思います。


傾向その6「狭母音が苦手」

前述のアッチョンブリケでaaeeiiがそのままここでも使えます。

狭母音はiだけでなくuもありますので、ここではそちらの練習方法を紹介します。

傾向編でも引用した画像をもう一度引用します。

http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/vowel.phpより引用

奥舌母音はɑからuにかけて奥舌がだんだん上がっていくのですが、よく言われる「日本語のウより深く」という指導言によってむしろa母音よりも舌が下がってしまうことが多いようです。

そうするとこもった感じの似て非なる母音になってしまうので、u母音を発音するときは、努めて舌を持ち上げるようにするといいと思います。

練習方法ですが、これもアッチョンブリケでアーオーウーで練習できます。

あるいは割り箸を奥歯で噛みながら練習する方法もあります。

ここでポイントなのは、まず日本語のアーオーウーで練習するということです。

上の図を見るとuの横にɯという発音記号が見えると思います。これが日本語の「ウ」です。

中黒点をはさんで隣り合っているのは、右が円唇母音で左が非円唇母音という意味で、舌の調音点は一緒です。

つまり、ラテン語等のu母音と、日本語のウ母音は舌の位置一緒で、違いは唇が丸いかどうかの差なのです。

オ母音も同様です。

まず唇や顎の開きを変えることなくアーオーウーと発音することで、舌の動きを確認します。

この練習によって作った日本語のウ母音から、今度は顎の開きと舌の位置を変えないようにして唇を円めます。これでu母音の出来上がりです。

唇を円めたときに、舌の位置が変わってしまわないように注意しましょう。舌の位置が変わったかどうかは音色を聞けば一発でわかります。


傾向その7「特定の子音が発音できない」

語末、音節末のn,mが発音できない

日本語の「ん」に引っ張られて語末のn,mの発音が揺れちゃうという問題でしたが、逆に日本語の発音を利用しながら練習するのがいいかなと思います。

日本語の「ん」が歯茎鼻音nになるのは「せんだい」とか「ほんとう」などのときです。

例えばnunquamのnが言えないというときは、「せんだい」の代わりに「ぬんだいぬんだいぬんだい」と繰り返してみて、その途中の「ぬん」で止める練習をする。

その後「だい」の代わりにquamを付ければぬnquamという発音ができると思います。

細かいこと言うと日本語の「ぬ」はnuと言うよりnɯですから、これを円唇化するとnunquamになります。

他の練習方法としては、「なにぬねの」のときには歯茎鼻音になってますので、「なーなーなー(naanaanaa)」と続けて発音してみて、子音の分量をちょっとずつ増やしていく「naannaannaannnaannnnaa」ことで歯茎鼻音の発音の方法を覚えるというやり方もあるかと思います。

lが鼻音化する

これは開鼻問題が解決すれば大丈夫だと思うので、傾向その4の対策をやってみてください。ボーちゃんのモノマネですね。

舌の先端を歯茎のあたりにつけて、息を舌の左右から流す感じです。

鼻をつまんでlalalalalaって言ってみて、つまんでないときと音が変わらなければオッケーです。

rは巻けるのにtrは巻けない

どちらかというと、巻き舌のできない方が、traだった巻けるという方が普通かなと思うので、これは英語のイメージを払拭できれば大丈夫なのかなと思います。

あとはひょっとするとだんご舌問題も絡んでるかもしれませんね。舌が奥にいこうとして、英語のrみたいになっちゃうと。

なので傾向その5の対策をやってみるといいかもしれません。


ビブラート問題

さて、ビブラート問題です。

これは一般的傾向というわけではありませんが、様々なシチュエーションで悩まされた方が多いのではないかと思いここで取り上げることとしました。

結論から言って、ビブラートがどうやって生まれているか、どうして意図せず声が揺れてしまうのか、よくわかりません。

なのでまだコレっという対策がないのですが、私が最近試みていて、効果がありそうな方法をご紹介したいと思います。

それは、ビブラートを練習するということです。

ビブラートがかかってしまう人って、ビブラートをかけることができないんです。

つまり自分の意思でという意味で。

かけてるのではなく、かかっちゃう。

なので、ビブラートを意図的にかける練習をすることが、ビブラートを意図的に取るということにつながるのではないかと思っています。

それで、ビブラートがかかってしまうタイプの人って、ゆっくりしたビブラートがかかってしまうのではなく、周期の速いビブラート(いわゆるちりめんビブラート)がかかってしまうようです。

なので、それにカウンターをかけるにはゆっくりとしたビブラートをかける練習をすると。

おそらくですが、ゆっくりとした周期のビブラートをかけながら同時にちりめんビブラートをかけることは相当難しいと思います。

ゆっくりビブラートをかけてしまえばちりめんビブラートは取れる。私はそう信じてる。。。

くらいの段階ですまだ。笑

それで、その練習方法ですが、いろいろやってみましたがこちらがやりやすかったかなあと思います。

再生回数えぐいっすね。ビブラートかけたい人いっぱいいるんだな。

でもビブラート取りたいがたどり着かない動画なんじゃないかな。

そしてもう一つ、似てるんですが、これも私が前からよく練習で使わせてもらってるのですが、「ガマック」です。

ガマックというのはインド古典声楽の装飾法?歌い方?の一つで音を滑らかに動かすテクニックです。

3-4年前に寺原太郎さんのワークショップ受けたときに紹介されてて、やべえこれめっちゃ使えると衝撃を受けて以来、めっちゃ使ってます。

私の指導受けた人にはおなじみの単語だと思います。

こんな動画見つけました。

信じられないくらい美しいですよね。素晴らしいデモンストレーション。

そして再生回数もビブラートの動画と同じくらい。ガマックしたい人もこれだけいるんだなあ。

これの練習は、まずは「ドーレードーレー」という感じで2度間を行き来するのですが、その際死ぬほど滑らかに音を移行します。

等速運動のグリッサンドって感じです。音が上下端に到達したらそこでとどまらないですぐ動き出す。

円を描くようにと言われます。

これを3度、4度、5度と広げていって、速度を速くしたり遅くしたりというのが基本の練習です。

これだけでも相当難しいです。まず自分の声がどのぐらいのスピードで動いているのか、それを把握することがまず難しい。

でこの2度のガマックを速くやるのがいわゆるトリルだと私はいつも言っているのですが、その音程幅を小さくしていくとビブラートになると私は考えています。

音程幅の極めて小さいガマックをやっているような感覚でロングトーンを出していれば、ちりめんビブラートはかかりにくいのではないか。

まだいろいろ試しているところですが、効果が出た方もいらっしゃいます。

あとビブラートに関して、いつもツイッターで死ぬほど有益なボイトレ情報を流してくださっている風地さんからの情報ですが、とある研究によると、オペラ歌手のビブラートの成立要件に、フォルマント同調があるのだそうです。

なので、ビブラートがかかっちゃう人は一回フォルマント同調やめてみるというのも一つの手かもしれません。


まとめ

さて、死ぬほど長くなってしまいましたが、6月1ヶ月かけて50人の合唱歌手の方のレッスンをし、103トラックの声を編集しながら気づいたことをまとめてみました。

声の特徴、癖は百人百色、十把一絡げにまとめられるものではないと思っていましたが、日本の合唱というある程度の時間をかけて培われた価値観の中で育った方は、かなり傾向が似通ってくるのだなあという感想を持ちました。

もっといろんな傾向の人がいるかと思ったが、自分が思ってたより遥かに似た傾向の人が多かった。

合唱指導者は、邪魔にならない声を目指すっていうことが第一の目標になっていないか、常に自分を監視していなければならないと思います。

こういう声は出しちゃダメって無意識に刷り込まれることで、声の可能性を狭めてはいないか。

声を大にして言いたいのは、みんな、自分の価値観の外にある声を出そうぜ。

ってことで、多分そうすることでもっと楽になれるし、もっと歌が楽しくなると思います。

声で遊ぶ、自分の身体を面白がる。

変な声出ちゃった、ヤベ、よりも、なんだこの声もっかい出してみよ♡

くらいのスタンスでいる方が楽しいぜえ。

身体に課している制約をはずそうぜ。

こうでなければならない。これはやっちゃいけない。

まずは自分にかけたブレーキを外してから、アクセルを踏むんだぜ。

というところで、「吸気発声」とか「カルグラ」とか「ガマック」とか紹介してみました。

それでは皆様、全5回にわたって長々とお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました!!


バーチャルクワイヤの動画アップしております!

参加者のみなさまとEnsemble Salicusの熱い演奏をぜひお聴きください!

――・――・――・――・――

櫻井元希へのお仕事・レッスンのご依頼ご相談、チケットのお求め等は以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。

合唱発声の一般的傾向と対策4

さて、いよいよ対策編です。

最初にも書きましたが、こういうのは自己判断を見誤ると逆効果になることもあります。

今の自分の状態をちゃんと見極めるためにはボイトレに行ってください。

ボイトレの仕事って、今の発声状態を把握して、改善するために必要なのは何かを見極めることだと思いますが、この二つは、自分ではかなり難しいです。

それから一つの発声上の問題を解決するための手段は一つではありません。無数にあります。

なにしろ個体差がありますので、どの手段がより効果が高いかは人によります。そういったところの判断も、ボイストレーナーの引き出しの多さと、どのツールがハマっているかの見極めにかかっていると思います。

この記事には代表的なものを書いていますが、これらが効かないこともあります。

その場合、ボイトレに行ってください。笑

この記事の結論はこれです。

ボイトレに行ってください。


これまでの記事はこちら↓

合唱発声の一般的傾向と対策1

合唱発声の一般的傾向と対策2

合唱発声の一般的傾向と対策3


対策編


傾向その1「高音域プリングチェスト&低音域ライトチェスト」

高い方が重くて、低い方がスカスカ、ということなので、この2つにアプローチする対策が考えられるかと思います。

高音域を軽くするためにはいろいろ方法がありますが、代表的なのは無声破裂子音+u母音の組み合わせでしょうか。「ククク」とか「プププ」とか。

低い方の発声を持ち上げないようにするために、下降型の音階を使った方がいいかと思います。

あとは巻き舌できる方はウの口で巻き舌で練習するのも結構軽くなりますね。他のSOVTE系でもいいと思います。

低音スカスカにアプローチする方法も色々ありますが、有声破裂子音+aとかe母音はよく使います。「バッバッバッ」とか「ゲッゲッゲッ」とか。

こちらは上行音形がいいと思います。


傾向その2「声帯がstiffの状態」

ようは息漏れをどうするかということなのですが、stiffで離れてしまっている声帯をくっつけるためにストレスハミング(ドアがきしむような音色のハミング)とかアニメ声(喉頭を上げた状態)で「ネイネイ」とかはよくやります。

またそれではstiffの根本的解決とは言えないと思うので、おすすめなのはエッジヴォイス、あるいはヴォーカルフライ、あるいはシュナル、あるいはスラックとか言われている呪怨くん?(呪怨見たことない)の声を練習することです。

u母音で音程をどんどん下げていくと地声が出なくなったあたりからブツブツとした感じの音になっていくと思います。それがエッジとかフライとかシュナルとかスラックとか言われる音です。

ほんと名前が多すぎてイライラしますよね笑

エッジってのは声帯の縁で出してるような発声体感から来た名前、フライはなんとポテトフライのフライです。油で揚げてるような音がするという音の印象から来た名前だそうです。以下略


傾向その3「裏声のない男性、地声のない女性」

傾向その1の練習も有用だと思いますが、ここでは別の方法を紹介したいと思います。

「吸気発声」です。

これ具体的にどういう理由で何の役に立つのかよくわかっていないのですが、裏声のない男性が裏声が出たり、地声のない女性が地声が出たり、他にも息漏れが改善したり、声帯の動きがなめらかになったり、ホイッスルに入りやすくなったり、人によって様々な効果が出ています。

傾向その1、その2に対するカウンターとしてもかなり有用だと思います。

最初は「ドソド」みたいな音形で、「呼気ー吸気ー呼気」でu母音で発声し、問題となっている音域で練習します。

それができたら今度は同じ音で「呼気ー吸気ー呼気」で別の母音も練習し、音域を広げていく、というのがいいと思います。

これは曲の練習にも結構使えて、ひとフレーズまるまる吸気発声で歌ってみるというのもおすすめです。

もう一つ。特に地声のない女性におすすめなのは、「カルグラ」です。

これは仮声帯を声帯の1/2の周波数で声帯と同時に鳴らすという中央アジアで盛んな喉歌のテクニックの一つです。

これの最初の方の発声法ですが、上手い人のカルグラってただの低い声にしか聞こえないのが厄介ですよね笑

声帯はメインで聞こえるひくーい音のオクターブ上で鳴っています。

実際の練習法としては、①まず咳払いします。

②咳払いのノイジーな音をキープしたまま音を少し伸ばします。

③音程をつけて、④口をあけます。

これ結果的にカルグラにならなくても、やろうとするだけでも効果があります。

地声のない女声って地声という発声体感がないので、地声のつもりで裏声になっちゃうんですよね。

カルグラにチャレンジする過程で声門を閉鎖したり、声帯を分厚く接触させる感覚が身につくことがあるようです。

男性も、もともと地声体感のある女性も、カルグラやってみるととりあえず皆さん音量が大きくなりますね。

あとはカルグラはSOVTE(Semi-occluded vocal tract exercises)の一種だと考えられていて、声帯の動きを補助するような効果もあります。

更に、クラシックでは基本仮声帯は接近していないほうがいいとされていますが、仮声帯がなんなのかわからないのに仮声帯開いてーと言っても体感的にわからないので、一回逆の状態、仮声帯接触の感覚を知るというのは意義深いです。

接触を知ってこそ開大がわかる。


傾向その4「開鼻」

こいつがなかなか厄介で、長年の課題となる方が多いです。

わりとクレヨンしんちゃんのボーちゃんのモノマネをすると良くなる方が多いような気がします。

彼いつも鼻を垂らしてるんですが、ようは鼻詰まり声なんですよね。

モノマネすることで閉鼻の感覚が身につきます。

SLSではgの子音で対応することが多いようです。ngにならないように「ガッガッガッ」とかですね。

個人的にはgよりもpとかbのほうが効果があるような気がしています。

あるいは先程の仮声帯の例でもありましたが、逆に開鼻の状態を知るということで、そうじゃない方を知るという手もあります。

こちらは瀬川瑛子さんのモノマネをおすすめしています。

実は瀬川瑛子さんってそんなに開鼻でもないのですが、モノマネで強調すると開鼻の練習になるんですね。なのでおもいっきり強調しましょう笑

あるいはえなりかずきさんとか、さだまさしさんとか、モノマネすると開鼻が強調される方他にもいらっしゃいますね。

開鼻と閉鼻の状態がわかったら、鼻をつまみながら、開鼻と閉鼻の切り替えを練習するといいと思います。

母音はなんでもいいですが、「あーーーー」とか言いながら「開鼻ー閉鼻ー開鼻ー閉鼻」って感じで繰り返します。

できるようになったら開鼻から閉鼻に行く途中でとめて、「ちょっと開鼻」っていう状態も練習するといいと思います。


今回はこのくらいにしておこうと思います。

傾向その5「だんご舌」
傾向その6「狭母音が苦手」
傾向その7「特定の子音が発音できない」
ビブラート問題

の対策編です。

合唱発声の一般的傾向と対策3

3つ目の記事です。

過去の記事はこちら↓

合唱発声の一般的傾向と対策1

合唱発声の一般的傾向と対策2


傾向その6「狭母音が苦手」

これは発声というよりは発音なのですが、発声が発音に影響しているという意味で発声の問題に直結しています。

逆に言うと、発音を改善すれば、発声も改善する可能性があります。

母音は基本的に舌の位置(最も高い位置がどこにあるか)と唇の形(円唇か非円唇)かで決まりますが、狭母音というのは、舌の位置が高い母音のことです。

http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/vowel.phpより引用

今回ラテン語で用いた狭母音は非円唇前舌狭母音[i]と円唇奥舌狭母音[u]です。

非円唇前舌狭母音[i]

i母音は舌の前の方を口蓋に接近させて作ります。言い換えると前の方で口蓋と舌のトップとの間が「狭い」とiという母音になります。

その際舌の先端は舌の歯のあたりについたままです。前舌母音というと下の先端を口蓋につけようとする方がいらっしゃいますがそれは誤りです。

i母音で陥りやすい傾向は2つです。

1つ目は、口蓋と舌の狭さを作るために顎を狭くしてしまうこと。

特にクラシックの場合は、音色が変わりすぎてしまうことを避けるために、顎の広さを確保しておくことが必要です。

顎を広くしたまま口蓋と舌を狭くするには、舌の方をがんばって高く保つということが必要です。結構努力感必要だと思います。慣れないと。

2つ目は、おそらくだんご舌の影響で舌が奥に行ってしまい、i母音がe母音に近づいてしまうことです。

そしてiっぽさを作るために閉鎖を強めてしまって、さらに音が硬い印象になってしまうということがあります。

円唇奥舌狭母音[u]

u母音はi母音同様口蓋と舌の間を狭くしますが、iよりも奥の方で狭めをつくります。

なので、aの時よりも舌が高い位置にいなければならないのですが、ほとんどの方が、a→o→uと変化するにしたがって、舌が下がっていきます(同時に喉頭が下がります)。

これは、ラテン語のuは日本語の「う」と違って深いんですよ。と言われ続けた結果だと思います。

イメージだけで「深く」と思うと喉頭が下がって舌も下がります。

その結果uには聞こえない、ひいき目にみてo?のような発音になって今います。

深いというよりは、暗くこもった音です。


傾向その7「特定の子音が発音できない」

これも発声というよりは発音の問題なんですが、やはり発声と密接に結びついていますので、ここで取り上げることとします。

語末、音節末のn,mが発音できない

今回の曲、最初のところがSpem in alium nunquam habuiという歌詞なのですが、ほとんどの音節がnかmで終わるんです。これが言えない人が本当に多かった。

語末のn,mは次の単語が母音から始まる場合はくっつけていいよって言ってもできない方が多かったです。

特に多かったのはnunquamのnで、これは日本語の「ん」の発音にひっぱられていることが原因と思われます。

nの発音は歯茎鼻音といいまして歯茎に舌の先端をつける鼻音なのですが、日本語の「ん」は歯茎鼻音を含め5つの発音があるといわれています。

詳しい説明は他に譲りますが、例えば「日本」というときの「ん」と「日本橋」という時の「ん」へ別の発音です。

前後関係で発音が変わる「ん」のイメージに引っ張られてnの発音が揺れてしまうんですね。

またこうした鼻音が多いセンテンスでは、母音が鼻母音化してしまう人が多いです。

傾向その4「開鼻」とつながります。開鼻傾向のある方は、鼻音の多いセクションではより一層その傾向が強まります。

lが鼻音化する

これも開鼻問題とつながっています。

lは側音といいまして、舌の先端を歯茎につけて、舌の横から息を流すようにして発音します。

ここで開鼻になっていると、lが非常にあいまいになって、nのように聞こえます。

nは歯茎鼻音でした。下の付ける位置がlと近いので、lが鼻音化するとnに聞こえてしまうんです。

日本の英語教育では、rの発音は日本語と違いますから気を付けましょう的なことにはフォーカスしていると思うのですが、lの発音が日本語と違うということにはあまりフォーカスしていないという印象があるのですが、その影響も大きいかなと思います。

lの発音自体を誤解している方も多いのではないかと思います。日本語のらりるれろとはこれも違う発音なので、やはり練習が必要だと思います。

rは巻けるのにtrは巻けない

これ私最近自分の合唱団にこういう方がいて、ほーそういうパターンもあるのかと思ったのですが、今回の企画の中でも結構いらっしゃいました。

一般的傾向とまでは言えなくても、かなり多くの方に現れる症状としてここに書き留めておく価値があると思います。

どうなっちゃうかといいますと、r単体では普通に巻き舌ができるのですが、trになると、英語のtreeみたいな発音になっちゃうんです。tribulationeという単語でこれが起こる人が多かったです。

やはり外国語を発音する際に、子どものころに習った英語の発音にひっぱられてしまうということは結構あるようですね。

似たような例としては、音節末のlが英語のdark lのように母音化してしまうという症状や、ドイツ語でerとつづるときに母音化したrが英語のrのようになってしまうなどが挙げられると思います。


ビブラート問題

さて、これも傾向とは違うはなしなんですが、ビブラートについてです。これは昔からあらゆる合唱人を悩ませてきた根強い問題です。

ビブラートがかかっちゃう人自身が問題意識を持っている場合もあれば、仲間にビブラートがかかっちゃう人がいてどうしたもんかと気をもんでいる方も多いでしょう。

これがですねえ。ビブラートが起こる仕組みというのがイマイチよくわかってなくて、直し方もコレっていうのがないんですよね。私の知る限り。

ただ、

・例えばソプラノという声種を選択した方に多い(ほかの声種にいないわけではない)

・プリングチェスト傾向の方に多い(あるいは目立つというだけかも)

・音程と音量が両方著しく揺れる場合、音程はそれほど揺れていないのに音量が激しく揺れている場合がある。そして後者はあまり気にならない

ということに今回気づきました。

音程も音量も揺れが著しい
音程はそんなに揺れていない

波形を見るのがおもしろくて、途中から編集作業の中のちょっとした楽しみになっていました。ビブラート波形コレクターみたいな感じで、おおこれは!と思ったものはスクショ撮ったりしてました(笑)

謎深いビブラート問題ですが、最近試している方法で、少なくとも一部の方には効果が出ている方法を対策編ではご紹介しようと思います。


いやはや、またもや対策編に入れませんでした。

何しろ電車の中か出先のカフェとかでしか書けてないので、なかなか進まなくて申し訳ないです。

次回はいよいよ対策編です。

合唱発声の一般的傾向と対策2

合唱発声の一般的傾向と対策2

前回の記事からの続きです。

前回は、傾向1「高音域プリングチェスト&低音域ライトチェスト」についてお話しました。


傾向その2「声帯がstiffの状態」

これは傾向その1とも関連しているんですが、声帯がstiffの状態、つまり硬い状態になっていて、息もれになっている人が非常に多いです。

下の方がスカスカになってるのはこの声帯の状態が影響している人もかなり多いです。

これも男性女性共通でした。

倍音豊かな声を出すためには声帯は柔らかく使えた方がいいです。

もちろん表現として息もれ声を使いたいときはstiffの状態を作れるということも必要です。


傾向その3「裏声のない男性、地声のない女性」

これもその1とかかわっています。

男性の場合、声帯を薄くするということができない方は裏声を出すことができません。なので地声で張り上げたまま音域を上げていって、ある音程より上は全くでないという状態になっています。

女性の場合、裏声で歌うことに慣れてしまって、逆に声帯を厚く使うということができない方が多いです。

それで音が鳴らなくなってきて、声帯が硬くて薄いままただただ力んで声が震えちゃう。そういうパターンも多かったです。

先ほども書きましたが低い方は声帯を引き延ばす筋肉、縮める筋肉両方緩めなければならないので、その緩め方がわからなくなっているという感じでしょうか。


傾向その4「開鼻」

これまで書いた傾向も、「こういう声を出さなきゃいけない」「こういう声は出しちゃいけない」という強迫観念から生まれた傾向だと思います。

合唱の場合は、「邪魔になるような声を出しちゃいけない」ということが潜在意識に刷り込まれてる人が多いのではないでしょうか。

開鼻というのは喉頭から鼻腔への出口が空いている状態で、ここが空いていると鼻腔と口腔に共鳴腔が二股にわかれてしまって、エネルギーが減ります。

聴覚印象上はこもったような感じの声になります。

よく発声の指導で「鼻腔に響かせて」って指導されること、どなたでも一回はあるんじゃないかと思うんですが、その結果でもあると思います。

いわゆる鼻声ですね。ただ鼻声ってのも2種類あって、鼻にかかった声と、鼻詰まり声、これ両方「鼻声」っていうんですよね。

これまたややこしい。鼻詰まり声の方は「閉鼻」といって鼻腔への出口が閉じている状態です。開鼻の逆ですね。

それで、「鼻腔に響かせて」ということは開鼻ということになるのですが、これではさっき言ったようにエネルギーが分散してこもった感じになるんです。

ということは「鼻腔に響かせて」という言い方が間違っているかというとあながちそうとも言い切れなくて、鼻腔への出口がちょっとだけ空いているとシンガーズフォルマントが強調されやすいということもわかっているようなので、「鼻腔に響かせて」というのはおそらくそのことを言っているのだと思います。

ただまあ難しいんですよね。ちょうどよく隙間を開けるの。芯のある音を目指すなら、基本閉鼻気味で、ちょっとだけ開鼻でもいい。くらいに考えておくといいのではないかと思います。

ちなみに開鼻になっているかどうかを自分で判断するのは結構簡単で、鼻つまんで声を出せばいいんです。

声を出して、鼻をつまむ。鼻をつまんで音が変わる声は開鼻、変わらない声は閉鼻です。

説明が長くなりましたが、開鼻のこもった感じの音って邪魔にはなりにくいんですね。エネルギーが減っているので。

「鼻腔に響かせて」という指導言、そして邪魔にならない声を出そうという強迫観念の結果、開鼻になる人が多いのだと思います。


傾向その5「だんご舌」

クラシックっぽい音を作ろうとした結果「だんご舌」といいまして、舌が奥の方で固まって発音が不明瞭になるということがあります。これもまた聴覚印象上こもった感じの音声になります。

クラシック的発声の特徴として「舌の圧搾」というテクニックは確かにあります。

これがクラシックぽい発声の最も大きなファクターと言ってもいいくらいだと思います。(女性の場合はこれに加え、フォルマント同調)

舌の圧搾もまたいかに音量を稼ぐか(通る声にするか)という必要から生まれたテクニックだと理解していますが、これをすると確かにシンガーズフォルマントが強調されるそうです。

喉頭蓋の操作、ちょっとだけ開鼻、そして舌の圧搾によってシンガーズフォルマントを強調する、というのが男性クラシック歌手の特徴かと思います。

女性の場合はこれに加え(かあるいは喉頭蓋はやってないのかも?)フォルマント同調を使ってる。

そんな感じで私は理解しています。

でまあ問題は私たちがやっているようなジャンル、アカペラの合唱とかアンサンブルとかで、舌の圧搾が必要になるほど音量を出す必要があるのか。

多分ないと思うんですよね。

音量を出すために生まれたテクニックを音量がそれほど求められないジャンルで使う必要はない。

それに舌の圧搾は音量と引き換えに発音の明瞭さを損ないます。

母音は舌の位置によって決まるので、舌を圧搾しているとその動きが邪魔されるのがわかると思います。

更に、多くの方がこのクラシックっぽい音を作ろうとしてやっているのは、舌を奥の方で固める「だんご舌」であって、テクニックとしての「舌の圧搾」とはちょっと違うんですね。

こもった暗い音色で、その上発音の邪魔をしている。

いいことないのでやめた方がいいと思います。


さて、今回もまた長くなってしまったのでここまでにしたいと思います。

次回はこの流れで発音について、あとビブラート問題にも少し触れて、いよいよ対策編に入りたいと思います。